不動産投資における経費計上とは?

日本の税制においては、事業経営のために発生した費用を「経費」として計上して、収入から差し引いて所得を計上します。不動産投資は「投資」という名前がついていますが、事業経営に性質が近く、投資収益を得るために発生した費用を経費計上します。

不動産所得は、その年に得た賃料収入から不動産事業に関わる経費を差し引いて計算します。不動産の経費の中には、実際には投資家自身の現金支払いが発生しない(キャッシュアウトしない)にもかかわらず計上できるものもあります。

不動産の経費が収入を上回ると、不動産所得はマイナスとなります。それを会社員の給与所得など、ほかの所得と合算することで時に給与所得を減らし、税金の還付を受けられることもあります。

なお、不動産投資における税額を確定させるためには、毎年確定申告で収入と経費を計上する必要があります。

不動産投資の経費の種類

不動産投資の経費は多岐にわたり、主に以下のような費用が挙げられます。これらの経費は毎年確定申告で過不足なく整理して申告する必要があるため、計上できる経費の種類について理解しておく必要があります。

不動産投資の経費にできるもの

  1. 減価償却費
  2. ローンの金利
  3. 保険料
  4. 管理会社への管理委託料
  5. 建物管理費
  6. 修繕積立金および修繕費
  7. 仲介手数料、広告宣伝費など入居者獲得に必要な費用
  8. 固定資産税をはじめとした税金
  9. 司法書士や税理士への報酬
  10. 通信費
  11. 旅費交通費
  12. 情報収集のための費用
  13. 接待交際費
  14. 消耗品費
  15. 備品

1. 減価償却費

減価償却は「固定資産は年々劣化していく」という前提のもと、その劣化に合わせて定額(もしくは定率)で費用を計上していくルールのことをいいます。不動産では建物部分の取得費用を、この考え方に基づいて減価償却費を計上します。

なお土地は、「経年劣化しない」との前提から減価償却を行いません。

新築の不動産を購入する場合、建物部分の取得費用を毎年下記にある耐用年数に相当する部分の償却率を掛け算して計算します(定額法)。築年数が耐用年数を迎えると帳簿上は資産価値が「ゼロ」になったとみなされ、それ以降は費用は計上できません。

建物の構造別による耐用年数(住居用)

構造・用途 耐用年数 新築購入時の償却率
木造 22年 0.046
重量鉄骨造 34年 0.030
鉄骨鉄筋コンクリート造・
鉄筋コンクリート造
47年 0.023

※定額法

減価償却は経費計上しても現金支出を伴わないため、現金収支を圧迫することなく所得を減らすことができます。この項目は、節税効果をもたらすといわれています。

2. ローンの金利

不動産を取得するために借り入れたローンの金利部分については経費として計上できます。元本は借入(=負債)の返済であり「費用」ではないため経費になりませんが、金利部分は借入をするための費用とみなされるため、経費計上が可能です。

なお、不動産所得が赤字の年は、土地部分に対する金利支払いは経費として計上できない点には注意しましょう。

3. 保険料

不動産投資においては、物件に対して火災保険や地震保険などをかけるのが一般的です。これらの保険料は、安定した不動産経営を行うために必要な支出とみなされるため、経費として計上できます。

4. 管理会社への管理委託料

投資家が自分で入居者の募集や家賃の振込等、入居者管理を行う場合、業務にかかった費用は全て経費計上できます。ただ、忙しい会社員が不動産投資を行うときには、賃貸管理会社に管理業務を一任するのが現実的です。その場合には毎月の管理委託料が経費になります。

5. 建物管理費

不動産投資は入居者の管理だけでなく、建物の共用部分の清掃や照明の付け替えのメンテナンスなど、建物の管理業務も発生します。この業務も建物管理会社に委託するのが一般的です。委託した場合、建物管理費も経費となります。

6. 修繕積立金および修繕費

区分マンション投資などの場合は、将来のマンション全体の大規模修繕に向けて修繕積立金を用意する必要があります。この修繕積立金も経費計上ができます。

区分投資で複数オーナーが修繕積立金を貯めるのに対して、一棟投資などの場合は自分で修繕費を捻出しますが、この場合も同様です。物件の維持のためのメンテナンスや破損箇所の修復などは、不動産経営を継続するためのコストとして経費計上します。

一方で、一棟のなかの2部屋をつなげて間取りをワンルームから2LDKへと変更したり、非常階段を取り付けたりといった施工にかかる費用は修繕費(経費)とはみなされません。これらは建物の資産価値を高めたり、耐用年数を延ばすことにつながるため、経費ではなく「資本的支出」となります。これらは建物の資産価値を高めたり、耐用年数を延ばすことにつながるため、経費ではなく「資本的支出」となります。この場合は全額を同年に費用計上はできず、毎年減価償却をしていくことになります。

なお約15年に1度実施するマンションの大規模修繕工事は、その工事をしないと建物の維持が難しいという理由から、原則、修繕費と考えておくのがいいでしょう。

修繕費とするか資本的支出とするかは判断が微妙な場合もあるので、税理士などとも相談しながら計上方法を決めていきましょう。

7. 仲介手数料、広告宣伝費など入居者獲得に必要な費用

入居者を獲得するときに発生する不動産ポータルサイトへの掲載料など、物件の情報発信を行うための費用は広告宣伝費として経費計上します。また、不動産仲介業者を通じて入居者を獲得すると、業者に仲介手数料を支払いますが、これも経費となります。

いずれも、不動産事業において顧客にあたる入居者を獲得するための必要経費とみなされます。

8. 固定資産税をはじめとした税金

不動産事業を営むことで発生する税金については経費計上します。具体的には次のような税金が該当します。

  • 不動産取得税
  • 印紙税
  • 固定資産税・都市計画税

なお、後半で改めて説明しますが、不動産所得に対してかかる「所得税」や「住民税」が経費に含まれない点には注意しましょう。

9. 司法書士や税理士への報酬

不動産の購入に際しては登記手続きなどで司法書士に依頼が必要です。また、確定申告の手続きを代行してもらう場合などは税理士に業務を依頼することになります。これらの専門家への報酬も費用として経費計上できます。

10. 通信費

不動産購入のための情報収集や各種手続きに使用した電話、パソコンなどにかかる通信費も不動産事業を行うための必要経費として扱われます。

11. 旅費交通費

物件の下見や不動産会社との打ち合わせ、手続き等のために移動した場合、公共交通機関の運賃やガソリン代、駐車場代などの交通費は経費となります。

また、地方物件の下見のための宿泊や、不動産会社の担当者と打ち合わせのために食事をした場合などには、旅費や会議費として計上可能です。

12. 情報収集のための費用

不動産投資の勉強や情報収集のために購入した書籍や新聞、セミナーの参加料などは、経費計上が可能です。

13. 接待交際費

不動産会社や取引相手との会食などは、接待交際費として経費となります。不動産事業を維持・拡大するための情報収集やリレーション構築に必要な出費とみなされるためです。

14. 消耗品費

不動産投資に関連する消耗品の費用も必要経費として計上できます。例えばパソコンのプリンター用紙やインクのほか、専業で不動産事業を営む場合の名刺なども含まれます。

15. 備品

パソコン、高価なプリンターをはじめ不動産投資に必要な設備の購入費用は備品に計上されます。備品に該当する場合は、所定のルールに基づいて減価償却して毎年経費計上していきます。購入したその年に全額が経費になるわけではない点に注意しましょう。

備品と消耗品のどちらにあたるかは、原則として「使用可能期間が1年未満か」「購入費用が10万円以上か」で判断します。なお青色申告の場合は、30万円未満の備品等も1年で費用計上することができます。

なお不動産事業を専業としていない場合、通信費以降の項目については、プライベート用と不動産事業とを兼ねて使用するケースも多いと思います。不動産事業のために使用した時間や使用量などを基に、家事按分(事業に使用した分の算出)をしましょう。

不動産投資の経費にできないもの

不動産投資事業の経費として計上できないものは、その事業に関係のない支出で、主に以下のようなものが挙げられます。家族との旅行や友人との食事、日々の食料などの生活費は、不動産収入を得るために必要な経費ではないため、計上できません。

不動産投資の経費にできないもの

  1. 住民税・所得税
  2. スーツの購入費用
  3. 自分のための福利厚生費
  4. 投資と関係のないもの

1. 住民税・所得税

所得税および住民税は、会社からの給料など、一定以上の所得がある人に納税義務のある税金です。不動産事業に関連する税金ではないため経費には含めることはできません。

なお所得税は、不動産事業で得られた利益(不動産所得)に対してもかかります。給与所得と不動産所得は合算して税金を求めます。不動産事業を始めたばかりで不動産所得が赤字になった際には、給与所得と相殺することで(損益通算)、所得税の金額を減らせる場合があります。

2. スーツの購入費用

不動産投資の打ち合わせに着用したスーツや時計・バッグなどのファッションアイテムは、プライベートでも身につけることが可能なため、不動産事業の経費とは認められないという解釈です。

経費計上は難しいと考えておいた方がよいでしょう。

3. 自分のための福利厚生費

企業に所属していると、従業員向けの保養施設やジムの福利厚生にかかる費用が、妥当な範囲内において経費計上できます。

しかし、個人事業主にあたる不動産投資家の場合は、自分用の福利厚生費を経費として計上できません。例えば自分のジムの利用料や旅行費用、人間ドック費用などを経費に計上しないように注意しましょう。

4. 投資と関係のないもの

不動産投資と関係のないものは当然ながら経費計上できません。例えば、事業者=外食は全て交際費と誤解する方がいますが、あくまで不動産会社との会食など、事業に直結する用途に限られます。

旅費についても物件の下見なら計上できますが、観光目的の旅行の旅費を計上するようなことがあってはいけません。

家賃や通信機器、自動車などはプライベートな使用と不動産投資目的の使用が混ざり合う場合もあります。こうしたときには使用量や使用時間などを基に的確に按分して、不動産投資に利用した部分だけを経費計上しましょう。

経費を的確に申告して税金を正しく納めよう

不動産投資においては、賃貸経営に必要なさまざまな経費を計上できます。経費の種類は多岐にわたり、正しく申告すれば節税効果を得ることができます。

一方で、投資と関係ない用途の費用を計上し、後で発覚すれば、重加算税などを課されたり、悪質なケースに対しては査察部によって刑事罰を科されたりする恐れもあります。

あくまで不動産投資の必要経費を過不足なく申告することが大切です。計上の可否や家事按分の比率に悩む場合には、税理士などに相談して判断を仰ぐなどして、不正申告にならないように注意しましょう。

RENOSYマガジン編集部
「不動産やお金の疑問をわかりやすく解決するメディア」を掲げ、本当にためになる情報の提供を目指すRENOSYマガジン編集部。税理士やファイナンシャルプランナーの人たちと共に、中立・客観的な視点で「不動産とお金」を解説、読んでいる人が自分の意思で選択できるように日々活動している。