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大橋 瑠里(おおはし るり)
株式会社大橋時計店代表取締役社長
熊本市出身。1981年生まれ。立教大学卒業後、2004年リシュモンジャパン株式会社入社、カルティエ三越日本橋店、銀座本店など直営数店舗で勤務。米国宝石学会宝石鑑定士資格保有。2011年株式会社大橋時計店入社、専務取締役を経て2023年10月に4代目代表取締役社長に就任し現在に至る。
株式会社大橋時計店
1894年創業。熊本の時計宝飾正規販売店。熊本市上通に時計・宝飾専門店として「時計の大橋」「JEWELRY OHASHI」を展開。明治27年の創業より世代を超えて受け継がれる“本物”にこだわり続け、毎年スイス ジュネーブ中心に正規代理店として買付けを行うなど、デザイン・技術とともに優れた国内外の本格派機械式時計、ジュエリーを幅広くを取り揃える。2024年創業130周年に向け地元においての「時の文化」の発信地であり続ける為、ライフスタイルアイテムも取扱スタート。

創業から現在に至るまでの事業変遷

―最初に、これまでの御社の事業の変遷についてお話しいただけますか?

株式会社大橋時計店・大橋 瑠里氏(以下、社名・氏名略)::弊社は1894年に創業されました。 長崎で新しい技術や文化を学んだ親戚の元で、初代の大橋善治郎が時計の修理技術を習得し、熊本の中心街で独立し店を開設しました。時計を販売する上では修理技術も必要だった時代において、後に大橋時計学校と称されるようになる 修理の育成支援を行なっていました。その結果、多くの技術者を育て、その証として実際に卒業証書を発行し、技術の習得を証明してきました。

私が先代を尊敬し、今日まで守り続けている点として地域の中で常にお客様と真摯に向き合い、時計という文化を継承し、それを販売するという責任を全うすることです。

二代目は、世界に目を向け、多様な経験を積んできました。世界を渡り歩き、より文化的で価値ある時計、宝飾品を集め、店舗づくりに活かすことに力を注ぎました。

弊社は来年で130年を迎え、これまでの日本の時計の歴史と共に歩んできました。しかし、私自身はまだ何も成し遂げていないと思っています。これまで守ってきた伝統を尊重しつつ、自分自身の色を加えていきたいと思っています。

―それは興味深いですね。御社の歴史は、時代の変遷と共に成長し、進化してきたのですね。

その通りです。世界から学び、それを、時代に合わせ活かしていくことが重要だと考えています。

―長い歴史の中でさまざまな困難を乗り越えたと思っているのですが、その経験が現在の事業にどのように影響しているのでしょうか?

熊本での水害や地震など、多くの困難を乗り越えてきた経験は、家族で商売してきた私たちにとって、非常に大きな糧となりました。

ただ、そのような困難な状況の中でも、時計、宝飾品といった専門店としての強みである品揃えはブレずに継続してきた事が、事業を続けられた秘訣だと思います。 また、時計業界にはクォーツショックという大きな変化があり、大量に安く時計が作れるようになりました。その結果、大量に時計を販売する量販店が増えました。

現会長の父が代表だった時に一度大量販売に挑戦した時期もありましたが 一歩引き、県外からも来店されはじめていたお客様にも 店舗環境を整え、丁寧な販売を重視する方針を掲げました。我々はお客様に満足していただくために、高級時計の取り扱いに注力しています。ロレックスをはじめ、我々が販売を始めた時期にはまだ日本で知られていないブランドも多くありました。

―その流れの中で、九州で初めて取り扱いを始めたというのはどのような状況だったのでしょうか?

その時代に九州で初めて取り扱いを始めたブランドが多く、カルティエやフランクミュラーなど、日本に上陸した直後から一緒に歩み始めました。我々はその世界をお客様に伝える形で、各ブランドと共に歩んできました。

現在に至るまで、我々の大きな課題としては並行輸入品やブローカーからの商品が市場で流通しているという点があります。その中で我々はお客様の信頼に応えるために、全て正規品、正規のディーラーを通したものだけを扱うという方針を貫いてきました。

事業を100年以上続けてきた秘訣

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―それは素晴らしい方針ですね。事業を長く続けてこられている秘訣はなんだと思われますか?

事業を続けてこられている理由の一つとして、立地は大きいと思います。先代が熊本の中心街に早くから目をつけ、人の賑わいのある立地で開業しました。実はこの地域には百年以上続く企業がかなり多く、我々もその一部となっています。

そして、この地域では企業間の交流が非常に深く、祖父の代では店主同士が、 朝食会を開いて情報交換を行ったりするなど、互いに刺激を受け合いながら地域を作り上げてきました。その結果、周囲に百年以上続く企業が多く存在するという状況が生まれています。

―時計は非常に想いが詰まるものだと思うのですが、時計を通じて事業を行っていく上での想いなどをお伺いしてよろしいですか。

私たちの店でも、お客様の親御様が大切に使っていた時計をお預かりすることがあります。時計は世代を超えて使われるものであり、メンテナンスを行うことで長く使っていただけます。それが私たちの事業としての誇りです。

―それは大切な事業だと思います。しかし、現在は使い捨ての時計が大量生産されていますね。

その通りです。しかし、機械式時計の味わい深さは、大量生産の時計にはない魅力です。愛好家の方々が多いので、これからもその魅力を伝えていければと思っています。

自社事業の強みについて

―それは素晴らしいですね。では、御社の強みは何でしょうか?

私たちの強みは変化に対応することです。先代から受け継いだ考え方で、どんな変化にも対応し、賑わっているところにお店を移すということを行ってきました。また、時計の販売方法も変えてきましたが、商品を変えることはありませんでした。

最初の時代は信用商売で、書類を発行し割賦払いを導入し、 父の代で業界に先駆けて高級時計の無金利のローンを提案しました。この新しい買い方を提案する戦略は、舶来の高級時計を手に取りやすくする上でも、大橋時計店が事業を拡大する上で非常に大きなものになったと思います。

―お父様のその戦略が今の事業を広げる上でのターニングポイントとなったのですね。時計文化を守るために何か具体的に取り組まれていることなどはありますか?

はい、私たちは正規の時計を守っていくための啓蒙活動を行っています。その一環として、2005年にAJHH(日本正規高級時計協会)という団体を設立し、地域の専門店達が高級時計が持つ歴史や文化を正しく理解し、革新し続けるトレンドをいち早く掴みながら、国内外の時計ブランドの正規代理店としての活動を重ねています。

―その活動は、ある種のブランディングとも言えますね。

そうですね、ラグジュアリーブランドは世界中で知られていますが、例えばカルティエなどは日本に初めて進出したとき、ライターや鞄から始まりました。そのブランドのイメージは日本と海外で大きく違っていました。価値を高めるために 父や業界の先輩方はスイスのアトリエや見本市(当時:ジュネーブサロン、バーゼルワールド)に赴きブランドと対話を続けながら尽力していました。

地域に愛されるための取り組みや秘訣

―時代に合わせるのはなかなか難しいところもあると思いますが、それを強みとしているのは素晴らしいですね。先程、長い歴史を持つ店舗が周りに多いということをおっしゃっていましたが、地域に密着した取り組みは何かありますか?

創業者も社会貢献という意味では、積極的な事業投資を行っていました。我々は地元で事業を展開しているので、地域との結びつきは初代から非常に大事にしてきました。信頼や誠実な姿勢を大事にし、地域で愛されるように努めてきました。その責任を果たすために、長く扱い続けることが大事です。将来、親御さんがお子さんに「ここで買ったんだよ」と言ってくれるような存在であり続けることが必要だと考えています。

―そのような姿勢が地域との結びつきを強くしているのですね。

そうです。地域と向き合うことは、長い間続けてきました。時計販売だけではなく、お客様に向けて文化的な事業の場を提供するようなことも行っています。我々の提供するサービスを通じてお客様が喜んでいただけることを常に考えて事業を展開しています。

大橋時計店のブレイクスルー

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―なるほど、ありがとうございます。次に、過去のブレイクスルーについて教えていただけますか?

事業のブレイクスルーとしては、国産時計や家庭用時計、置き時計を中心とした事業から、世界の一流品をお届けするビジネスへの切り替えがありました。そのためにスイスのファクトリーへの訪問や取引先ブランドの創業家の思いを理解しお客様に伝えるという地道な活動を積極的に行ってきました。

―素晴らしい行動力ですね。 変化の激しい時代こそ、何を伝統として守り抜いていきたいですか?

私自身が大事にしていることは「志」です。パーパスとも言えますが、我々のような事業には「志」がしっくりくると思います。誠実なスタンスが非常に重要で、地道に、真面目に取り組むことが大切であり、商売においても、伝統を大切にし、継承していきたいという思いがあります。

思い描く未来構想とビジョン

―それでは、大橋代表が思い描いている未来を教えていただけますか?

まず第一として、お客様から「思い出の店がなくなってしまった」と言われないように、店を続けていくこと、そこにあり続けていくことを心に留めています。そして、時計を売るということだけでなく、時との付き合い方を伝えていくことも大切だと考えています。小学生の息子が デジタルネイティブ世代なもので、入学する際に学校の針の時計を読むことが不慣れだったことに、恥ずかしながらハッとさせられました。 そのような経験は、現代社会で時間を表す様々なツールが溢れているなかで、子どものころから時計に親しんでいけるよう、伝えていけると思っています。

もう一つ店舗においては、お客様がいらっしゃったときに、非日常や感動が得られるような場所にしたいと考えています。私はこの業界に大学を卒業してからずっといますが、学生時代は長くクラシックバレエや舞台の経験もあるので、売り場をただの商品を買う場所ではなく、舞台のような場所と捉えています。一流のものや良いものは情報があふれる中でオンラインでも手に入る時代ですが、舞台に足を踏み入れたときの高揚感のように 売場でしか味わえない時計との 感動的な出会いは大切だと思います。

何か新しい発見があるという感覚は人間として消えないと思います。それこそが購入したときの体験として記憶に残るというか、親と一緒に選んだなど自分が新しいステージに立った時に、節目に選んだ、ということも含めたものに絶対つながっていくと思います。その、時計屋だからこその観点も今後のビジョンとして考慮したいと思っています。

私の得意な部分は、"時"の世界、豊かな時の文化を拡販することだと自負しています。会社としても、時の文化を届けることを念頭に置いているので、その中でお客さまと出会っていきたいと思っています。

―時計を通じて時の文化を広めていきたいという強い想いが伝わるお話しだったかと思います。本日はありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

プロフィール

氏名
大橋 瑠里(おおはし るり)
会社名
株式会社大橋時計店
役職
代表取締役社長