有力な地方銀行が仕組債を巡って金融庁から行政処分を受けたことが話題になっています。地銀はなぜ処分を受けたのでしょうか。また、仕組債は個人が買っても問題のない商品なのでしょうか。仕組債の概要とメリット・デメリットを解説します。
地銀が仕組債で行政処分を受けた理由
2023年6月23日、有力地方銀行である武蔵野銀行、千葉銀行、千葉銀行傘下のちばぎん証券の3社が仕組債の販売を巡り、金融庁から行政処分を受けました。
金融商品取引法では、顧客の資産状況に照らして不適切な勧誘や販売を行ってはならないと定められています。それにもかかわらず、ちばぎん証券は投資経験の少ない顧客に十分なリスクを説明しないままに仕組債を販売したというのです。
業務提携している千葉銀行と武蔵野銀行もそれぞれ自行の顧客をちばぎん証券に紹介していたという理由で処分を受けています。
NHKの報道によると、2021年度の仕組債の販売額は約4兆1,000億円に上ります。販売金融機関の内訳は、証券会社が2兆4,400億円、大手銀行が1兆700億円、地方銀行が6,400億円となっています。
業績悪化に悩む地方銀行は投資商品の販売を強化しており、仕組債の販売で行政処分を受けたことは今後の営業戦略に影響を与えそうです。
仕組債とはどんな金融商品か
地方銀行が金融庁から行政処分を受けた仕組債とはどのような金融商品なのか確認しておきましょう。仕組債とは、一般的な債券にはない特別な「仕組み」を持つ債券のことをいいます。仕組債は、債券とデリバティブを組み合わせた金融商品です。
デリバティブとは、金利や通貨を交換する取引である「スワップ」や、あらかじめ約束した価格で1ヵ月後、1年後などに売ったり買ったりできる権利である「オプション」などの金融派生商品を指します。
一般的な債券は満期の期間やクーポン(利子)が固定されていますが、仕組債はスワップやオプションなどのデリバティブを組み入れることによって、市場の変化に対応した高利回りが期待できます。
そのため、世界の大口投資家や富裕層が投資しており、プライベートバンクで顧客に提示する商品の1つになっています。
仕組債の種類
仕組債の代表的な商品に「EB債」と「リンク債」があります。仕組みは以下のとおりですが、普通の債券に比べるとかなり複雑でリスクが高いことがわかります。
EB債
EB債とは、別名「他社株転換可能債」と呼ばれる仕組債です。連動する株価の変動によって償還時の償還方法や利率が異なる複雑な仕組みになっています。
対象銘柄の株価が決められた水準を下回らない場合は、満期時に額面の全額が現金で償還されます。一方で株価が投資金額を下回り、一定期間までに決められた水準まで上昇しなかった場合は、現金ではなく株式などの有価証券で償還されることがあります。債券の発行会社と異なる株式に転換されることから、他社株転換可能債と呼ばれている商品です。
リンク債
リンク債とは、株価指数などに連動して償還価格が変動する仕組債です。例えば、TOPIX(東証株価指数)と連動しているリンク債であれば、基準日と比較したTOPIXの変動率によって償還される金額や利率が変わるリスクがあります。
具体的には、判定日におけるTOPIXの指数があらかじめ定められた価格より高い場合は満額償還されますが、価格が下落して一定期間内に回復しなかった場合は、その時点の低い価格や利率が適用され償還されます。
仕組債のメリット
仕組債のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
金利が高い
仕組債は一般の債券よりも高い金利が設定されます。EB債では商品によって初回利息受け取り時の固定利率が10%に設定されているものもあります。その後は利率決定日の対象銘柄の終値によって利率が下がる可能性はありますが、国債や定期預金よりは高い金利を得られるメリットがあります。
自分に合った商品をオーダーメイドできる
仕組債には後述するノックイン価格とノックアウト価格が設定されていますが、70%や80%など商品によって基準が異なります。
それに加えてクーポン(利子)や連動させる銘柄・指数、償還の条件などを自分のリスク許容度に合わせて組み合わせるオーダーメイドの投資が可能になるメリットがあります。
仕組債のデメリット
仕組債には、以下のようなデメリットもあります。
元本保証ではない
仕組債は元本保証でありません。日本証券業協会では元本割れになるケースとして以下のようなリスクを挙げて注意を呼び掛けています。
・あらかじめ決められた参照指標(株価、株価指数、金利、為替、商品(コモディティ)価格)に基づきクーポンが決定されるため、該当する参照指標の変動によって投資家が受け取るクーポンが減少するおそれがある。
・あらかじめ決められた参照指標に基づき償還金額が決定されるため、該当する参照指標の変動によって償還金額が変動することで、投資家が受け取る償還金に差損が生じるおそれがある。
・スワップハウス(デリバティブ取引を活発に行う金融機関等)などにデフォルト(債務不履行)が発生した場合に、損失が生じるおそれがある。
・上記以外にも、仕組債の商品内容によっては、参照指標の変動によって、投資家が受け取る償還金に差損が生じたり、償還金の支払いに代えて株式などの有価証券を受け渡すことにより償還されたりする場合もある。
早期償還リスクがある
仕組債は満期を待たずに償還されるリスクがあります。ノックイン、ノックアウトがその仕組みで、以下のようなケースで償還されます。
・ノックイン
あらかじめ設定されている「ノックイン価格」を下回ることをノックインといいます。ノックイン後に値下がりして期間内に元の水準に戻らなかった場合は、100%償還されない場合があります。また、株式で償還されるケースもあるのが特徴です。
・ノックアウト
あらかじめ設定されている「ノックアウト価格」を上回ることをノックアウトといいます。ノックアウトになると早期償還されてしまいます。例えば、ノックイン価格が80%、ノックアウト価格が110%のケースでは額面100万円で購入した仕組債が80万円以下になるとノックインし、その後一定期間内に80万円を超えない場合、償還される金額は元本割れとなります。
逆にノックインとなっても、その後価格が上昇して110万円を超えるとノックアウトとなり額面満額で早期償還されるケースもあります。
仕組みが複雑
いろいろな商品を組み合わせるなど仕組みが複雑なため、適正な利率か判断することが難しいデメリットがあります。株式や国債、不動産など一般的な投資商品に比べて、よくわからない商品が組み込まれているため、リスクが高い商品であることを理解しないまま投資するおそれがあるので注意が必要です。
仕組債への投資はリスクを考えて慎重に行うべき
仕組債は通常の債券よりもかなり高い利回りを得られる可能性がある金融商品です。しかし、仕組みが複雑でリスクも高いことから、もともとプロ向けの商品といわれていました。プライベートバンクなどプロのトレーダーであれば有利な運用が可能ですが、一般個人の場合は仕組債への投資はリスクを考えて慎重に行うべきでしょう。
投資には株式、債券、不動産、金(ゴールド)などのスタンダードな投資商品と、仕組債のような金融派生商品があります。
スタンダードな投資商品はある程度の知識を持って、優良銘柄や優良物件、積立商品などを選んでいけばそう大きなリスクはないでしょう。しかし、金融派生商品は高い金利を得られる可能性がある半面リスクも高くなります。
富裕層がプライベートバンクに運用を任せる場合は別として、一般個人の場合は株式や不動産などのスタンダードな商品でポートフォリオを組んだほうがリスクの低い資産運用が可能だといえそうです。
※本記事は2023年7月7日現在の情報を基に構成しています。紹介している仕組債の内容は一例であり、購入する商品によって設定条件が異なります。参考程度にお考え下さい。
(提供:Incomepress )
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