本記事は、小杉俊哉氏の著書『リーダーのように組織で働く』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=RerF / stock.adobe.com)

リーダーになろうとすること

リーダーになる。多くの経営者や学者たちに大きな影響を与えた南カリフォルニア大学教授ウォレン・ベニスの “On Becoming a Leader” 邦題『リーダーになる』(海と月社)へのオマージュから、そうつけさせてもらった。

大学院で教えているリーダーシップ論で、学生からこういう質問があった。

「自分は責任を取りたくないのですが、それでもリーダーになれるでしょうか?」

私は即座に、「残念ながらなれない」と答えた。

「リーダーになること」の最低限、そして必須の条件は何だろう。

天性の資質、特性、スキルなどではなく、「リーダーになろうとすること」だ。そしてそれは責任を伴うことなのだから。きっかけは偶然でも他薦でもかまわない。たとえば、学生時代に学級委員、生徒会長、サークル長などを周りから推されてなったとしても、それを引き受けたということは、責任を自ら負う覚悟をしたということになる。別にリーダーになろうと思ったわけではないが、結果としてリーダーになったともいえる。

オーセンティック・リーダー

問い:あなたは人生のどんな局面でも、ありのままの自分でいられるか?

盛んに言われるようになった「オーセンティックである」とは、1人ひとりの人間がユニークであるように、リーダーシップにおいても人マネではない、自分ならではのスタイルを持つということだ。

オーセンティックであるためには、世の中がめまぐるしく変わっても、変わることなく自分を正しい方向に導くための基軸や、方向を指し示してくれるものを持つ必要があるということだ。それを、トゥルー・ノース、あるいはポラリス(北極星)と言う。

メドトロニックのCEOとして在任中に時価総額を11億ドルから600億ドルに増加させ、全米トップ経営者25人にも選ばれた後、ハーバード・ビジネス・スクール教授となったビル・ジョージは言う。

オーセンティックなリーダーは次の5つを部下に見せることでリーダーとして機能していく。

  1. 自分の目標を明快に理解する
  2. 自身のコア・バリューに忠実である
  3. 情熱的に人をリードする
  4. 人とリレーションシップを構築する
  5. 自身の規律を守る

そして、典型的な10の行動規範は次のものである。

  1. 自分を理解する
  2. 本音で語る
  3. 勇敢であること
  4. 弱さを隠さない
  5. 自分を信じる
  6. ネットワークを作る
  7. 自分自身を尊重する
  8. 恐怖から逃げない
  9. 意味あることをなす
  10. 学び続ける

(『True Northリーダーたちの羅針盤』ビル・ジョージ著/生産性出版 参考)

どうだろう? ひょっとしたら精神論的に感じる人がいるかもしれないが、これらはハーバード・ビジネス・スクールのオーセンティック・リーダーシップ・プログラムという超人気講座で教えてきた内容だ。

戦略を駆使していかに相手を蹴落として勝って、利益を上げるか、そのために自身がどう指示していくかということを教えられてきた昔とは様変わりして、今は協調的なリーダーシップを強調しているところが、非常に感慨深い。これは卒業生たち、たとえば、ラジャット・グプタ、エンロン事件を引き起こしたジェフリー・スキリングなどの卒業生を生んでしまった以前の教育方針からの反省が込められているのだと筆者は理解している。

Work Life Integration(公私の統合をさせる)リーダーは、どの場所でも同じ自分でいられるなら、本当の意味で一貫性のある人生を自分なりに送っていると言える。本物のリーダーとして充実した人生を全うできる。それには、人生のあらゆる側面に心を開き、人生の流れに従う意思が求められる。こういう人生の豊かさを、人生の早い時期に探すことが大切だとビル・ジョージは強調する。

  • 苦難の道を歩んできた人間こそ、本物のリーダーになるために必要な価値観の基軸(トゥルー・ノース)を獲得できる可能性が高い。
  • 自分の人生の大切さを知るには、奉仕が一番。サーバント・リーダーになるということは、「わたし」から、「わたしたち」への旅に出るということ。

逆にそういう指向を持たない人間は、リーダーとして成功できないし、またたとえトップの地位に上り詰めても、早晩その地位を失うようになる危険性が高いということだ。

将来を嘱望され、あるいは素晴らしい貢献をした人間が、権力、金、名声を得ると、身を持ち崩し、悪の道に走るというダース・ベイダー化のリスクを内包しているのだ。

ビル・ジョージが師匠と仰ぐウォレン・ベニスは、この章の冒頭に紹介した著書で、次のように述べている。

「時代を超越してリーダーに求められる資質は、常に人格を陶冶することであり、そして常に本物の自分であることです」

  • 自らを陶冶して成長してきた人間ほど、人の痛みがわかる
  • 思考と行動の両面において正直になり、原則から決して離れず、根本的な部分で健全かつ完全でなければならない
  • 信頼を生み、それを維持するリーダーには4つの要素が備わっている
  1. 一貫性
  2. 言行一致
  3. 頼りがい
  4. 誠実さ

京セラ創業者である稲盛和夫氏の、「自利利他」「動機善なりや、私心なかりしか」と絶えず自問し、矜恃を持つことが組織のトップには問われているということとまったく同じだ。

仏教でいう利他は、滋養に富む心の資質で、他者の幸運によって自らに湧く喜びを言うが、最新の社会心理学の研究では、自己中心性を抑え、より寛大であることは、本人の幸福感と満足感の源泉だと言われる。
(『Compassion』ジョアン・ハリファックス著/英治出版 参考)

リーダーのように組織で働く
小杉俊哉(こすぎ・としや)
合同会社THS経営組織研究所 代表社員/ 慶應義塾大学SFC研究所 上席所員/ 慶應義塾大学大学院理工学研究科 非常勤講師/ ビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営学研究科 客員教授/ 早稲田大学法学部卒業後、NEC入社。/ マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。/ マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ(現アップル)人事総務本部長を経て独立。 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授、慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授を歴任。 ふくおかフィナンシャルグループ・福岡銀行、ニッコーなどの社外取締役・社外監査役を兼任。 著書に、『リーダーシップ3.0』(祥伝社)、『起業家のように企業で働く』、『職業としてのプロ経営者』(以上 クロスメディア・パブリッシング)、など多数。Voicy 小杉俊哉の「キャリア自律のすゝめ」配信中。

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