特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業の経営トップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略にさまざまな角度からメスを入れる。

株式会社ミックナインはオンラインとリアルを連動させ、課金決済機能を持つメタバース事業を展開する企業。多くの会社が参入するメタバース事業だが、現状はコストや同時接続人数などの制約が多い。それらの課題を解決し、仮想通貨の課金システムまで備えたサービスを提供できるのは、ミックナインだからこそ。今後は、知見を活かして「VRを活用したヘルスケアメタバース事業」も展開するという。時代に合わせて挑戦を続けるミックナイン代表取締役の小林 幹直氏に、独自の強みや今後の展望について伺った。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社ミックナイン
(写真=株式会社ミックナイン)
小林 幹直(こばやし みきなお)――株式会社ミックナイン代表取締役
1978年8月生まれ。法政大学大学院 システム工学専攻(修士)修了。在学中に株式会社ミックナインを設立し、代表取締役に就任。ミックナインに限らず企業の立ち上げや、大学の客員講師/研究員などを幅広く手がける。
株式会社ミックナイン
2003年8月設立。「世界一のクラウドサービスを提供する」をビジョンに掲げ、WEBシステムの企画・開発、デジタルコンテンツ配信、VRコンテンツ開発などを手がける。「お客様と共に」という信念のもと、2014年には全米No1シェアセキュリティソフト「WEBROOT」の取り扱いを開始、2021年に自社開発製品としてバックアップアプリ「クラウドモンスター」の販売を開始するなど、顧客が安心して暮らすためのサービスを手がけている。近年は、VRコンテンツの企画開発分野で注目を集めている。

目次

  1. 株式会社ミックナインの事業概要と沿革
  2. 競合他社にはない株式会社ミックナインの強み
  3. 業界のトレンドと注目すべきトピック
  4. 株式会社ミックナインの今後の展開
  5. 株式会社ミックナインから皆様へのメッセージ

株式会社ミックナインの事業概要と沿革

─ 現在の事業内容と沿革について、お聞かせください。

株式会社ミックナイン代表取締役・小林 幹直氏(以下、社名・氏名略):私が大学3年生だった1999年は、iモードが生まれた年でした。東京ガールズコレクションの立役者でもある株式会社ゼイヴェル(株式会社ブランディング)でiモードのサイトを制作するアルバイトをしていて、新しいものを作る面白さを知りました。

アルバイトの関係もあり、プログラミングについてもさらに学びたいと考えて大学院に進み、大学院2年生の時に法人を登記し、自分で事業を始めました。その頃は会社を大きくしようと考える余裕もなく、1人で5年ぐらい受託開発をメインに行っていました。

ガラケー向けの着うた・着メロなどのコンテンツ制作の仕事もたくさんいただいていましたが、iPhoneが登場して社会がガラケーからスマートフォンに移りゆく中で、コンテンツ自体もどんどん変化していきました。その時「時代に合わせて制作するコンテンツを変えいくこともできるが、もっとユーザーの課題を解決するサービスを提供したい」と感じたのです。

そこで始めたのが、スマートフォン向けセキュリティソフトの提供です。スマートフォンがどんどん普及する中、確実にニーズが高まる分野でした。その時はアメリカのセキュリティソフト企業と契約をして、携帯ショップでスマートフォン購入者にセキュリティソフトを提供する形でしたが、それが現在独自で開発しているバックアップサービスアプリ「クラウドモンスター」につながっています。

▽バックアップサービスアプリ「クラウドモンスター」

株式会社ミックナイン

─ その他、近年展開している事業はありますか。

2022年よりメタバース事業を展開しています。ミックナインは2015年よりVR事業を行ってきました。その知見を生かし、オフラインとオンラインを連動させ、課金決済機能を持つメタバース「ミックバース」を開発し、提供を開始しました。

▽音楽フェス規模のメタバース会場でDJイベントをするマーク・パンサー(globe)さん

株式会社ミックナイン

これまでのメタバースではコストが高い、同時接続人数が限られるなど制約が多かったのですが、「ミックバース」ではこれらの課題をかなり解消しています。ユーザー本人の姿をスマホで3Dスキャンし、瞬時にアバター化できることも特徴で、着用している服装だけでなく体型や髪型も3Dで再現し、なりすましを防いでいます。

▽マーク・パンサー(globe)さんもスマホで簡単アバター(左本人、右アバター)

株式会社ミックナイン

2022年末に「ミックバース」で行った音楽イベントは総来場者1万5,000人、UU数5,000人を超える大反響となりました。

競合他社にはない株式会社ミックナインの強み

─ 競合他社にはない御社ならではの強みや、コアコンピタンスについてお聞かせください。

「技術力の高さ」と「時代に合わせた事業展開」ではないでしょうか。

VR事業は、例えば高知県室戸市の「キラメッセ室戸」鯨館にてバーチャルで当時の人々の捕鯨を体験できる海中VRコンテンツを開発したり、2020年には株式会社メディアドゥさんと共同で世界初・書店連携のVR電子書籍ビューアシステム「XRマンガ」を開発したり、2022年には株式会社エフネス仮想通貨で国内外60万軒のホテル・旅館の予約・決済ができる「CRYPTO HOTELS」をリリースしたりと、業界内で新しいことにどんどん挑戦し、形にしています。

メタバース事業は多くの企業が参入している市場ですが、仮想通貨の決済機能を持つサービスを提供している企業はほとんどありません。これらで培われた技術力は、強みの一つだと思います。

新しいことへの挑戦は私たちだけでできるわけではなく、他の業界の企業さんと組むことで成り立っている事業も少なくありません。

時代がどんどん変化する中で、多くの会社が淘汰されてきました。携帯電話のコンテンツサイトも一時期は300以上ありましたが、現在残っているサイトは非常に少ないです。試行錯誤を繰り返し、多くの企業さんと共同で新しいことに取り組む柔軟性も、私たちの特徴だと思います。

業界のトレンドと注目すべきトピック

─ 業界のトレンドや注目しているトピックがあれば、お聞かせください。

新しい技術も市場のトレンドも常に変化しているので、常にアンテナを高く張り、どのように自社に生かしていくかを考えなくてはなりません。

近年の技術では、Chat GPTを始めとするAIによる自然言語モデルの進歩などに注目しています。Chat GPTに限りませんが、以前はエンジニアがコードを書き上げないと新しい技術を使いこなせませんでした。しかし、近年は自動的にコードが書き出されるサービスが多く出てきて、多くの人が技術の恩恵に預かれるようになりました。これは大きな進歩です。人間がプログラミングをしなくなることはないと思いますが、さまざまなサービスの開発が高速化していることは確かです。

私たちも、この技術の進歩をどんどん取り入れていきたいです。ミックナインには、テクノロジー関連のことを学んできた20代がたくさんいます。彼らのような若者の技術や感性を取り入れて、新しい分野に挑戦していきたいです。

株式会社ミックナインの今後の展開

─ 今後、重点的に取り組んでいきたいことは何でしょうか。

ミックナインは「経営革新計画※」を実施することを承認されています。そのテーマとして据えているのが「VRを活用したヘルスケアメタバース事業の展開」です。
※「経営革新計画」とは、中小企業が新たな事業活動に取り組むことにより経営の向上を図る計画のことで、中小企業等経営強化法に基づき、国や都道府県知事の承認が行われる。

近年は20代でも基礎的な運動量が少ないといわれていますが、ジムに行って1人で頑張って運動をできる人ばかりではありません。そこで、仮想空間で身体の不自由な人も健康な人も一緒に運動する機会を作るといったメタバース事業を展開する計画です。

▽ミックナインの採用ページでのメッセージ

株式会社ミックナイン

メタバースは仮想空間としての価値があるだけでなく、同じ時間帯に参加者が一緒に何かを行うといったリアルとリアルをつなげる場にもなり得ます。その社会実装には、力を入れていきたいです。

さらに、私たちには仮想通貨の決済システムを構築できるという強みもあるので、今後もそれを生かして事業を展開していきたいです。

株式会社ミックナインから皆様へのメッセージ

─ 読者の皆様へメッセージをお願いします。

お話したとおり、ミックナインは独自の技術力と時代に合わせる柔軟性を持っています。また、弊社で経験を積み、それを生かしてキャリアを積み上げているメンバーもたくさんいます。その意味でも、社会的価値を生み出せていると考えています。

やりたいことは山ほどありますが、敢えて課題を挙げるとすれば、そこに人的リソースが追いついていないことでしょう。やりたいことを実現するために上場を考えるとすると、今はN-3期です。読者の方はもちろん、関心を持ってくださる取引先様や個人投資家の方、そして上場に強いVCの方とのご縁があれば嬉しいです。