種類株式とは?

まず、種類株式とはどういうものなのかを簡単にご説明します。
種類株式とは、簡単に言いますと会社の株式の内容に特色をつけて2種類以上のタイプの株式を発行するという制度です。
株式を製品に例えれば、タイプAの株式製品・タイプBの株式製品があるといったイメージです。

例えば、普通の株式以外に優先配当があるタイプの株式を発行するというパターンです。この場合に優先配当があるタイプの株式は高く売り出しても購入する投資家が現れるでしょう。上場会社などは魅力ある種類株式のラインナップを作りを資金調達の作戦とする場合があります。このように、株式のシリーズを数タイプ発行するというのが種類株式制度のイメージです。

会社法で種類株式制度が導入された大きな理由のひとつは、フレキシブルな株式発行を可能とすることで投資家にとって魅力ある株式を発行させ、会社の資金調達をしやすくするということにあります。(ただこのような使い方は、当然市場価格がある上場会社の使い方です。種類株式を経営戦略として活用する方法です)種類株式は登記されますので種類株式の例を登記記録例で見てみましょう。

(種類株式の登記記録例)

発行可能種類株式

総数及び発行する各種類の株式の内容

普通株式 12000株

優先株式 2000株

1.剰余金の配当

剰余金については優先株式を有する株主に対し、普通株式を有する株主に先立ち、1株につき2万円の剰余金を支払う

(参考・法務省ホームページ)

この登記記録例の会社では、優先株式を保有している株主は普通株式を保有する株主よりも2万円優先して配当をもらうことができます。この優先株式なら価格を高くしても投資家を募ることができるでしょう。上場会社などの場合、種類株式はこのようにして投資家に魅力を感じさせて資金調達を容易にするというようにして活用します。

しかし、一方で会社の事業承継の場面で有益な使い方をすることができる株式があります。事業承継で有益な使い方ができる種類株式は、非上場会社でも十分に有効に使用することができます。具体的には「議決権制限株式(と優先配当株式の組み合わせ)」や「拒否権付種類株式(黄金株)」という種類株式を発行することで事業承継が現経営者様にとっても、後継者の方にとっても、メリットがある使い方をすることができる種類株式です。


事業承継と議決権制限株式の活用法

まず、議決権制限株式とは、会社の株主総会において、広い意味で意見を述べたり投票することができる権利のことをいいます。株式会社の株を保有していれば原則として議決権を行使することができ、株主総会で意見や投票をすることができます。(法律上はどのような規模の株式会社でも最低1年に1回は株主総会を開催する義務があることになっています。)この議決権を制限する、つまり議決権を行使させないという内容の種類株式を発行することができます。これは会社の規模等関係なく、どのような株式会社でも発行が可能です。

(議決権制限種類株式の登記記録例)

発行可能種類株式

総数及び発行する各種類の株式の内容

A種類株式 12000株

B種類株式 8000株

1.議決権

B種類株式の株主は、株主総会において議決権を有しない

ところで、株式会社において株主総会は最高意思決定機関なので、重要事項は株主総会で決議(決定)されることになります。例えば会社の役員は(ごく例外的な場合を除いて)株主総会の決議を経て決定されることになります。(会社法第329条1項)いかに経営手腕に優れていても、仮に会社の創業者であっても、株主総会で選任されなければ株式会社の経営陣に入ることはできません。そのため、経営陣は少なくとも51パーセント以上の議決権を保有してなければ、実質的に会社を支配・経営することはできません。

いつ役員を解任されても文句が言えない、いわゆる「雇われ社長」となることになります。そして事業を安定的に後継者に承継させるためには、会社の支配権は後継者に託さなければなりません。つまり、少なくとも51パーセント以上の議決権は後継者に承継させなければなりません。(さらに可能であれば70パーセント程度は保有しておくことが望ましいといえます)そこで、この場合、議決権制限株式を発行することで議決権を後継者に集中させることができます。

つまり、後継者の方には議決権がある株式を保有させ、その他の株主には議決権制限株式を保有させることで会社経営権を後継者にのみ承継させることができるということになります。しかし、ひとつ問題が生じます。

後継者の方は議決権付きの株式を譲り受けて納得するとしても、議決権制限株式を持った他の株主は不満が生じるおそれがあります。そこで、議決権を制限する代わりに配当において優先するという株式もセットで発行することで議決権制限について納得してもらうということが期待できます。
具体的には以下のような株式を発行します。

(議決権制限種類株式と配当優先株式を組み合わせた登記記録例)

発行可能種類株式

総数及び発行する各種類の株式の内容

A種類株式 12000株

B種類株式 8000株

1.議決権

B種類株式の株主は、株主総会において議決権を有しない

2.剰余金の配当

剰余金についてはA種類株式を有する株主に対し、B種類株式を有する株主に先立ち、1株につき2万円の剰余金を支払う

B種類株式の内容として議決権制限+剰余金の配当を制限するという内容にします。これによって後継者の方(と、現経営者の方、後継者の補佐をしてくれる役員などの方)にはA種類株式を保有させ、その他の株主の方にはB種類株式を保有させるということで会社経営権を後継者にのみ譲ることが可能となり、事業承継をスムーズにすることが可能となります。


拒否権付種類株式(黄金株)

次に、拒否権付種類株式(黄金株)です。
これは通称黄金株とも呼ばれます。これは、会社の創業者の方などが保有されることで経営の一線を退いたあとも、なお、会社の重要事項の決定に絶対的な力を持って関与することができるものです。この黄金株を保有している株主がおられる場合には、株主総会や取締役会で決定することができる事項について、これらに加えて拒否権付種類株式(黄金株)の株主の承諾がなければ、決議の効力が生じないことになります。

例えば、会社が会社分割という方法を使って会社の事業の一部を別会社に譲渡するとします(会社分割については別記事をご参照ください)。会社分割をする場合には法律上、株主総会の決議(または取締役会・簡易、略式事業譲渡の場合)が必要となっています。この場合に黄金株を発行していると、株主総会決議等に加えて黄金株を保有されている株主のOKがなければ、会社分割の効力が生じないとすることが可能とできます。仮に、不採算部門であっても、現経営者様が創業時からはじめた事業などであるために、譲渡が忍びないということもあるでしょう。

経営権を後継者に譲られたとしても、「この決定事項だけは譲れない」という部分があることも人情としては十分にあると言えます(このことが経営合理性の観点から良いかどうかは別問題です)。事業承継において経営権のすべてを譲渡しなければならないということが事業承継を渋らせる大きな心理的原因となり、その結果として事業承継の準備が遅れてしまうということが往々にしてあり得ます。

このような場合に黄金株を発行しておくことで「譲れない」部分だけは保留して経営権を後継者の方に譲るということが可能となり、事業承継についての心理的抵抗を解消することができます。黄金株の登記記録例は以下のようになります。

(拒否権付種類株式(黄金株)の登記記録例)

発行可能種類株式

総数及び発行する各種類の株式の内容

A種類株式 1000株

B種類株式 1株

1 種類株主総会の決議を要する事項に関する定め

当会社の事業の全部または一部の譲渡もしくは合併、会社分割、株式交換、株式移転をする場合においてはB種類株主の株主総会の決議を経なければならない

ただし、注意すべきポイントとしては、あまりに多くの事項に拒否権を残しておくと、「会社の真のオーナーはまだ先代だ」ということになり、事業承継がうまくいかない可能性もあり得ます。時には勇退の決断も必要といえます。このように、種類株式を活用して事業承継をうまく進めることが可能となります。他にもいくつか事業承継に役立つ種類株式は存在します。

手続きについては基本的には株主総会で定款を変更し、その株主総会議事録を申請書に添付書類として法務局に申請すればよいので手続きは簡易です。費用は司法書士さんを頼まなければ法務局に納める登録免許税として3万円のみです。