ChatGPTの登場によって、業務効率化を実現するための手段として、AI(Artificial Intelligence/人工知能)に注目が集まっています。IDC Japanが2022年に発表したレポートによると、AIシステムを業務利用しているユーザー企業の割合が、2019年と比較すると17.5%上昇しています。業務利用でもっとも多いのは、「品質管理」でついで「ITオートメーション」となっています。
今後、さらに企業のAI導入が爆発的に増加することが予想されますが、一方で、「AIを活用することで具体的にどのような業務を効率化できるのか、いまいちイメージが湧かない……」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、本コラムではAIと人間の協働関係や、AIを活用することで効率化を期待できる5つの業務を紹介していきます。
目次
AIと人間が共存・補完関係になる
AIのビジネス活用が進むと、「AIによって仕事が奪われる」「AIで仕事がなくなる」という話題が注目されますが、実際はどうでしょう? 近年のデータをもとに解説しますが、「奪われる」よりどのように「協働・共存」するか、が大きなテーマとなりそうです。
AIが代替可能な仕事はどのくらい?
少子高齢化により労働人口減少が叫ばれる日本では、グローバル競争に勝ち抜くには、AIの導入による生産性向上はもちろん、AI活用によってより付加価値の高い商品やサービスの開発を実現しなくてはいけません。
2015年に発表されたオズボーン研究では、日本の労働人口の約49%がAIやロボットによって代替可能と報告され、大きな話題となりました。しかし、さらに技術が進化した現在、アメリカのコーネル大学が「ChatGPTがアメリカ労働市場に及ぼす影響」という論文を2023年4月に発表。
同論文によると、約80%の労働者の少なくとも約10%の業務に影響があり、約19%の労働者の少なくとも約50%の業務に影響があると予想されています。この論文はChatGPTだけの影響ですので、その他のAIの影響を考慮するともっとこの割合は大きくなるでしょう。
またゴールドマンサックスが2023年3月に発表したレポートでは、アメリカとヨーロッパの3分の2の仕事が自動化される可能性があり、AIによって世界のGDPは約7%向上するとされています。
AIと人間の協働・補完関係の構築が肝心
AIの業務利用は世界的に爆発的に増加していくことが予想されますが、「AIによって仕事が奪われる」のではなく、「AIと共存しながらどうやって競争優位を確立するか」という視点が非常に重要になります。
AIにも得意な領域と不得意な領域があります。例えば、膨大なデータの収集や分析などはA人間よりはるかに効率よく正確に業務を進めることができます。しかし、創造的思考や非定型業務などは人間の方が得意とされています。今後、AIと人間の業務領域が徐々に変化していくなかで、人間がもっとも価値を発揮できる業務と必要になるスキルを特定することで、AIと人間が協働・共存が可能になり、より高い生産性を発揮できると考えられます。
AIを導入する4つのメリット
アノテーションでカスタマイズできる
AIの分野では、扱う情報やデータが膨大になるため、個々のデータに印をつけて必要時に取り出せるようにする「アノテーション」を行う必要があります。AIのアルゴリズムの一つとなる機械学習においても、正解となる出力パターンを学習させるうえでアノテーションが重要な役割を果たすのです。
自社の目的に即した形でアノテーションを行うことで、AIを自社の仕様にカスタマイズすることができるでしょう。
圧倒的な作業処理能力
AIの大きな特徴は、膨大のデータの分析などが行える圧倒的な処理能力です。AIは、人間と異なり疲労による生産性の低下がないため、24時間365日体制で稼働させることができます。そのため従来は人手をかけて行っていた作業でも、AIに任せることで正確かつ高速に完了できるでしょう。
特に画像や音声の識別、データを活用した予測などはAIの得意分野とされており、これらの業務では強みを発揮します。
属人化の解消
AIを用いることのメリットの一つが、業務における属人化の解消です。例えば外観検査の分野では、熟練したベテラン従業員のスキルをAIに学習させて若手従業員への教育に用いることがあります。特に不良品の識別などはAIが得意とする分野です。AIの学習データが蓄積していくことで、より正確な判別が可能となります。
AIにより、従業員の退職や人手不足によってスキルが属人化するリスク軽減が期待できるでしょう。
単純労働からの解放
AIの導入によって、限られた人員を単純労働から解放することも可能です。例えば膨大なデータのチェックや照合作業などは、人間が行うとミスが起こるだけでなく疲労による生産性の低下も懸念されます。これらの作業をAIに任せることで、企画や顧客対応といった人間にしかできない業務に人的リソースを割り当てることができるでしょう。
また長時間労働の防止など働き方改革の観点でも良い効果が期待できます。
業務効率化に期待!AIを活用した5つの業務
AIが可能な領域ではすでに成功事例が多く存在します。代表的なAIによる業務効率の事例を解説します。
問い合わせ応対業務
Webサイトやスマートフォン向けアプリに問い合わせ用に、チャット機能を導入して業務効率化を図る企業が増えています。電話とは異なり、チャットであれば1人のオペレーターが同時に複数の顧客を相手に応対できるからです。
さらに、AIチャットボットの登場によって、問い合わせ応対業務をより一層効率化できる可能性が出てきました。AIチャットボットは、学習データや実際の問い合わせ応対を通じて学習を重ねることで顧客からの問い合わせに対して適切かつ自然な回答を自動的に導き出せるようになります。そのため、オペレーターが行っているチャットでの問い合わせ応対業務の一部あるいは全部の自動化を期待できます。
また電話での問い合わせ応対業務の自動化も導入事例が増えています。例えば電話口の音声から適切な内容を判断して自動応答する仕組みは「AIボイスボット」と呼ばれ、一部の企業では実装されています。
営業業務の効率化
「足で稼げ」という旧態依然とした営業スタイルが根強い日本において、最近ではそこからの脱却を目指す国内企業が増えています。
例えば、SFA(Sales Force Automation/営業支援)システムやCRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)システムを導入してさまざまなデータを収集・分析したうえで、確度の高い見込み客への営業リソースの集中や、より効果的な営業プロセスの発見に取り組んでいる企業が少なくありません。
そして、営業業務はAIを活用することでより一層効率化できる可能性があります。実際に、成約確度の高い見込み客の抽出や、顧客ごとの営業担当者や商談スケジュールの割り当て、営業担当者ごと/チーム全体の売上の予測、顧客ごとのLTV(Life Time Value)の算出、メール・Webサイトでのコミュニケーションといった広範な業務をAIによって自動化可能なSFAシステムやCRMシステムが登場しています。
世界的なSFAシステムベンダーであるSalesforce社のAIプラットフォーム「Salesforce Einstein」は、その代表例といえるでしょう。「Salesforce Einstein」は、同社のSFA・CRMシステムである「Sales Cloud」をはじめとする同社製品に追加可能なAIプラットフォームとなっています。
人事業務
人事業務は、まさに人と人との関係性が肝となる業務です。そのため、AIによって効率化できるというイメージをお持ちの方は少ないのではないでしょうか?
しかし、人事に関してもAIを活用することで業務効率化できる可能性があります。すでに、採用や異動、離職防止といった人事の業務効率化を目的としたAI製品も登場しています。そして、AIを含むさまざまな技術を駆使した人事業務向けのITシステムはHR(Human Resources)テクノロジーと呼ばれており、このところ特に注目されています。
HRテクノロジーのなかには、空きポジションに適した人材のマッチングや離職する可能性のある従業員を検知する製品があります。このような製品を活用すれば、プロジェクト立ち上げや体制変更、離職者の発生などにより人事異動が必要となった際に、適切な人材を速やかに充てることが可能です。また、離職する可能性の高い人材に絞って重点的なフォローを行うこともできるでしょう。
また採用においても母集団形成や書類選考などの初期段階では、AIによる業務効率化が実現しています。既存社員の適性検査傾向などのデータを採用時に結合することで、より精度の高い採用工程を踏むことが可能になり、今後は表情や話し方などから採用候補者の本質的な部分も浮き彫りにできます。
倉庫での出入庫管理業務
「当日配送」や「翌日配送」が当たり前となった今日、通信販売事業者や物流事業者にとって、倉庫での出入庫管理業務の効率化により商品到着までのリードタイムを短縮することは非常に重要です。実際、これらの事業者はWMS(Warehouse Management System=倉庫管理システム)やRFID(Radio Frequency Identifier)などを用いて業務効率化を図っています。
そして、倉庫業務はAIを活用することでさらに効率化できる可能性があります。具体的には、既存のWMSやRFIDから収集したデータから在庫の配置案や配置替えの作業リストを生成する目的でAIが活用されています。
そのほか、商品出荷の業務効率化を目的としたAI製品も登場しています。シンガポールに本社を置くGreyOrange(グレイオレンジ)社が開発した「Butler(バトラー)」は、倉庫内において出荷指示が発生した商品が収納された棚の下に潜り込み、棚ごと持ち上げてスタッフのもとに運ぶ自動搬送ロボットです。そして、「Butler」は単に棚を自動運搬するだけではありません。自動搬送を繰り返すなかで季節ごとの出荷頻度や売れ筋商品を学習し、自ら棚の配置を最適化します。さらに、売れ筋商品は商品出荷担当者がピッキングしやすい胸の高さ付近に自動配置します。
日本でのAI導入状況
AI導入率:約24%
2021年3月に総務省が公表した「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」では「業務においてAI技術を活用している」と回答した企業の割合が示されています。これによると日本のAI導入率は24.3%でした。ドイツ(29.3%)や米国(35.1%)などの諸外国と比較すると低い状況にあります。
ただし昨今は、生成AIの導入などに官民を問わず積極的な動きが見られるため、今後は日本においてもAIの導入率が上昇していくことが期待できるでしょう。
AI導入の目的
総務省の「令和3年情報通信白書」によると、日本企業を対象にAIの導入目的について質問しています。その調査結果によると、AI導入目的の約8割は「効率化・業務改善」で、「事業の全体最適化」「新規事業・経営」はそれぞれに約20%、約10%という結果となりました。
このことから、日本企業の多くは人手不足や働く改革に向けた業務効率化を目的にAIを活用していることがわかります。
約8割が業務改善の効果を実感
2021年に発表された総務省の「情報通信白書」によると、IoT・AIなどの導入によって業務改善効果を実感できた企業の割合は約8割に上るとされています。また「AIが業務改善に悪影響を与えた」という回答がゼロであることも注目すべき点といえるでしょう。
近年は、ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、AIで実現可能な業務改善の幅も広がっています。従来は、検査や音声認識などが中心であったものが、文書作成や企画などの業務にも活用できる余地が拡大しているのです。また技術の発達により、従来よりも精度の高いAIが次々と開発されています。
前述したように、現状、日本企業のAI導入率は約24%と決して高いとはいえません。しかし業務改善につながる事例が増えていけば、AI導入を前向きに検討する企業も増えていくと考えられます。また競合企業がAIを導入し自社に先駆けて業務改善を実現することも十分にあり得るため、費用対効果を踏まえたうえで積極的な検討が求められるでしょう。
AI活用事例
近年は、これまでで紹介した事例にとどまらず、さまざまな分野でAIが活用されており、業務の自動化や効率化につながっています。ここでは、代表的なAI活用事例についていくつか紹介します。
事例1:AIによる顧客対応の自動化事例
事務処理やヘルプデスクなどのアウトソーシング事業を手がけるパーソルワークスデザイン株式会社は、スタッフの増加により、接客内容の評価作業の負荷が高くなっていることに課題を感じていました。そこで、AIの音声認識機能を搭載した「AmiVoice Communication Suite Cloud」の導入を検討。この製品は、95%の高い音声認識率を誇り、接客品質の評価も自動で行えます。
そのため、評価者の負荷軽減につながり、一定の基準に基づいた公正な評価ができるようになりました。
事例2:AIによる契約書チェック
商業施設の運営を支援する株式会社イーストでは、年間500件に及ぶ契約審査を法務部門のスタッフ4名で実施しています。契約審査においては、株式会社LegalOn Technologiesが提供する「Legal Force」というAIサービスを導入しており、効率的かつ正確な作業を実現しました。「Legal Force」の大きな特徴は、契約条項に含まれるリスクや内容の抜け漏れをAIによって検知できることです。
このサービスを導入することで、契約書のチェックにかかる時間が平均約3割短縮できるとされています。
工場や製造現場での事例
ミスミ
自動機の標準部品、金型部品、生産関連部品の製造・販売を行う株式会社ミスミが提供する機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy」は製造業でのDXを実現した良い例です(2023年には「ものづくり 日本大賞 総理大臣賞」を受賞)。
これまでは注文を受けた部品の見積もりから出荷までは通常数週間程度の期間が必要でしたが、「meviy」実装後は、顧客が3DCADデータをアップロードするだけで、最短1分の即時の見積もり、最短1日の出荷を可能にしています。注文があるとAIが即座にミスミ社の工場とデジタル連携をして、見積もりと製造日数を算出。工場では自動加工が始まる仕組みとなっています。
3DCADデータをアップロードすると、寸法、穴、幾何公差指示、板金加工、切削加工や素材の選択も可能となっており、最小1点から注文できます。またソフトのインストールも不要で、無料の会員登録さえすればブラウザ上で365日24時間注文が可能となっています。
アパレル企業
近年は、ECサイト経由で洋服を買う場面が増えており、アパレル業界においても物流の効率化が課題の一つです。国内大手アパレル企業では、ECサイト向け物流倉庫において商品の保管から各拠点への配送までをAIに任せることで、省人化を図る取り組みが進んでいます。
具体的には、RFIDタグから収集したデータをもとに、倉庫内での最適な配置や移動経路をAIが分析することで、無駄のない流通を実現しているのです。昨今では、物流の2024年問題に伴う業務変革の必要性が社会的に認識されていることから、アパレル業界の商品流通でもAIなどのIT技術を活用した業務効率化が進んでいくものと考えられます。
食品工場
食品工場においても不良品判別の分野でAIの導入が進んでいます。従来は、工場内のラインにおける不良品を人の目で判別するケースが多く、判断が人によって異なるなどの課題がありました。特にジャガイモなどの食品は、個体ごとに見た目の違いが大きい品種が多いため、人手に頼らざるを得ない状況でした。また昨今は、人件費も高騰しつつありコスト削減の観点でも不良品判別の自動化が求められています。
食品の不良品判定にAIを導入することで、統一された基準で人手に頼らない判別作業が実現しつつあります。またAIに不良品のパターンを学習させることで、より精度の高い判定も可能になるでしょう。
総合電機メーカー
国内の大手総合電機メーカーでは、コンクリート表面のひび割れを検知するAIを開発し、従来は目視で実施していた検査の効率化を進めています。このAIでは、コンクリート表面の画像データとこれまでに培ったひび割れ検知の知見を組み合わせて、ひび割れが発生した領域をラベル付けすることで高精度な判定に役立てているのです。
また幅0.1ミリメートル以上のひび割れ検出率は95.9%と高い精度を誇ります。昨今は、高度経済成長期に建設されたインフラの老朽化が進んでおり、メンテナンスや保守の効率化が大きな課題です。また建設業界の人手不足などもあり、インフラのメンテナンスにおいてはより踏み込んだ形での自動化が求められるでしょう。
ChatGPTも製造業に!時代の変化に対応することが重要
ChatGPTは製造業でも徐々に活用され始めています。データ収集や分析、故障の予知、検品などではなく、工作・加工分野、マニュアル作成などで利用されているようです。
そもそもChatGPTは人間と同じように会話が可能なテキスト生成AIです。そのためCAM(コンピューター支援製造)などのプログラミング生成、IoT機器やロボティクスへの的確な指示などの効率化に貢献しています。今後は、デジタル分野での製品開発や動作確認などにも活用の幅が広がっていくことは容易に予測できます。またマニュアルやドキュメントの作成はChatGPTの得意分野となります。
まとめ
このように、AIはさまざまな業務効率化を実現できる可能性を秘めています。そして、今回ご紹介したようにすでに業務効率化を目的としたAI製品が数多く登場しています。
非常に便利なAIではありますが、重要なのは、得意領域と不得意領域が存在するため、人間とAIをどのように協働・共存するかの視点となります。また企業にとって強みとなるコアケイパビリティなど自社の強みをAI導入でどのように伸ばしていくかというビジョンも定める必要があるでしょう。
デジタル技術の進化によって、業務プロセスやビジネスモデルの変化が求められるなかで、従業員に求めるスキルや知識も変化していきます。常にスピーディで小サイクルのPDCAを繰り返すことで、日進月歩のAIの最適な導入方法のヒントも見つかるでしょう。
(提供:Koto Online)