株式会社Mujinは、ロボティクス技術のフロンティアとして、物流と製造現場へ最先端技術を導入している。同社は、2011年に滝野一征氏とデアンコウ・ロセン氏より設立され、それ以来、モーションプランニング技術や3D認識技術などを組み合わせることで、ロボットが周囲の環境や対象物をリアルタイムで認識し、最適なロボット動作を自律的に生成するロボットの知能化を可能にした。今回はこの画期的な会社のCEOである滝野氏から、Mujinの技術革新や未来に向けたビジョンについて詳しく深ぼっていく。 (執筆・構成=野坂 汰門)
1984年日本大阪生まれ。2011年に世界的ロボット工学の権威であるロセン博士とMujinを創立。Mujinを設立する以前は、米国大学卒業後、ウォーレンバフェットの会社として有名な、製造業の中でも世界最高の利益水準を誇るイスカル社に勤務し、生産方法を提案する技術営業として多くの賞を獲得するなど、輝かしい実績を残す。日本での厳しい生産現場を渡り歩いたことによって得た幅広い知識や現実的な視点は、特に事業化が難しいといわれるロボットベンチャー業界で大躍進する原動力となった。
これまでの事業変遷について
ー物流、生産ラインにおける先端技術の中心になりつつある、株式会社Mujinのトップにして、我々の未来を切り開くべく活動している滝野氏にお話を伺います。まずは御社の現在に至るまでの事業の変遷についてお聞かせください。
元々、モーションプランニング技術のロボットへの実用化を手掛けていた、共同創業者であり現CTOであるロセンとの出会いがきっかけで2011年に当社を創業しました。従来の産業用ロボットは、プログラムされたことを繰り返し行うことを得意とします。しかし、モーションプランニング技術を採用することで、センサーを通じて空間・周辺環境・対象物をリアルタイムに正確に把握し、ロボット自ら最適なロボット動作を自律的に生成します。そのため、Mujinの知能ロボットは、条件に合わせてロボットの動作も変わります。
数多くのデモと開発により試行錯誤を繰り返し、当社独自のロボット知能化技術「MujinMI(マシンインテリジェンス)」という機械知能を採用したソフトウェアを開発しました。次第に『過酷な労働から人々を解放し、人類が創造性、技術革新、そして世界をより良くする活動に集中できる世界を実現する。』というビジョンを掲げるMujinの技術力は認知されていき、ありがたいことに内閣総理大臣賞・経済産業大臣賞・文部科学大臣賞を含む、23の賞を受賞させていただいております。また、アスクル様やアクセンチュア様、ファーストリテイリング様、フレームワークス様といった大手企業様との業務提携を果たすまでに至りました。また、大手企業様だけでなく国内中小・中堅企業様やアメリカをはじめ海外企業様との取引も増えてきております。
ーなぜロボット自体のハードウェアでなく、ソフトウェアに着目して開発をされてきたのでしょうか。
ロボット自体の機能に加えてソフトウェアも重視されている時代に進化していることに起因します。FA業界や物流業界を始めとした各業界でロボットの選択肢が増えるにつれ、ロボットに関わる業務も複雑化しています。
さらに、現状のロボットは各社様々なオペレーションソフトウェアが使われ、統一性がないのが課題の一つです。そして、その運用ができる人材も非常に限られています。そこで、「すべての人に産業用ロボットを」をスローガンに掲げる当社は、誰でも簡単に使いこなせるオペレーションソフトウェアを提供することを目指しています。これにより複雑化したロボット関連業務を簡易的にし、重筋作業を人の手からロボットに引き継ぐことが可能となります。このような背景から、ソフトウェアの方面において開発を進めたいと考えました。
急成長を続けるMujinの強みとは
ー次に、御社の強みについて教えていただいてもよろしいでしょうか。
強みは主に二つあります。一つ目は、産業用ロボットのプラットフォームであり、MujinMIを搭載させた汎用的ロボットコントローラ「Mujinコントローラ」を有している点です。既にロボットに関する技術を多く保有し、産業用知能ロボットを数多くの現場へ導入し、550件以上の特許を保持しています。産業用知能ロボットの導入実績は世界トップクラスです。
その実績と知見を活かし、人手に依存しない共通のオペレーションソフトウェアを持っていることが産業用ロボットのプラットフォーマーとしての強みであると考えています。また、Mujinコントローラはブラックボックス化されていないので、どこで何が起きているかロボットセル全体を通してリモートで管理しています。これによって、現場に足を運ばずとも自社システム内で問題の発見から迅速に初動対応することができます。
当社はロボットの脳に当たるオペレーションシステムから始まりましたが、今ではロボットの目に当たる3Dビジョン、手に当たるロボットハンドなどの開発も進め、ロボット周辺をMujin1社で対応可能になってきました。
二つ目は、社員の約半数以上が多国籍な点です。当社の共同創業者であり、CTOのロセンを始めとして、30カ国以上から集まったメンバーが生み出す高い技術力と、製造・物流のプロによる現場力、国際的な視点を融合することで、更なるロボットの未来を切り開いていけると考えています。
滝野氏の興味・関心がある分野やトピックとは
ー続いて、現在一番関心のあるトピックについて教えていただけますでしょうか。
関心のあるトピックは常に自動化です。過去から現在の流れを見ても今後20年〜30年は、自動化の流れが止まることはないと予測しています。そして、自動化が進行すればするほど、当社のオペレーションシステムが需要を引き寄せ、その商材としての価値が高まっていくと考えています。当社の製品はあくまでお客様に対する利便性と信頼性を追及した結果、無人化、自動化といった形を実現してきました。現時点でも、FA業界、物流業界を中心に多くのライフラインを支える産業に貢献しています。今後は、更なる世の中の自動化を進めていくのが我々の使命だと考えています。
Mujinの目指す未来構想とは
ー次に、御社の未来構想についても伺ってもよろしいでしょうか。
日本の技術のデジタル化を推進し、人の手による作業を最小限に留めるように進化させ、無人化・自動化を当たり前にしていきたいと考えています。今でも工場や物流センターでは多くの方々が働いていますが、今後、日本の労働人口は減り続け、人手がより貴重になり、人件費も上昇していくでしょう。そのため、当社のロボット知能化技術によりロボットの可能性を広げることで、人間が単純作業や重筋労働を行う必要性を少なくし、その時間を人間が本来時間を当てるべき生活や社会を豊かにする時間に変えられるような未来を、我々は切り開いていきます。
ーその未来を目指す上で、ベンチマークとして考えている存在などはあるのでしょうか。
今現在取り組んでいる産業用ロボットの知能化という領域の中で当社は、他にはないユニークな方法でチャレンジする企業として存在していると考えております。そのため、特にベンチマークとしている企業や組織はありません。当然、我々は技術を高めることを大前提としていますが、とはいえお客様にとって有用なものをご提供しなければ、ただの無駄な努力に終わってしまいます。お客様が何を求めているのか、何に喜び何に不満を抱くのかといった視点を常に意識し続けなければなりません。
このバランスを取ることは難しいのですが、プロダクトアウトにならないように、顧客満足度の追求と新技術の開発を重ねています。そのためには、何度でもチャレンジを繰り返し、失敗を経験しながらも当社のビジョンに向けて邁進する必要があります。一方で、失敗しすぎてしまうと企業として成り立たなくなってしまうので、適切なタイミングで見切りをつけることも大切だと考えています。
読者へのメッセージ
ー最後に、ZUU onlineのユーザーに向けてコメントがあればお願いいたします。
我々は、今まで工場や物流センターで働いていた方々が「作業する側」から「管理する側」に移る世界を作り上げること、そして、当社の特徴でもある「仕事を管理していく側としてのノウハウ」を提供しながらも、ロボットが取り扱える領域を拡大し社会に貢献していきますので、応援のほどよろしくお願いいたします。
- 氏名
- 滝野 一征(たきの いっせい)
- 会社名
- 株式会社Mujin
- 役職
- CEO 兼 共同創業者