本記事は、小杉俊哉氏の著書『リーダーのように組織で働く』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))の中から一部を抜粋・編集しています。

Situational leadership phrase and wooden figures.
(画像=Vitalii Vodolazskyi / stock.adobe.com)

相手に合わせる:状況対応型リーダ(SL理論)

さまざまなリーダーシップのスタイルを確認し、ご自身のスタイルを考えてみていただけたと思うが、現在会社でリーダーの立場にある人の中には、このように思った方がいるはずだ。

「自身のスタイルは固定的なものではなく、メンバーによって変わってくるし、また組織の変化によっても変わっている」と。

実際のところ、そう考えられた方はまさにリーダーシップという特徴をよく捉えていると言える。では、いかに自身のリーダーシップを変えることが必要かつ有効かを見ていきたい。さらに、自身が「リーダー」の立場に就いたことによって、無意識にそのスタイルを変えてしまう例もお伝えしたい。

まずは、個々のメンバーごとに自身がリーダーシップスタイルを使い分ける、状況対応型リーダー〈Situational Leadership=SL理論〉について見ていきたい。

この理論では、部下を4つのタイプに分ける。

  • D1:心理的レディネスが高く、職務的レディネスが低い ー 一般的に仕事を遂行するスキルが欠けているが、自信とやる気が高い
  • D2:心理的レディネスが低く、職務的レディネスが低い ー ある程度のスキルを持っているが手助けを必要とする
  • D3:心理的レディネスが低く、職務的レディネスが高い ー 高い能力を持っているが、仕事を一人でうまく遂行する自信がない
  • D4:心理的レディネスが高く、職務的レディネスが高い ー 経験があり、仕事をうまく遂行する能力と意欲がある

「心理的レディネス」というのは、簡単にいうと「やる気」と置き換えられる。

「職務的レディネス」は、簡単に言うと「職務遂行スキル」と置き換えてみるとわかりやすいだろう。

さて、D1のタイプは具体的にはどのようなメンバーだろうか? そう、新入社員だ。スキルはなくともやる気だけはあるというのが典型的だ。彼らには次のようなスタイルを取ることになるだろう。

  • S1:指示スタイル(仕事に対する指示的行動が高く、部下との関係に対する支援的行動は低い―部下の役割や仕事を明確にし、手厚く管理する。意思決定はリーダーが行うため、一方方向コミュニケーションになりがちである)

次に、D2のタイプだ。やる気もスキルもないのは困ったものだろう。しかし、日本企業においてはいったん採用した人材はそう簡単に辞めてもらうわけにはいかないのは前述の通りだ。このようなメンバーを抱えて腐心している方も多くいるだろう。このタイプには次のようなスタイルを取ることが有効だ。

  • S2:コーチングスタイル(仕事に対する指示的行動が高く、部下との関係に対する支援的行動も高い―部下の役割や仕事を明確にするが、部下からアイデアや提案も受け入れる。意思決定はリーダーが行うが、双方向コミュニケーションをとる)

D3は、やる気は低いがスキルは高いというタイプ。さて、どのようなメンバーが頭に浮かぶだろうか。そう、ベテラン社員だ。そもそも、彼らはもし年下のあなたが上司だったら、長らく年功序列で過ごしてきたため、それだけで面白くはないはずだ。そのために、このタイプには以下のようなスタイルを取り支援することが有効になる。

  • S3:支援スタイル(仕事に対する指示的行動が低く、部下との関係に対する支援的行動は高い―部下に日常業務の処理は任せる。意思決定に関与するが、部下に権限を渡す)

最後はD4のやる気もスキルも高いタイプ。このタイプにはどんどん権限を委譲して仕事を任せていくスタイルが求められる。そうすると彼らはどんどん力を発揮するだろう。逆にそうしないと彼らはやる気を失い、離職のリスクが高まるのだ。

  • S4:権限委譲スタイル(仕事に対する指示的行動は低く、部下との関係に対する支援的行動も低い―部下に仕事を全面的に委任するが、リーダーは意思決定や問題解決に関与する)

さて、4つのタイプによって、リーダーであるあなたが取るべきそれぞれのスタイルを述べてきた。

一方、この状況対応型リーダー(SL理論)はあなたが、出世して事業部門長・責任者、社長となっていくと使えなくなる。その理由を考えてみていただきたい。

いかがだろうか。

もし、あなたが事業責任者以上になるとあなたの部下は基本管理職で、それぞれの部下がいる立場となる。そのように、人によってスタイルを使い分けるとどうなるだろうか。

「あの人は人によって使い分けをする」、「依怙贔屓をする」、「軸がぶれる」などと言われて、信頼されなくなってしまうのだ。

だから、状況対応型リーダー(SL理論)は初めてプロジェクトリーダーになる、あるいは部下が皆担当者であるような状況であれば、極めて有効だが、組織でより高い役職に就くようになると使えない、ということを知っておくべきだ。

リーダーのように組織で働く
(画像=リーダーのように組織で働く)
リーダーのように組織で働く
小杉俊哉(こすぎ・としや)
合同会社THS経営組織研究所 代表社員/ 慶應義塾大学SFC研究所 上席所員/ 慶應義塾大学大学院理工学研究科 非常勤講師/ ビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営学研究科 客員教授/ 早稲田大学法学部卒業後、NEC入社。/ マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。/ マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ(現アップル)人事総務本部長を経て独立。 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授、慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授を歴任。 ふくおかフィナンシャルグループ・福岡銀行、ニッコーなどの社外取締役・社外監査役を兼任。 著書に、『リーダーシップ3.0』(祥伝社)、『起業家のように企業で働く』、『職業としてのプロ経営者』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、など多数。Voicy 小杉俊哉の「キャリア自律のすゝめ」配信中。

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