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(画像=株式会社Payke)
古田 奎輔(ふるた けいすけ)
株式会社Payke代表取締役CEO
1993年生まれ。2014年、琉球大学在学中に株式会社Paykeを創業。外国人観光客向けのアプリ「Payke」を開発。Forbes ASIA「Forbes 30 Under 30 Asia(アジアを代表する30歳未満の30人)」、日経ビジネス「世界を動かす50人」選出、起業家万博総務大臣賞、「ダイバーシティTOKYO アプリアワード」優秀賞など受賞。
株式会社Payke
2014年11月26日設立。商品パッケージにある「バーコード」をスマホでスキャンするだけで、商品のあらゆる情報を7言語で表示することができる訪日外国人アプリ「Payke」を運営。2015年11月からサービスを開始し、日本のメーカー約1,200社、約50万点※1の商品データを多言語で保有。アジア圏を中心に400万人以上※2に利用されております。
※1:2023年9月時点での累計数値
※2:API 提供先なども含む利用者数

貿易商社からスタートアップ創業へ

―まずは、創業の経緯についてお聞かせいただければと思います。

株式会社Payke・古田 奎輔氏(以下、社名・氏名略)::元々私は、貿易商社を立ち上げ、日本の商品を海外に輸出する仕事をしていました。その中で、外国人に商品の価値を伝え、売る難しさを経験し、日本国内の商品が言語や越境の問題で十分に流通していかないという課題感を持ちました。

モノ自体の流通だけでなく、モノの価値も認知してもらわないと売れるものも売れないと考え、価値を流通させることで、世界中の人がモノの価値を知るきっかけを得られるプラットフォームを作ろうと思い創業に至りました。

―価値を流通させるという発想から、事業化、そして現在に至るまでの経緯を教えていただけますか。

世界統一規格であり、どの商品にもついているバーコードを活用することで、商品にまつわる様々な情報をコンテンツ化するサービスを作りました。コロナ前では3年間で約400万ダウンロード数(※)を記録するほどサービスが広く認知され、拡大しましたが、コロナ禍ではメインユーザーである来日外国人が減少し、一時的に開発系の業務や大手企業への事業開発のコンサルティング、データ提供など別事業も立ち上げていました。最近では日本の入国制限も緩和され始め、来日外国人も増えてきているので、我々のユーザー数もV字回復しています。

(※)第三者へのAPI提供も含む

多言語データベースとインバウンド対応が強み

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(画像=株式会社Payke アプリ画面)

―バーコードを活用したサービスにオンリーワン性を感じました。続いて、御社の事業の強みを教えていただけますか。

まず一つはバーコード情報に紐付けられたデータベースです。商品についているバーコードの特定情報を、日本語や中国語など多言語での説明、口コミ情報などと紐付けてデータベースを作っています。

弊社で保有するデータベースには現在約50万もの商品情報が格納されており、国内最大級の多言語データベースを保有していると言えます。他社が真似しようとしても、50万件分のデータベースを作り、全て多言語に翻訳する必要があるので、参入障壁はかなり高いと思います。

また、もう一つの強みは、インバウンド領域での実績です。海外から日本に来る方に当社のサービスを使っていただく仕組みが出来上がってきており、多い月では全体の70%がオーガニックでのダウンロードになります。最近もアプリストアランキングで上位にランクインするなど、同領域では日本で一番ユーザーさんを抱えているサービスの一つになっております。

―海外から日本に来られる外国人の方々が、当然のように御社のサービスをダウンロードされているのですね。

その通りです。当然、今後もユーザー数をより増やしていく必要があると考えています。例えば、台湾語で「日本旅行 便利」と検索すると、当社の紹介コンテンツが出てきます。

また、YouTubeでも「日本 買い物 便利」と検索すると、各国で当社のサービスを紹介するコンテンツが増えてきています。これらはユーザーが自主的に投稿しているもので、波及的に露出機会が増加することも強みの一つであると思っています。

国籍に対してのダウンロード率で見ると、海外シェアを取れてきています。その他、香港では国籍に対するダウンロード率のシェアが高く、人口が約750万人なのに対し、そのうち50万人がダウンロードしてくださっています。さらに、約750万人の人口のうち来日観光客が三分の一程度を仮定すると、一定以上の訪日旅行者シェアを取れていると思います。

AI技術とビジネスの新たな可能性

―次に、現在最も関心を持っている社会的またはビジネス的なトピックについて背景や理由も併せてお聞かせください。

AIやチャットボットの領域は非常に注目しています。英語の自然な日本語への翻訳や、機械翻訳で翻訳したコンテンツの修正など、翻訳に関してはAIができる領域が増えていると感じています。

その中で、翻訳されていること以外でのバリューを作り出すことが重要だと考えています。私たちはすでに価値を流通させるという発想でサービスを作っていますが、いかにAIを活用して翻訳業務を自動化しながら、コンテンツを作っていくかということに興味があります。

―具体的にはどのようなことを考えていますか?

例えば、商品を売りたいときに、「市場でその商品がどう評価されているか?」というのは、口コミ情報などをもとにしたキーワードやその出現頻度から現時点でも分析が可能です。ただ、現状では、最も商品を売るために最適な商品説明文の検証が、データに裏付けがない状況で行われています。

AIによる自動化が進むことで、人的コストをかけずに精度が高い商品説明文を作ることが可能になる中で、50万件分のコンテンツを保有する私たち流通プラットフォームは『商品説明特化型のAI検索エンジン』として価値がさらに高まると考えています。

データに基づく商品価値最大化と地域創生への挑戦

―価値を内包した商品やサービスについて語っていただけますか?

現在、市場では商品が売れるか売れないかのABテストがほとんど行われていません。例えば、パッケージに様々なキャッチフレーズが書かれていますが、「どのフレーズが商品を最も売れるものにするのか?」は、データがない状況で行われていることが多いです。我々が提示できるのは、データに裏付けたキーワードです。これがコンテンツとして価値を生むと考えています。

―サービス自体に価値を生む計画などもあるのでしょうか。

はい。我々は消費に関わる領域を企業のコンセプトとして持っています。最もわかりやすい消費はモノを買うことなので、そこに注力してきました。しかし、最近では飲食サービスや陶芸、着物の着付け体験などの体験消費も商品の一つと位置づけ、徐々に領域を拡大していく予定です。

―具体的な例を教えていただけますか?

例えば、飲食店のメニューにA5ランクの松坂牛ステーキと記載されている場合、外国人にどう伝えるかが重要になります。通常、「A5ランクの松坂牛ビーフステーキ」と翻訳されますが、我々の発想では、「A5ランクは日本で最高品質のランクであり、松阪牛は中でも日本一とも言われるブランド牛。日本に来たなら一度は食べてみるべきだ。」と伝える方が、外国人の購入率・注文率が上がると考えています。そのワンフレーズをユーザーに届けられるかどうかが重要で、そのためのサービスを提供しています。

―領域を拡大しつつ、既に取り組まれているということですね。

はい。更に大きな視点で見ると、地域創生にも貢献できると考えています。例えば、京都府は外国人観光客で溢れていますが、観光客は中心都市である大阪府に宿泊する傾向があります。これは京都府だけでなく、東京都の周辺都市も同様です。

この社会的課題に対応するためには、地域の魅力や地域ならではのコンテンツを提供することが重要だと考えていて、将来的には地域創生領域にも参入できればと考えております。

思い描くビジョンと新規事業について

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(画像=株式会社Payke 店頭)

―続いて、どのようなビジョンを描いて事業を推進されているかについて、新規事業も含めて教えていただけますか。

現状、当社のサービスは、国内で展開しているインバウンド領域の中でトップクラスの位置にあります。しかし、それでも日本に来ている外国人観光客のうちの約5〜10%しか利用者がいません。まだまだ利用率を上げたいと考えており、15〜20%を目指しています。最終的には、二人に一人が使っている状態を目指しています。

さらに、私たちが目指す価値流通が実現できていくと、日本企業が外国人向けにサービスを提供する際に、当社のプラットフォームを通すことで、これまで以上に企業様のサービスを日本に来る可能性が非常に高い旅前ユーザーに届けることができるようになります。現在も一部企業との連携は進んでいますが、まだまだ目指す状態には至っていません。

これから当社のプラットフォームがさらに価値流通で力を発揮することで、各企業の価値との相乗効果が生まれるだけでなく、当社が推奨する商品や伝えたい情報をユーザーに直接届けられるようになり、その結果、消費行動を変えることも可能になると考えています。

小売業で例えると、リアルタイムでどの店舗に何人が集まっていて何が買われているかがデータとして分かるようになります。また、トレンド情報や外国人の購買行動などがデイリーベースで各店舗に共有できるようになります。

例えば、ある商品がある店舗で売れていると分かれば、翌日には自店舗でその商品を仕入れることができます。このように、従来の小売り流通のやり方が大幅に短縮されると思います。

―今後、御社のサービス自体に機能が追加されていくような構想もあるのでしょうか。

いわゆるスーパーアプリ化(1つのプラットフォームとなるアプリに、多種多様なサービスが集約されること)のような構想も当然ありますが、現状、オーガニックでユーザー数が増えており、アプリストアの評価も海外では4.5と非常に高く、現在の機能はユーザーにとって非常に有用であることが実証されています。これからは、どのように有意義な機能を追加していくかが重要になります。

―さらに、御社のサービスではグローバル化にも力を入れていると思われますが、例えば、日本に来る外国人だけでなく、日本人が海外に行った時にも使えるようなサービスを目指しているのでしょうか。

はい。例えば、日本人が韓国やタイに旅行に行った際にも使えるようにしたいと考えています。

また、創業時から自社でマーケティングを行なっており、アジア各国を中心に何十万人単位でのユーザーを獲得しています。例えば、そのユーザーに、各国での商品情報を集めてもらうという考え方もあります。例えば、商品登録ごとにポイントをあげるという方法であれば、多くの情報が集まると思います。

―これからどのような方向性を目指しているのでしょうか?

これまでは日本国内のメーカーさんや小売店さんと取引を行うBtoBのビジネスモデルがメインでした。しかし、コロナを経て、ユーザーさんが急激に戻ってきていますので、to C向けの課金コンテンツを作っていきたいと思っています。アプリ自体を有料化するのではなく、アプリ内で商品を買ったり、クーポンをダウンロードして実際の店舗で使ったりすることを考えていて、この夏ごろには色々な機能がローンチできる計画で、今のアプリのフルリニューアルを行っています。

コロナ後の成長市場としての観光業界

―最後に、インバウンド市場の今後について古田さんのお考えをお伺いさせていただけますでしょうか。

インバウンド市場は間違いなく中期的に成長すると考えています。コロナ禍では市場規模が約千億円程度でしたが、今年には約5兆円に到達すると言われています。さらに、まだ全盛期のピークにも達していない状態なので、これがコロナ前の状況に戻り、さらなる成長が見込めると考えると、数年後には必ず伸びる市場になると考えています。

外貨を獲得できて成長見込みのある産業という観点から見ても、例えば自動車業界や半導体業界と比較しても優秀な人材の不足などの問題もありますが、インバウンド市場の方が飛躍的に成長できる可能性は高いと考えています。ただ、日本の同領域でのプレイヤーはまだ多くない印象なので、インバウンド業界にチャレンジする会社が一社でも増えるといいと思っています。 インバウンド業界は、今後の日本の生きる道といっても過言ではないと思います。

プロフィール

氏名
古田 奎輔(ふるた けいすけ)
会社名
株式会社Payke
役職
代表取締役CEO