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なぜ医師に賠償責任保険が必要なのか

最近、医療過誤の報道が「控えめ」になってきているようです。むしろ医師不足の話題がメインであるため、インシデントが隠れているのです。ところが、現実として毎月のようにある事故の多くは「研修医」の誤薬(輸血を含む)が非常に多く、指導医が少ないことが問題になっています。そのため、賠償責任保険の存在がクローズアップされていますが、これは本質的な問題解決とは別次元といえるものです。ですが、賠償責任保険自体は、現代社会に不可欠なものとなっていることを、前提に進めていかなければならないのです。

医療機関医賠責と勤務医医賠責を知っておこう

訴訟は医療機関にとって、ダメージの大きい事象です。一般的に患者は病院よりも担当医を信頼する傾向にありますが、病院にとっては医師も看護師もチームの一員と考えます。良い医療とケアを享受できれば、患者の信頼感は絶対ですが、その逆の対応では病院そのものの評価がダウンします。

これが医療過誤に発展した場合、コミュニケーション能力の高い医師、看護師長がケアできなければ、病院そのものの「存亡」にも関わるのが、昨今の事例です。良くない病院はM&Aの対象となり、経営陣は刷新されることがほとんどです。そのため、病院まるごと掛ける賠償責任保険があり、これが「医療機関医賠責」です。

これに対し「勤務医医賠責」は研修医や勤務医が加入できる賠償責任保険であり、免責100万円、最高保険金額1億円という商品です。ここで注意が必要なのは、自分の所属する病院が加入していても、それは「病院としての責任を負う」だけであり「担当医個人の責任」は賠償しない、ということ。つまり、オプション契約していなければ、勤務医も研修医も個人賠償を負う可能性が高いのです。

主に、日本医師会では開業医が医師会に入会すると自動的に加入する医賠責に比べ、勤務医の加入率が非常に少ないことを危惧しています。民間で販売されている医賠責と日医の医賠責では、紛争処理に専門医師が立ち会うか否かが特徴であり、医師会の場合は「より医療に理解ある原因究明」を行います。ですが、実際の医療過誤については報道そのものもなかなか公開されない(個人情報保護の観点から)ため、医師会や民間医賠責担当者ですら把握していないのが実態です。

チーム医療の責任者、という認識を

厚生労働省や日本医師会などが出資し、中立的立場で活動する「公益財団法人日本医療機能評価機構」が認定病院として全国の医療拠点を審査していますが、その項目の中には「訴訟などが発生した場合に誠実に対応する体制が整えられているか」の一項が含まれています。実は、この評価基準の主眼は『チーム医療の実践』の有無が問われているのです。

特に平成25年度の医療過誤で目立ったのが「エース級医師の暴走」という事故です。組織の悪弊は、経験年数の多い医師を寵愛することから始まります。一人の医師がスキルの未熟さを認識せず、立て続けにミスを犯すことで、看護師や助手の連鎖医療過誤を引き起こすのです。表立っているだけで年間2600件もの医療過誤の多くは、責任感から逃避している医師の行動によるものなのです。

実際の事故率、科目と勤務医・研修医

事故率に関しては、研修医と勤務医の割合は10対6と、勤務医が圧倒的です。これは数が多いこともありますが、研修医の場合はインシデントに正直に向き合う「土壌」があることと、指導医や指導看護師が処置を行う体制があるためです。

例えば、心臓、肺といった器官への事故、大腸の執刀に関わる事故は非常に多くなっています。カテーテルにまつわる事故は中でも多く、手技が原因なのはうなずける結果でしょう。また、誤薬が多いのが最近の傾向であり、人物評価で研修医や勤務医が判断されている面が、後を絶ちません。

医療過誤は「後医」が作っている

医師賠償責任保険の加入は、自動車保険の「自賠責」や学校の「賠償責任保険」などと同じ類いの商品です。これは一種の「お守り」として持っておくのが時代の流れ、というものでしょう。ただ、ここで萎縮されては困るのですが、医療過誤はあくまでも「後医」が作っているという面がある、という事実です。

セカンドオピニオンを重視する患者は、後医の臨床をより信用する傾向があります。医師の手技も個性があり、結果が良ければ成功なのです。だからこそ、医師は「作られた医療過誤」にも、淡々と向き合う覚悟が必要なのです。

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