株式の譲渡制限の規定の意味

ほとんどの会社には、

・「当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない。」
・「当会社の株式を譲渡するには、会社の承認を受けなければならない。ただし株主間の譲渡に関してはこれを承認したものとみなす」

などといった株式の譲渡制限の規定があるかと思います。(この規定があることは定款・登記で確認を取ることができます)そもそもこの株式譲渡制限の規定とは一体何なのでしょうか。

株式の譲渡制限の規定とは、株式会社のオーナーを固定化するための規定です。ほとんどの会社の場合には、設立当初からごく自然にこの株式の譲渡制限の規定が存在していたことと思います。このような規定はどうして存在するのでしょうか。仮にこの規定がない(あるいは削ってしまう)とすると、会社の株主としての地位は自由に譲渡することが可能となります。

つまり、オーナーがいつでも「コロコロと」変わってしまう可能性があることになります。そして、一般の会社においてはオーナーがころころと変わってしまっては、到底経営は成り立ちません。一部の上場している会社を除けば会社経営はオーナー兼経営者の方が、ご自身の信用と経営手腕とで行われていることは疑いようがない事実です。

そのため、いきなりオーナーの地位が変わったとして、会社の経営に口出しをしてきては会社の経営方針がまとまらず、経営の混乱が生じてしまいます。あるいはおかしな例を挙げれば、例えば家族経営の会社様でご主人・奥様・子息が株主である場合に、子息の方がちょっと借金をしてしまい、担保として株式を差し入れた場合、返済できなかった場合に「怖いお兄さん」が会社のオーナーとなってしまうことだって考えられてしまいます。株式の譲渡制限の規定があれば会社が承認しない限り、株式を担保にした「怖いお兄さん」が会社のオーナーとなってしまうことはありません。

このような例は、極端な机上の事例に過ぎませんが、ほとんどの会社では経営陣を安定させるために株式の譲渡制限に関する規定は不可欠です。そのため、上場会社を除くほとんどの会社ではどの会社でも株式の譲渡制限の規定があることになります。(反対に上場会社では株式の譲渡制限の規定があることは絶対にありえません)

このように会社の経営には必要不可欠な株式の譲渡制限の規定ですが、ケースによっては規定を見直し、変更をした方が良いというケースもあります。

株式の譲渡制限の規定の見直し例・「株主間に承認みなし」がある場合

「当会社の株式を譲渡するには、会社の承認を受けなければならない。ただし株主間の譲渡に関してはこれを承認したものとみなす」

この「ただし…」の規定がある場合に、ただし以下の規定を削る定款変更を検討されたほうが良いケースがあります。それは主として株主の方に世代交代や経営方針の食い違いが生じている場合です。

「当会社の株式を譲渡するには、会社の承認を受けなければならない。ただし株主間の譲渡に関してはこれを承認したものとみなす」という「ただし…」の部分は既に存在している株主の方同士で持ち株比率が変化しても、外部から第三者が入ってくるわけではないので、経営に影響は出ないという発想で作られています。(また株主間での譲渡にまでわざわざ取締役会などで承認手続を取るのではかえって手続きが面倒になるので、それを避けるという意味もあります)

しかし実際には会社の株主同士でも経営に対する考え方、特に相続による世代交代を経るなどすると、経営方針について意見の食い違いが生じる可能性がありえます。

例えば、はじめはAさん、Bさん、Cさん、Dさんでそれぞれ株式を40パーセント・30パーセント・20パーセント、10パーセントを保有していており、Aさんが代表取締役、Bさん、Cさんがそれをサポートする形で取締役、Dさんが監査役)で経営を回していたとします。ここでBさんが死亡してしまい、相続が開始した場合、Bさんの30パーセントの株式はBさんの相続人(仮にbさんとします)に移ったとします。(なお、株式の譲渡制限の規定があっても株式の相続制限をすることはできませんので、Bさんの株式はbさんへ相続されることとなります)

この場合、bさんがAさんの従来の経営方針に反対の場合に、CさんやDさんから株式の譲渡を受けることで会社の持ち株比率は、Aさん40パーセント・bさん60パーセントとなり、会社の経営権は一転してbさんのものとなります。

もちろん、会社の経営は時代や経済状況によって異なってしかるべきですが、ここでAさんがいまだ経営権を保持したいと考えた場合には、いわゆる「会社のお家騒動」となり経営が混乱します。株主間であるからといって一枚岩で経営が安定するは限りません。とくに、相続による世代交代があった場合、みなし承認の部分が経営の混乱を招く可能性がありえます。場合によってはみなし承認については、削るということもひとつの方法といえます。

なお、特例有限会社(=有限会社という商号を使っておられる株式会社のこと・現在では有限会社法の廃止により、有限会社という会社は法的には存在せず、従来の有限会社は、有限会社という商号(名前)を使った株式会社としてとり扱われます。そのため、例えば、かつての有限会社にあった「出資の口数」という概念はなく、すべて株式・株主です。(今は法的には有限会社という会社は存在しません)において、株式の譲渡制限のみなし承認の規定を変更するためには、有限会社という商号を変更して株式会社に商号変更する手続きをしなければ、みなし承認の規定の変更ができないので少しだけ手続きが面倒になります。この点は、登記の専門家の司法書士さんに任せれば問題はないでしょう。

株式の譲渡制限の規定の見直し例・承認権者があいまいな場合

株式の譲渡制限の規定について、以下のような定款・登記をしている会社は多いと思われます。

・「当会社の株式を譲渡するには、会社の承認を受けなければならない。」

承認するのが、株主総会や取締役会、あるいは代表取締役などと特定されておらず、会社と定めているケースです。この規定自体は法的には何も問題はありません。しかし、株式が会社外部の第三者に譲渡された場合に承認権者を明確に決めておかないと会社内で不要な軋轢が生じる可能性がありえます。

例えば、先のAさん・Bさん・Cさん・Dさんといた場合に、Bさんが親しい社外のXさんに株式を譲渡しようと考えた場合、そのXさんがB.とは親しくとも、Aとは親しくない(あるいは経営についての考え方が合わないなど)可能性はありえます。この場合、Xさんへの譲渡にBさんは賛成でもAさんは反対するでしょう。
すると、譲渡について実際に承認できる権限があるのは誰かをはっきりとさせておかなければ会社内部で不要なトラブルとなりえるでしょう。Aさんが「代表取締役だから俺が決める」といい、Bさんが「みんなに影響することなんだから取締役会で決めるべきだろう」といった場合には、社内で不穏な空気となるでしょう。

この場合に規定に「会社」としているだけであれば、誰が決めるのかについての答えは存在しないことになります。譲渡承認に関する権限は明確にしておいたほうが良いと言えるでしょう。

例えば、譲渡承認については、経営者の判断を重視するとすれば「代表取締役」、合議によって全員の意思を尊重するとすれば「株主総会」や「取締役会」と定めておくことが良いと言えます。事前に権限を明確にしておけば、いざという時に「あらかじめ決めていたことだから」ということで問題は起きにくくなるでしょう。

「ルールは事前に明確にしておいたほうがいい」という当たり前のことをしておくことが意外なトラブルが発生してしまうことの防止になるということができます。

株式の譲渡制限に関する規定の変更手続き

株式の譲渡制限の変更についての手続きは、株主総会特別決議(議決権を有する株式の過半数以上が出席して、出席した株主の議決権の3分の2で成立するもの)によって定款を変更すれば済みます。イメージとしては「67パーセントの賛成」といったイメージです。(全員一致が間違いがないでしょう)作成する書類は基本的には株主総会議事録1通だけです。

登記手続きも申請書を法務省のホームページからダウンロードして、株主総会議事録を添付して登記申請をするだけでいたってシンプルです。登記の費用は、司法書士さんに手続を依頼しない限りは、法務局に申請する際にかかる登録免許税の3万円だけとなります。