DXの推進にはツールの導入が欠かせません。業務の効率化はもちろん、DXツールはさまざまな経営課題を解決に導いてくれます。ただし、ツールの導入にはコストや労力がかかるため、導入環境や目的を踏まえて自社に合ったものを選ぶ必要があります。

目次

  1. DX推進にツールが必要な理由
  2. DXツールの考え方とは?単なるIT化やデジタル化との違い
  3. 代表的なDXツールを紹介
  4. DXツールを選ぶ3つのポイント
  5. DXツールの導入で注意したいこと
  6. DXツールの導入前にはビジョンを明確にしよう

DX推進にツールが必要な理由

DXツールを選ぶポイントとは?事例から学ぶコツや注意点
(画像=picturecells/stock.adobe.com)

そもそも、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何を指すのでしょうか。経済産業省が2020年11月9日に策定した「デジタルガバナンス・コード2.0」によると、DXは以下のように定義されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

(引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」) 

DXはビジネス全体の変革と競争力の向上が目的であり、その推進には「データ」と「デジタル技術」が用いられます。実際にどのようなものが活用されているのか、いくつか例を見てみましょう。

データの例デジタル技術の例
・ニーズを分析するための顧客データ
・市場分析に用いる他社データ
・開発計画を立てるための製品データ
・業務解析や画像処理などに使うAI技術
・情報収集や共有などに用いるIoT
・情報インフラの役割を担うクラウド

あらゆる観点からビジネスを変革するには、事業や競合、市場などに関する膨大なデータが必要です。また、収集したデータを最大限活用するために、AIやIoTといったデジタル技術も欠かせません。

これらの役割を担う存在として、DX推進では効率的かつ高精度に作業を進めるツールが必要になります。

DXツールの考え方とは?単なるIT化やデジタル化との違い

DXの推進では、現在抱えている課題や将来のビジョンを踏まえて、費用対効果の高いツールを選ぶことが重要です。方向性を間違えないように、「IT化」や「デジタル化」との違いも確認しておきましょう。

主な違いDX化IT化デジタル化
意味データやデジタル技術で、ビジネス全体を変革すること情報技術で業務を効率化することアナログな業務をデジタルへ移行させること
目的組織や業務などの変革、競争力の向上業務プロセスの効率化業務プロセスの効率化
範囲社内、社外主に社内主に社内

IT化とデジタル化は、主に社内の業務プロセスを効率化する目的で行われます。例としては、情報共有や会議にチャットツールを導入する施策(IT化)や、紙の資料からデータに移行するペーパーレス化(デジタル化)が挙げられます。

一方で、DX化ではビジネスモデルや会社全体を変革するために、社外に向けても施策を打ち出します。同業他社と協力してデータや販路を共有するなど、業界構造を変えるために複数社で取り組む例も少なくありません。

つまり、IT化やデジタル化はDX化の手段であり、DXを推進するにはさらに視野を広げる必要があります。

代表的なDXツールを紹介

業務効率化やコスト削減を実現するには、どのようなDXツールを導入すれば良いのでしょうか。ここからは経営課題や目的に分けて、代表的なDXツールをまとめました。

テレワークの推進につながる「オンライン会議システム」や「ビジネスチャット」

分かりやすいDXツールとしては、遠隔地でも顔を合わせてミーティングができる「オンライン会議システム」や、メールの代用として使われる「ビジネスチャット」があります。近年ではテレワークが注目されている影響で、これらのDXツールを活用する企業が増えました。

中でも、さまざまなコミュニケーション機能(ファイルやスケジュール共有、ビデオ通話など)を併せもつDXツールは、「コラボレーションツール」と呼ばれています。

<オンライン会議システムやビジネスチャットの活用例>
・文字起こし機能で議事録を作成しながら、社内のミーティングを行う
・他社とのコミュニケーションツールとして活用する
・ファイル共有やデータ等の納品作業をビジネスチャットで行う

これらのDXツールは、従業員の働き方改革や移動負担の軽減につながります。一方で、情報漏えいやコミュニケーション障害(タイムラグや通信障害など)のリスクもあるため、導入範囲は慎重に判断しましょう。

事務処理や意思決定のスピードアップを図れる「ワークフローシステム」

ワークフローシステムは、主に事務処理を電子化するためのDXツールです。業務内容をシステム上で定義すると、状況をモニタリングしながら書類作成などが自動的に行われます。

<ワークフローシステムの活用例>
・注文内容に応じて伝票や請求書を自動作成する
・出張報告や休日申請などをネットワーク上でやり取り(申請や承認)する
・稟議書を電子化し、進捗状況や内容を常にモニタリングする

ワークフローシステムの導入メリットは、単純な作業や意思決定のスピードアップを図れる点です。また、各書類をデータで管理する形になるため、ペーパーレス化も実現できるでしょう。

ただし、中には定義化が難しい業務もあるので、導入前には業務プロセスや社内ルール、既存システムの見直しが必要です。

事務作業を自動化かつ高速化する「RPA」

RPA(Robotic Process Automation)は、主にパソコン上での業務プロセスを自動化できるツールです。データの入力や転記などを高速で行えるため、事務作業の軽減に役立ちます。

<RPAの活用例>
・顧客データなどを複数のシステムに入力する
・登録済みのデータを別のシステムに転記する
・システム内のデータを参照してレポートを作成する

RPAの導入メリットとしては、業務効率化による人材不足の解消や、コア事業への注力が挙げられます。運用までに時間はかかりますが、単純作業から解放された従業員のモチベーションが上がる可能性もあります。

ペーパーレス化を促進する「電子決裁システム」

電子決裁システムは、稟議書や契約書などの作成・保存・管理までを一元化できるツールです。書類作成はもちろん、捺印や承認作業、送付などもオンライン環境で行えるため、ペーパーレス化を推進する効果が期待できます。

<電子決裁システムの活用例>
・稟議書を社内外に共有し、確認が終わったら電子署名をする
・契約書のデータを取引先に送付し、電子署名によって承認してもらう
・リマインドの日時を設定し、契約書の確認忘れや合意漏れを防ぐ

電子決裁システムは契約・承認までのスピードアップにもつながりますが、多くの添付資料が必要な書類や、紙での提出が求められる書類(会計関係など)には適しません。また、共有範囲を誤ると、契約内容などが漏えいするリスクもあるため、扱い方を十分に理解しておく必要があります。

顧客データの記録・管理を一元化できる「CRM」

CRM(Customer Relationship Management)は、企業と顧客のやり取りをデータとして記録・管理できるツールです。顧客情報の管理を一元化できるため、ニーズに合わせた素早い対応が可能になります。

<CRMの活用例>
・登録した顧客データをもとに経営分析をする
・対応履歴を確認しながら、ひとり一人の顧客に合わせたサービスを提供する
・ニーズの変化をいち早く察知し、商品やサービスに反映させる

CRMの登録データは簡単に社内共有ができるため、経験が少ない人材も活用しやすくなります。ただし、高度な分析には十分なデータが必要であり、効果が表れるまでに時間がかかることもあります。

過去の実績をもとに営業活動を分析できる「SFA」

SFA(Sales Force Automation)は、営業活動におけるデータを収集・管理するツールです。基本的な顧客情報に加えて、案件の進捗状況や商談内容も記録できるため、過去の実績をもとに顧客へのアプローチを分析できます。

<SFAの活用例>
・営業活動の費用対効果を分析する
・営業活動の中身を見える化し、不安要素や課題を洗い出す
・長く訪問していない顧客を見つけて営業機会を増やす

売上アップに貢献するツールですが、SFAの導入では入力項目に注意する必要があります。入力作業に時間がかかり過ぎると、かえって営業効率が下がってしまう可能性もあるので、必要最低限の項目数に留めましょう。

マーケティング全体の改善に役立つ「MA」

マーケティング全体を改善したい場合は、「MA(Marketing Automation)」の導入を検討してみましょう。MAには顧客データの登録・分析機能に加えて、簡単な業務の自動化や顧客をスコアリングする機能も備わっています。

<MAの活用例>
・顧客の行動ややり取りなどの情報をデータ化する
・メルマガやSNSでの情報発信を自動化する
・スコアリング(関心度など)によって見込み顧客を探す

MAでは優先度の高い見込み顧客を探し、各顧客に合わせたチャネルで情報発信ができます。ただし、そのためには膨大なデータや分析が必要になるので、効果が表れるまでにはある程度の時間を要します。

高度な経営分析や意思決定に役立つ「BI」

BI(Business Intelligence)は、営業や人事などの経営全体に関するデータを収集・分析できるツールです。ツールによっては高度な分析機能や予測機能が備わっているため、BIは経営分析や意思決定に役立ちます。

<BIの活用例>
・分析がしやすいように、重要な経営データをグラフ化する
・顧客のニーズに合わせてデータの収集や抽出を行う
・分析したデータをレポートや報告書として出力する

導入のメリットが大きい部門としては、業績報告や決算情報の処理が必要になる経理が挙げられます。また、適材適所な配置が求められる人事部門や、効率的なアプローチが求められる営業部門・マーケティング部門でも導入効果を期待できるでしょう。

なお、自社サーバーやレンタル代が不要なBIもありますが、機能性やセキュリティ性が十分ではないサービスもあるので注意してください。

DXツールを選ぶ3つのポイント

一つの種類だけを見ても、DXツールにはさまざまなものがあります。費用対効果の高いツールを選ぶには、以下のポイントを意識することが重要です。

1.経営課題を解決できるか

DXツールの選ぶ際には、「経営課題を解決できること」が前提になります。いくら高性能なツールを選んでも、目的を達成できないと導入メリットはありません。

そのため、まずは以下の流れで経営課題を明確にすることから始めましょう。

<経営課題を明確にする流れ>
1.明確な経営目標を立てる
2.業務プロセスを見える化する
3.現状での課題を抽出する
4.どのようなデータやシステムがあるか確認する

自社の経営課題が分かったら、次はその課題を解決するためのツールを調査します。なお、高度なシステムの実装が難しいこともあるため、「技術的に実現できるか」も確認しながら計画を立てましょう。

2.導入のハードルやコスト

DXツールには技術的なハードルの他、コスト面の問題もあります。多くの費用や労力がかかると、新たな経営課題に直面するリスクがあるため、導入前には実現難易度のチェックも必要です。

<実現難易度のチェック項目>
・初期コストや維持コストが大きすぎないか
・どれくらいの売上アップやコスト削減を見込めるか
・利用できるデータが不足していないか
・必要なシステムが構築されているか
・高精度なツールではなくても一定の効果を見込めるか
・業務プロセスの大幅な変更は必要ないか
・ステークホルダーへの影響は大きくないか

また、定量的・短期的な効果が見えづらいツールの場合は、従業員のモチベーションが下がることも考えられます。そのため、「いつまでに効果が表れるのか」についても、構想段階で明確にしておきましょう。

3.現場の担当者が使いやすいか

導入したDXツールを使うのは、あくまで現場の担当者です。長期的には負担が減る場合であっても、いきなり業務プロセスが変わると従業員はストレスを抱えます。

そのため、DXツールを選ぶ前には現場へのヒアリングを徹底し、従業員が求めているものを明確にしましょう。上層部と現場の意思を統一させることが、DX化の成功につながります。

DXツールの導入で注意したいこと

経営課題だけに目を向けてDXツールを導入すると、ユーザーや従業員に不利益が生じることもあります。周りから反発されるリスクを抑えるために、導入時には以下の注意点を意識しましょう。

既存システムとの連携や拡張性

DXツールは万能ではないため、既存システムと連携できないことがあります。この場合は、既存システムに合うツールを開発するか、導入予定のツールに合わせて業務プロセスを見直さなければなりません。

いずれの方法も大きなコストがかかるため、導入したいDXツールを見つけたら「既存システムと連携できるか」「どの業務まで拡張できるか」を確認しましょう。

複雑な機能やUIはかえって扱いづらい

高性能なツールはDXの範囲を広げられますが、機能やUIが複雑化し過ぎると、以下のような弊害が生じるかもしれません。

<複雑なDXツールによる弊害>
・使わない機能が多く、導入コストや維持コストが無駄になっている
・操作が難しく、一定のスキルがある従業員しか扱えない
・売上はアップしたものの、業務自体の負担は重くなった

中でも製品として販売されているDXツールは、企業によって使用感が変わります。対象範囲を無理に広げる必要はないため、まずは自社の従業員でも扱えるものを探し、もし見つからない場合は社内で構築することを考えましょう。

DXツールはアップデートや見直しが必要

DXツールの導入後にプロセスやルールが変わった場合は、アップデートや見直しが必要です。アップデートなどを外注すると、その都度コストがかかったり時間を要したりする可能性があるので、基本的には社内でのメンテナンスを考えましょう。

DX人材は獲得競争が激化しているため、ツール選びと同時並行で採用活動や人材育成にも取り組むことが重要です。

DXツールの導入前にはビジョンを明確にしよう

DXツールは、経営課題の解決のために導入するものです。高度なツールを導入しても、期待した効果が表れないとメリットはありません。

現場の声にも耳を傾けながら、まずは導入のビジョンを明確にすることから始めましょう。

(提供:Koto Online