株式会社Mマートの創業者であり現代表取締役社長の村橋孝嶺氏は、業務用電子商取引の世界を変革し、新たな仕入れのインフラを作り出してきた。

毎月1000件以上の買い手を集め、数多くの企業と顧客に利用されるサービスを展開し、業界のリーダーとして活躍する村橋氏に、そのビジョンと成功の秘訣について語っていただいた。 (執筆・構成=川村 真史)

Mマートアイキャッチ
(画像=株式会社Mマート)
村橋 孝嶺 (むらはし こうれい)
株式会社Mマート代表取締役社長
1936年生まれ。20歳から飲食業界で経営に従事。途中、複数業界の全国リーダーも経験しながら、2000年にMマート起業、64歳の経営者によるネットベンチャーが誕生する。起業のきっかけは、食材の仕入先発見が困難で、PCやネットも初めてだったが自分でやるしかないと思ったため。創業後は「Mマート」はじめ買い手目線の複数サイトを展開。2018年に東証マザーズ(現グロース)上場。シリアルアントレプレナー最年長組として名を馳せる。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

起業と事業の変遷について

Mマートロゴ

冨田:それでは、始めさせていただきます。Mマートは2018年に上場しましたね。まず最初に、その時の状況を教えていただけますか?

村橋:はい。私たちは2018年に上場させていただきました。我々はその年の最初の上場企業で、非常に明るいIPOマーケットになりました。

私が自分で経営し始めたのは20歳の時で、そこからもう既に60数年間経営をしています。

Mマートを設立したのが64歳の時ですが、それ以前も飲食店を経営していました。いろんな事業をやりましたが、飲食店だけは絶えずにやっていました。その時は、だんだんと仕入れが難しくなってきていることを感じていました。

従来の仕組みでは、配達してくれる人には、他にどんな商品があるのか、値段はいくらかなどがわからないんです。飲食店の宿命として、毎月3種類か4種類の新メニューを考案しないと差別化できないし、お客さんがついてこない。しかし、新メニューを考案するためには、どういう食材があるのかをわからなければいけないんです。

冨田:それで、ネットを使って仕入れを改善しようと思ったのですか?

村橋:そうです。1999年の12月に初めてパソコンを見て、ネットを使ってみようと思いました。同じ食材のB2Bをやっているところがあるかと探したら、先行している上場企業がありました。しかし、そこはお金を払わないと中に入れないシステムでした。

日本人の感覚として、食材を買いに行くのに入場料を取るのはおかしいと思いましたが、結局6万円払って見に行きました。しかし、そのサービスは中小企業には使いづらく、大手企業向けのものでした。日本の場合には99.7%が中小企業ですから、大多数は使えないと思いました。

そこで、自分でやろうと決意したのが、1999年の12月30日でした。その後、2月25日には会社を設立してオープンしていました。本当に何も知らないからできたと思います。今のようにこの業界のことを知っていれば、ちょっと怖くてできなかったかもしれません。ただ、盲蛇に怖じず、とにかく理屈でやればいいという形で始めました。

冨田:その後、どのような取り組みを行いましたか?

村橋:当時、私は自分なりに食材の生産地や確保地、賞味期限、冷凍か冷蔵かなど、材料に関する情報の提供を重視し、それらを全て表に出していました。

そのことで、当社は業界で「バカだ」と言われ、すぐに潰れると散々言われました。しかし、私が同業他社を見ると、彼らは先行企業を成功例だと信じ込み、情報を閉鎖していました。そのため、値段もわからず、ある意味、情報を金で買ってもらうような仕組みになっていました。

インターネットではセールスマンがいないため、商品や製品自体を自分で売らなければならないわけです。そのため、情報を隠しておいてお金を払ったら見せるようなことはうまくいかず、結局、当社を潰れると言っていた企業は撤退し、うちだけが残ることになりました。これは、情報をすべてオープンにしたことでお客さんからの信頼を得られたからです。

冨田:それでは、現在もお客さんからの信頼を維持するために、どのような取り組みを続けていますか?

村橋:私たちは、情報を素早く、詳しく、正直に伝えるということを徹底して取り組んでおり、それがお客さんの信頼を積み上げるための秘訣だと考えています。その取り組みを今日まで続けていることが、成功の要因だと思います。

Mマートの強みとは

Mマート事業系統図

冨田:事業編成について非常に歴史があることを含めてお話ができたと思います。村橋社長にお話しいただいた中でも色々と触れていただきましたが、改めて自社の事業の強みや他社に対する競争優位性は、周辺業界も踏まえてどういったところにあるとに理解すればいいでしょうか?

村橋:弊社に限らずですが、ネットでビジネスをする場合にはセールスマンがいないので、出展者が出品している商品自体が自分で自分を売らなければいけません。我々のようにeマーケットプレイスをやっている人たちにとってはいかに自分で自分を売る仕組みができるかということが重要です。

最近シリコンバレーでもよく言われますが、自動で回転していく、自動でお客さんが増えていく、回転が増えていく、売上が自動で増えていく、そういう弾み車的なものを自分のコンテンツの中に作っていかないといけません。それをオープンして1年後くらいで気が付いて、その弾み車的なものを作成することに成功したので、いまだに何年もずっと続けて上場前から毎月コンスタントに1000社以上の買い手が登録してくれるんです。

うちの場合は買い手を探しに行く営業は一人もいないんですよ。全くほったらかしでも、全国から1000社以上がコンスタントに入ってくる。先月も1200社くらいで、今月もおそらく1300社くらいいるんじゃないかと思います。買い手が自動的に増えていきます。当然B2Bですから買うために買い手登録するわけで、B2Cと違ってネットサーフィンなんかしませんから。買うための買い手登録ですから、やっぱり大体意味のある買い手登録なんですね。

そうすると、その分だけ売上が増える。そうすると売り手さんも安心してまた増えていくという形で、それが弾み車みたいに回っていくということですね。それを構築するのにうまくいったもんですから、今日までうまくできたのはそれが一番大きなポイントだったかと思っています。

冨田:ありがとうございます。

IR資料の中でもビジネスの特徴として、デジタルプラットフォーマーとしての発想や、経営面・営業面・開発面・財務面といった強みを挙げられていました。しかし、そのコアな部分は何でしょうか。例えば、モノタロウという会社は工具製造業における業務をプラットフォーム化していると思いますが、食品業界や飲食の周辺領域における業務用マーケットは、Mマートさんがどんどん取っていっていると感じます。

村橋社長は20歳の時に起業されたとのことですが、経営者としてのご自身のルーツや過去の経験から積み上がった強みはどのようにお考えでしょうか?

村橋:そうですね。子供の頃から本を読むのが好きで、読書を通じて、「全てが正直・誠実であることが成功の道であり、近道はない」という考え方を身につけました。

また、飲食店からスタートしましたので、お客さんが目の前で喜んでくれる仕事に魅力を感じています。飲食店というのは、お客さんの反応がその場で見える仕事です。お客さんが喜んでくれれば、それは利益につながっていくわけですから、利益を生む仕組みを作らなければ経営者は失格です。

経営者にとって一番大事な資質は、利益を生む仕組みを作れるかどうかです。私は、読書や飲食店経営で得た経験から、利益を生む仕組みを身につけてきたと思います。それが私の強みだと考えています。

冨田:2023年1月期に当期純利益で2億を超える金額を出されていますし、税引き後の利益率で24%というのは素晴らしいと思います。村橋さんは、どのようにしてこれほど高い利益率を叩き出していらっしゃるのでしょうか?

村橋:経験と同時に、やはり未だに読書を続けていることが大きいです。また、人を使わないで利益を出すという考え方も重要です。

例えば、中国には法人が2100万あります。5年前には1000万しかなかったのですが、その間に働く社員の数は8%しか増えていません。

これからも、人を使わないで利益を生んでいくような仕組みを考えていく必要があると思います。人件費が一番高いですし、人材は非常に不安定ですから。

冨田:それでは、具体的にどのような仕組みを考えているのでしょうか?

村橋: コンテンツやプロダクトのセルフセールスに注力しています。人が増えるのではなく、デジタルプラットフォームが大きくなっていくことで、自動化もされていきます。

また、プラットフォームとして成長することで、多重プラットフォームになれるという考えもあります。

冨田:そうしたプラットフォームにおいて、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

村橋:自社の場合、出店社に対して直接取引を推奨しています。囲い込んで絶対支配するのではなく、入るも自由、出るも自由で、うちの上で利益を出していただくという考え方です。プラットフォームを通じて多くの人が売買しているわけです。

基本的には、引き続きプラットフォームの拡大と、入るも自由、出るも自由な環境を提供していくことで、さらなる利益を生み出していくことを目指しています。

Mマートのパーパスについて

Mマート受付

冨田:社長のお考えで、経営判断をする上で最も重視していることは何ですか?利益の考え方を含めてお話いただけますか?

村橋:私が最も重視していることは、社会が混乱していることを踏まえて、今後ますます混乱が予想される流通業界において、一つのインフラを作っていくことです。何かを判断する場合には、その指針に合っているかどうかが基準となります。

冨田:会社として今後どういうテーマに関連していく会社になっていくとお考えですか?

村橋:具体的には、売り手さんにいかに成功してもらうかということが重要です。売り手さんが成功すれば、うちも成功し、買い手さんも成功します。

現在の流通業界は混乱しており、従来のマーケティング理論が通用しなくなっています。今後は、ネット業界における新たなマーケティング理論を確立し、それをステークホルダーに伝えていくことが重要だと考えています。

冨田:そのために具体的にどのような取り組みをされていますか?

村橋:三方会という会を作り、有志を集めて一緒に勉強しています。これからは技術だけでなく、マーケティングの面でも伸ばしていく必要があると考えており、そのための取り組みを行っています。

Mマートの未来構想

冨田:さきほどのお話から、様々なテーマに絡んでいく可能性があるということを理解しました。それでは、ここから会社の未来構想についてお伺いしたいと思います。

村橋:現行の流通業界は昔からの日本の仕組みで非常に複雑な構成になっており、多くの人が関与しているために利益が出ていない状況です。

未来構想としては、私は、シンプルにして、あるべき姿にすれば、皆さんが利益を得られると考えています。そのために、流通業界を利益の出る業界にしたいと思っています。

冨田: なるほど、業界全体が利益を出せるようになることを目指しているわけですね。そのために、御社がどのように貢献していきたいとお考えですか?

村橋:業界全体を良くするという考えで、会社としても個人としても動いています。会社を通じて、その方向で取り組んでいきたいと思っています。

冨田:素晴らしいですね。業界への貢献ができれば、巡り巡って御社のデジタルプラットフォームもさらに栄えるでしょう。

今後も業界を良くしていくという方針が重要だと感じました。ありがとうございます。

読者へのメッセージ

冨田:最後に、 上場してちょうど5年が経つわけですが、この間に注目いただいた投資家や未来に注目いただく投資家に向けて何か一言お願いできますか。

村橋:我々ができることをやらなければいけないので、企業価値を高めることしかできません。投資家の皆さんがどう判断してくださるかは、投資家さんの側の話であって、私たちとしては企業価値をどうやって高めるかが重要です。

例えば、私の経営指標の一つにPER30倍があります。これは、投資家さんが成長企業と判断した会社がPER30倍になるからです。大手の会社はPER10倍くらいで、まあまあの会社でPER20倍くらいです。

冨田:そうすると、30倍になって成長企業と判断されるわけですね。

村橋:そのためには、自分が何をするか、何をしなければいけないかが一番大きな問題です。人によく思われると思ってやるわけではなく、とにかく自分が何をすることによって30倍の評価をしていただけるかが大事です。

冨田:常に本を読まれて勉強され続けている村橋社長だからこそのお言葉だと思います。今日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
村橋 孝嶺 (むらはし こうれい)
会社名
株式会社Mマート
役職
代表取締役社長