投資心理学は人間の心理が投資行動にどのような影響を与えるかを研究する学問で、「行動ファイナンス理論」とも呼ばれます。投資心理学では、人間は常に合理的に意思決定をしているわけではないことを前提としています。人間は感情や偏見、思い込みによって不合理な判断を下すことがあるからです。投資心理学では、こうした非合理的な意思決定を理解し、克服する方法を研究しています。投資で損をするとわかっていながら、決断が遅れて損を拡大してしまったという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか? なぜ人間はこのような非合理的な判断をしてしまうのでしょうか。投資家心理の謎は、主に経済学と心理学を組み合わせた「行動経済学」の分野で明らかにされてきています。身近な事例をたどりながら、"失敗の本質"を探っていきます。
投資での失敗を認めたくない心理とは
「ナンピン買い」という投資手法があります。株価が下落した際に買い増しすることで、平均取得価格を下げる投資手法です。元の購入価格に戻れば利益が発生しますが、さらに株価が下落すれば損失が拡大します。ナンピン買いは、「損失回避性」の心理が働いているときによく使われる手法です。株価が下落すると、人は損失を回避しようと強く思うようになります。そのため、株価がさらに下落する前に買い増しをするのです。しかし、短絡的なナンピン買いは危険です。株価がさらに下がれば、損失は拡大する一方になります。また、ナンピン買いで平均取得価格が下がっても、利益を出すためには、当初の購入価格よりも高い価格で売却する必要があります。株価が上昇する確率が高いことを前提にしているため、リスクの高い手法といえるでしょう。
ナンピン買いをするなら、その結果を慎重に検討する必要があります。株価が下がったときの損失を避けたいという気持ちもあるかもしれませんが、そもそもナンピン買いはリスクの高い投資手法であることを忘れてはいけません。たとえば、2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックなどのような「株価が暴落する局面」でナンピン買いをすると、多くの場合、大きな損失を被ることになります。
ナンピン買いのリスクを回避するためには、以下の点に注意する必要があります。
- 株価が下落した理由をしっかりと理解すること
- それでもナンピン買いをする場合、まずは少額の資金で行うこと
あらためていいますが、ナンピン買いは「いくら慎重に検討しても、リスクがなくならないとは言い切れないリスクの高い投資手法」です。ナンピン買いでは、買った価格(参照点)からの値動きで判断してしまう「参照点依存性」という心理も働くので、もしナンピン買いの衝動に駆られた時は、自身の心理状態を冷静に見つめる時間を持った方がよいでしょう。
投資心理のバイアスを回避するためには
投資には不確実性が伴います。そして、人間の判断はしばしばバイアスに左右されます。バイアスとは、個人の信念や期待に基づく情報の歪曲や解釈のことです。バイアスは、投資判断に悪影響を及ぼし、損失につながる可能性があります。
投資におけるバイアスには、以下のようなものがあります。
1. 確証バイアス
自分の信念を支持する情報に焦点を絞り、それを否定する情報を無視する傾向のことです。確証バイアスによって自分の信念に反する情報に目をつぶり、不利な取引をしてしまうことがあります。
2. アンカー効果
最初の情報に強く影響される傾向のことです。アンカー効果では、最初の情報に影響され、その後のトレードでミスをすることがあります。
3. 損失回避バイアス
損失を利益よりも大きく認識する傾向です。損失回避バイアスでは、損失を回避するために、利益よりもリスクの高い取引を行うことがあります。
4. 現状維持バイアス
現状の変化を好まない傾向のことです。現状維持バイアスがあると新しい情報や機会を受け入れることが難しくなるため、結果的にチャンスを逃がし、不利な取引を選択してしまう可能性があります。
投資で成功するためには、これらのバイアスを認識し、その影響に冷静に対処することが重要です。バイアスを認識することで、自分の判断が偏っていることに気づき、より合理的な意思決定ができるようになります。また、行動経済学や(行動経済学に基づく投資理論である)行動ファイナンスの研究は、バイアスを克服する方法を学ぶのに役立ちます。バイアスは避けられないものですが、その影響に対処することで、投資のパフォーマンスを向上できるのです。
初心者向けの投資戦略
投資の心理学とは、投資家がどのように意思決定し、行動するかを研究する学問です。行動経済学によると、人は必ずしも合理的に行動するわけではありません。これは投資にも当てはまります。たとえば、人は損失を避けようとする傾向があります。これは、損失が利益よりも人間の感情に大きな影響を与えるからです。そのため、損失が出ることを恐れて、拙速に売ってしまうこともあります。また、人は自分の能力を過大評価する傾向があります。これは、成功したことだけを覚えていて、失敗したことを忘れてしまうからです。危険な投資をしてしまう人は、自分の能力に過度な自信を持っている人ともいえるでしょう。
投資の心理を理解することで、こうした行動を避け、より良い投資ができます。ただ、投資初心者にとって行動経済学はピンとこないかもしれません。以下に、行動経済学に基づいた初心者向けのおすすめの投資戦略を紹介します。
1. 積立投資
毎月一定額を投資する方法です。株価の上下を気にすることなく、長期的に資産を形成できます。
2. 分散投資
異なる資産に投資することです。これによりリスクを分散させ、損失を最小限に抑えることができます。
3. 投資信託の購入
プロの運用者(ファンドマネージャー)が資産を管理する商品です。そのため、自分で投資判断をする必要がありません。投資にはリスクが伴うので、初心者は少額から始めることをお勧めします。また、自分の性格やリスク許容度に合った投資戦略を選ぶことが大切です。
投資を仕組み化して感情に左右されないようにする
投資の目的は、短期的な利益を目指すのか、長期的な資産形成を目指すのかによって異なります。短期的な利益を狙う場合は、プロスペクト理論などで記述されるような「人の不合理な行動」を理解することが重要になります。一方、長期的な資産形成を目指す場合は、価格変動の影響を受けにくい仕組みを作ることが効果的です。
「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「つみたてNISA」は、いずれも短期的な相場の変動の影響を受けにくい仕組みです。iDeCoは公的年金にプラスして給付を受けられる私的年金制度です。毎月掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで運用します。運用した資産は、原則60歳以降に年金または一時金で受け取ることができます。つみたてNISAは、毎月少額を投資信託で積み立てることができ、どちらも長期的な資産形成に適しています。
個人投資家はプロの投資家と違って、常に市場に張り付いて投資判断する必要はありません。じっくりと時間をかけて資産を形成することが大切です。投資は短期的な売買だけではありません。株式などの有価証券を長期間保有することも投資です。
投資を始める前に自分の目的を明確にし、それに合った投資方法を選択するようにしましょう。
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