医業承継に関わる金融機関を確保する
地方の公立病院が累積赤字を積み重ねた結果、救急指定から診療所に格下げされた、などという報道を耳にするようになってきました。財政的にも安定していたはずの有床病院が、なぜ、こうした状況になっているのでしょうか?実は、一見関係ないような開業医の承継問題と、公立病院の規模縮小や廃止は非常に似通っている、と考えられるのです。今回は、いかに金融機関との結びつきを強めるか、をテーマとしていきます。
承継の際に必要な設備投資の算定
開業医の承継は「親族承継」と「第三者承継」に分けて考えることができますが、金融機関からの借り入れについては、両方とも区別せずに論じていきます。まず、現院長が息子に医業を承継する、あるいは第三者に医業を承継していくことを前提に進めます。
この際に、まず考えなければならないのは担保です。現院長から次期院長へ経営方針が固まった段階で、金融機関としては医業の方向性の確認が必要になってきます。ところが、独立行政法人福祉医療機構が多くの病院の融資を行っていたため、実際のところ一部の信用金庫などでなければ、医療法人の決算書の内容が分からない、といった状況が続いてきました。逆にいえば、承継というイベントが来た時に、金融機関は初めて次期院長に対面し、融資状況や現在の担保などを確認できる状況に至るわけです。
つまり、承継は金融機関が一般企業へ融資する状況と同様の「タイミング」というわけですから、積極的に設備投資の有効性を金融担当者に訴求するチャンスでもあるわけです。承継の際、次期院長は自ら「何が新たに必要か」を自ら査定する必要があります。(設備投資企業のファイナンスの誘いもあり得ますので、よく状況を把握しましょう)
資金借入をどこから行うか
資金調達には、前出の独立行政法人福祉医療機構からの借り入れが必要ですが、これは5年から10年という融資期限があるものから、長期のものまで広く存在します。この場合は資金計画は項目ごと(施設、機器、発電機など)細部に渡ります。
そのほかには、代表的なものとしてABS証券、プロジェクトファイナンスなどを上げておきましょう。プロジェクトファイナンスは開業医の中でも規模の大きい総合病院などの場合に使われる手法ですが、査定が厳しい分、その将来性が評価されることになります。ABS証券などは、銀行融資と違い「診療報酬」といういわゆる『日銭』を担保として抑えるもの。
こうした日銭を債券として集めたものが商品となり、ABS証券などになるのです。本来流動資産を担保にすることは、銀行などではできませんが、月別の経営状況によって短期融資が可能になるのが、流動化融資商品の特徴です。
借り入れ年数と上限は
病院の開業資金は別として、承継に関わる資金は金融機関ではなかなか公開しないものです。そもそも承継が短期融資なのか、あるいは病棟増築や耐震工事などの長期融資になるかは、ケースバイケースです。ただ、借り入れ年数は多くが10年を目安にする人が多く、7年程度で黒字に変わらなければ、経営的には難しいといえます。
上限の根拠はいろいろですが、出資金は少なくとも2か月分の収入とざっくり考えて、年商(診療報酬利益)の6倍程度を上限と考えるケースがあります。6倍の意味は金利分相当で、10年以内に完済できるという意味ですが、ここで重要なのは、10年が承継というイベントに関係する融資期間、という考え方でしょう。
確実な融資を確保することが、承継のポイント
今回、承継に関わる融資について簡単に上げてみましたが、重要なことは金融機関とのパイプを持っておく、というスタンスです。公立病院がなぜ財政破綻の憂き目にあったか、という点ですが、診療報酬改定が原因ではなく「人件費」が原因だというのが本質だと言われています。
公立は「公務員給与」の指定がありますが、開業医は民間ですから自分で給与を決めることができます。逆にいえば、民間の銀行や信用金庫はこうした民間企業の決算報告書や会社の報酬制度などを熟知しています。融資の根拠は何か、といえば担保です。担保の根拠は業績であり、将来計画です。医師の多くは経営者としての手腕を磨くチャンスがないまま院長となりがちですが、銀行や信用金庫などの担当者と接することで、経営を学ぶ機会ができるわけです。承継とは、借りる方と貸す方のお互いにチャンスがある、と考えられるのです。