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厚生労働省の調べでは日本の高齢化は右肩あがりで、65歳以上の高齢者のうち認知証発生割合は全体の15%、認知証になる可能性がる軽度認知障害を含めると65歳以上の実に4人に1人が認知証とその予備軍との事です。事業経営に携わっている人にも、もはや他人事ではありませんね。


「任意後見制度」とは?

H12年4月から介護保険制度とともにスタートしたのが「成年後見制度」です。この制度は、認知証を発症した高齢者や知的障害、精神障害者など、判断能力の不十分な人を保護し、その人たちが最後まで人間としての尊厳を失わずに生活していけるようにする為の制度です。成年後見制度には以下に示すように

法廷成年制度…判断能力がすでに失われたか、不十分な状態にある為、自分で後見人を選ぶことが困難な場合に、裁判所の手続きにより後見人等を選任してもらう。
任意後見制度…まだ判断能力が正常である人、または衰えたとしてもその程度が軽く、自分で後見人を選ぶ能力があり、当事者間の契約によって後見人を選ぶ。

の二つの制度があります。


任意後見制度の保護範囲

まだ判断能力が十分にある時に、認知証等で判断能力が低下した場合に備えて、信頼できる人(任意後見人)との間で自分の生活や療養看護・財産管理について、どの程度まで程をしてもらうかを具体的に取り決める必要があります。任意後見制度は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから契約の効力が生じますので、自己決定を尊重しつつも任意後見人の権利繫用を防止し、本人の保護を図るようになっています。

●任意後見制度での契約条項

①任意後見契約に関する、法律に基づくものであること。
②任意後見監督人が選任された時から、契約の効力が生じる。
③本人の判断能力が十分でなくなった場合の財産管理や生活・療養看護に関する事務の全部または一部の委任であること。
④委任した事務について、代理権を付与すること。


委任できる事務の内容

契約自由の原則が当てはまっているので、本人の存命中の行為であれば自由に定める事が出来ます。代理権を付与することが出来る事項は、法律行為である必要があります。

・財産管理の事項

不動産やその他の重要な財産の管理・処分・預貯金債権の管理・払い戻し、賃貸契約の終結・解除・遺産分割などが該当します。

・身上監護の事項

介護契約・施設入所契約・医療契約の終結、要介護認定の申請などが該当します。介護校などの事実行為も、隼委任行為事項として任意後見契約に定める事が出来ます。


任意後見制度の契約

まず、任意後見契約での受け手となる「受任者」を選定します。特に制限は設けられておらず、法人でも、個人でも、複数人でもなることはできます。弁護士や司法書士・行政書士などの法律の専門家や社会福祉士などの福祉の専門家、家族を選任することも可能です。契約の終結は公証役場に出向いて、公正証書で作成する事が必要です。もし行くことが困難な場合は、公証人に来てもらうこともできます。

●手続きに必要な書類

本人の戸籍謄本もしくは住民票1通
任意後見受任者の住民票1通
公正証書作成手数料…1件につき11,000円
その他、登記費用や印紙代などの費用が20,000程かかります。


事業承継対策

後継者を代表取締役に選任する為の、株主総会における議決権行使が重要になってきます。会社法310条で代理行使が認められており、任意後見契約で代理権を付与することができます。ただし、もし定款で議決権行使の代理人資格を株主に限定している場合は、任意後見受任者が株主でなければ議決権行使が出来ないことになるので、ご注意ください。後継者以外の者を任意後見人とする場合には、株主資格を持っている者と、持っていない者の複数を受任者として選任することも選択肢のひとつでしょう。


任意後見人制度を安心して活用する為に

契約を終結したものの、適切な時期に効力が発揮されないようでは意味がありません。本人が自身の判断能力の衰えを自覚できず、受任者もそれに気づけない事もあります。受任者に本人の判断能力について、継続的かつ定期的に確認をする状況をつくりましょう。また、事業の後継者を「任意後見受任者」とすることでのメリット・デメリットを挙げてみます。

メリット…確実に後継者に事業を承継することを考えると、後継者を代表取締役へ選任し、自社株式や事業資金の後継者や会社への移転などにおいて代理権行使に合理性があります。

デメリット…事業承継後に本人の財産を事業経営に流用されてしまう危険があります。

信頼関係の維持やデメリットの回避の為にも、任意後見受任者と後継者を分けたり、後継者と第三者を共同受任者として代理権行使を定めましょう。会社経営者といえども高齢化を避けて生きる事はできません。判断能力のある今から念頭に入れておく事が、健全な会社の存続と社員の生活を守ることに繋がる事でしょう。

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