本記事は、岡田洋介氏の著書『評価される人になる技術』(ぱる出版)から一部を抜粋・編集しています。
「わかってほしい」は甘え、適切なアピールは必要と心得よ
あなたは上司に対して、こう思ったことはないでしょうか?
「自分がこれだけ頑張っているのに、どうしてわかってくれないのだろう」
「こんなに忙しいのだから、なぜ遅れても仕方ないと思ってもらえないのだろう」
日本では「察する」という言葉がある通り、言葉にせずとも相手の気持ちを汲み取ることを美徳とする風土があります。言葉にして伝えることは野暮で、微妙な表情や雰囲気で相手の心情を慮るというのはたしかに日本独特の情趣があるかもしれません。しかし、仕事においては、自分の頑張りや気持ちを上司に察してほしいと思うのは、残念ながら無理な場合が多いと認識した方が良さそうです。「言葉にしなくてもわかってもらえるだろう」というのは相手に対しての一方的な押し付けであり、甘えであるということを自覚する必要があります。
電話、メール、社内コミュニケーションツールなど、上司の元にはあなたが想像しているよりはるかに多くの情報や決断を求められることが集まってきており、迅速かつ的確に処理を行う必要があります。目の前のことだけでなく、部門の中長期的な目標達成のために考えることも多い上司に、あなたの甘えを察する余裕がないのは仕方がないことなのです。複数の部下を抱える上司であれば、なおさらです。上司だから、部下のことを察してくれて当然だという思いが強くなると、たとえ上司が察してくれたとしても、感謝の気持ちを示すことができません。健全な人間関係を築くことも困難となってしまいます。
反対の立場で考えるとわかりやすいかもしれません。あなたが上司に「言われるまで動かないのはなぜだ。言わなくてもわかるだろう」と怒られた時、「言われなければわかるわけがない」と思うのではないでしょうか。コミュニケーションの基本は言葉にして伝えることであり、察し合えるようになるには時間がかかるということを理解しましょう。
ここまでの前提を踏まえて、上司から評価されるために必要なことは何かと言うと、きちんと「アピール」するということです。きちんと自分の頑張りや実績を言葉にして伝えることで、上司はあなたの努力や成果を理解することができます。
ただし、日本では、なぜか「アピール」は卑しいこと、はしたないことと捉えられがちです。もちろん、行動や実績が伴わないのに「アピール」することは、私も好きではありません。でも、よく考えてみてください。きちんと成果を出していたり、努力や工夫をしていたりするのであれば、それを上司に理解してもらうことは至極まっとうなことです。副業や業務委託(フリーランス)で仕事をする人が増えてきていますが、上手くいく人は当然、仕事をいただくためにアピールをしています。良い仕事ができたら、継続するように実績をアピールしています。会社員もここは見習う必要があります。
アピールについては次項で詳しく触れますが、ここでお伝えしたいのは、良い意味でのアピールはしっかりするべきだということです。そのアピールが、上司も納得するような種類のものであればなおさらです。適切なアピールは上司からも高く評価されます。
あなたの間違ったアピールの認識が上司を苛立たせている
きちんと評価されるための前提として、「アピール」の必要性に触れました。一方で、「アピール」という言葉にネガティブなイメージを持っている人がいるかもしれません。たしかに、他者を押しのけて自分だけをPRする人や、事実以上にオーバートークをする人をイメージしてしまうと、そのような認識になるのも仕方がありません。ですので、ここで言う「アピール」の定義をお伝えします。
「アピール」とは、お互いのニーズを満たすために対話すること、と定義します。決して、一方通行で自己主張することではありません。あなたが思い浮かべるネガティブなアピールはきっと、主語が「自分」になっているのではないでしょうか。そうなってしまうと、対話にはなりません。聞いている方も嫌気が差します。大事なのは、双方向での対話の中で、お互いのニーズ(欲求)を満たすことです。上司にも部下であるあなたにも、満たしたいニーズがあります。ですから、中長期でお互いのニーズが満たされるように、「win-win」を目指す対話をすることです。
就職活動の面接を例に挙げてみましょう。自己アピールをしてくださいと言われたら、どんな話をするでしょうか。多くの人は、自分の強みをアピールすると思います。例えば、協調性や周囲を巻き込む力が強みだとしたら、そこをアピールするでしょう。それが間違っているわけではありません。ただし、その企業が独創的で、他の人が思いつかない発想力を求めている場合、その自己アピールでは企業側の期待に応えることはできません。
つまり、「アピール」とは、自分のことを一方的に伝えることではなく、相手の期待や要望とすり合わせていく共同作業だということです。先ほどの面接の例では、事前に企業の求める人材像を調べておけば、一方通行での自己アピールは回避できます。しかし、これが人事評価になると、多くの方が、「俺が俺が」「私が私が」になりやすくなっているのが実情です。上司と部下の関係の場合、上司が求めている期待や要望に沿ったアピールをすることが大切です。
例えば、上司が資料作成をあなたに依頼したとします。その上司は、近々の会議で使いたいため、ラフでも構わないからとにかく早く提出してほしいと思っています。しかし、あなたは内容の充実した資料こそが必要だと思って、時間をかけて緻密な資料を作成して上司に持っていきました。これは、上司の期待に応えているでしょうか。
内容が充実していることが悪いのではありません。上司のニーズに応えていないのが問題です。そして、部下本人は、こんなに充実した内容の資料を作成したのに評価されないのはおかしいと考えてしまいます。こんな状況が、対話不足でいろんな場所で起こっています。こんなにもったいないことはありません。
中にはアピールが苦手な人もいるかもしれません。謙虚な性格の方は自分のやったことに対して「アピールするほどでもない」と思いがちです。実はちょっとした気遣いや行動もアピールになります。例えば、上司が実績よりもそこに行き着くまでの過程を重視するタイプであった場合、自分の業務について適宜進捗を共有するというのも、立派なアピールになります。むしろ、こういった上司の場合、進捗の共有なしに結果を見せてしまうと、たとえ目標達成できていたとしても、プロセスを共有するという期待に応えることができていないため、アピールに成功しているとは言えません。
私の顧問先の社長さんは全社員に日報を書いてもらい、それらの全てに毎日、目を通していました。社長が読む日報であるため、社員は良いことばかり書く傾向にあったそうです。しかし、社長が求めていたのは現場だからこそ知ることができる、お客様の生の声や競合のリアルタイムの動きでした。その社長の期待をわかっている社員は当然、そこにフォーカスした内容を書きましたが、多くの社員はそれができませんでした。ポイントは、相手のニーズを理解するということです。ニーズを理解していないと、努力がすべて水の泡になってしまう可能性すらあります。
思い込みを捨てて、上司と対話をし、上司の期待を理解する。そして、その期待に応える行動を取る。ただ自分の実績を滔々と語るよりも、その姿勢が何よりものアピールとなることを覚えておいてください。
人事評価コンサルタント、経営人事コンサルタント、組織開発コーチ(日本で約200名のORSCC有資格者)
早稲田大学商学部卒業後、日本ブレーンセンター(現:エン・ジャパン)に入社。約100名の組織が1500名規模の一部上場企業に急成長するまで、様々な軋轢やトラブルを組織内部にて経験しながら、20年に渡りその成長を支える。在籍時は、経営人事のトップコンサルタントとして、管理職教育を含む研修実績は延べ400開催以上、人事評価に関しては延べ100社以上の指導を行う。
2018年に独立。1万枚以上の評価シートを実際に指導する中で、評価されている社員がやっていることを整理。さらに現在は、日本では200名しかいない組織開発コーチングの有資格者(ORSCC)としての活動も行い、「心理的安全性」「共感的な対話」「自分と向き合う勇気」をテーマにした研修やセッションも数多く開催している。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。