今回は、1996年に創業し、塗装業から始まり現在では高出力レーザー技術を駆使して事業展開をしているトヨコー社にスポットを当てていく。二代目の社長、豊澤代表は、元々伝統的な塗装業に従事していたが、その限界を感じ、新しい領域、すなわちレーザー技術を取り入れ、同社を一段高いレベルへと引き上げてきた。豊澤代表のビジョンにより、同社は、古いビジネスモデルから脱却し、社会インフラの改善や新しいテクノロジーの開発においてパイオニアとなっている。本記事では、トヨコー社のビジネスモデルの変遷、特許技術の取得、そして将来のビジョンについて詳細に迫っていく。

(執筆・構成=野坂汰門)

株式会社トヨコーアイキャッチ
(画像=株式会社トヨコー)
豊澤 一晃(とよさわ かずあき)
株式会社トヨコー
東京で建築や服飾のデザイナーとして活動後、父が創業したトヨコーに20代半ばで加わると塗装業の3K(きつい・汚い・危険)を3C (Cool・Clean・Creative)に変えるべく、オンリーワン工法のSOSEIとCoolLaserを次々に立ち上げ、事業化。デザイナーの感性を活かした独創性に加え、リーダーシップを発揮してCoolLaserの営業・開発を力強く牽引。
株式会社トヨコー
静岡県に本社を置く㈱トヨコーは、インフラメンテナンス領域において2つのオンリーワン技術を生かした事業を展開している。CoolLaser事業は老朽化したインフラのサビや塗膜等をレーザーで除去する「CoolLaser®(クーレーザー®)」の製造・販売を行っており、SOSEI事業は老朽化した工場・倉庫の屋根を3層の特殊な樹脂をスプレーコーティングして強靭に蘇らせる「SOSEI」の施工を展開している。

事業変遷について

まずは、企業のこれまでの事業変遷について伺いたいと思います。豊澤代表は現在、二代目の社長ということで間違いないですよね?

はい。弊社は1996年に創業され、現在28年目を迎えています。父が創業した当初は一般的な防水・塗装工事の会社でしたが、私の代になってからは、塗装の下地処理工程であるCoolLaser(クーレーザー)事業、塗装の技術と特殊な樹脂のコーティング技術を掛け合わせ老朽化した工場・倉庫の屋根をメンテナンスするSOSEI(ソセイ)事業の2つの事業を展開する、いわば塗装業Pivotの第二創業ベンチャーとして活動しています。

CoolLaser事業では、NHK サイエンスZEROという番組に出演した際に、ヤフーのトップニュースで特集が組まれ、それにより、本社には約2000件の問い合わせが殺到し、一気に認知度が広がりました。

なるほど、御社の起源についても教えていただけますか?

弊社は、塗装Pivotであるユニークな2事業を展開しています。弊社創業の地である静岡県の由比は東京タワーの塗装を手掛けた様な塗装職人さんを多く輩出した街であり、塗装業が盛んです。同じ静岡県内の浜松は光産業が盛んであり、レーザーでインフラ構造物をメンテナンスするCoolLaser事業はこの地を拠点に活動しています。CoolLaser事業では日本とアメリカで強力な特許も取得し、ソニー出身など高い技術力のあるメンバーが集まっています。

それはなかなかのスピード感ですね。新事業の展開のきっかけとなったレーザー技術とはどのようなものなのでしょうか?

レーザーは、一般的には工場での切断や溶接、美容脱毛など医療分野で使われています。しかし、我々はこれらの既存のレーザービジネスには一切参入せず、全く新しい土木の分野でレーザーを活用しています。その市場は非常に大きいと考えています。

例えば、業界の課題として、台湾やアメリカなどで、橋が老朽化し、落橋し人が巻き込まれ亡くなる事故が起きています。その原因は主にサビによる腐食です。このサビを取る工程はメンテナンスにおいて非常に重要で、交通インフラの根幹である安全に与える影響も非常に大きいです。

それらに対しレーザー技術を用いることで、サビを取り除き、腐食の進行を食い止めることが可能です。 既存のサビ取り方法と比較して、我々の技術は工事に伴う産廃物やその処理に伴い発生するCO2が大幅削減できます。鋼材表面に付着した塩分の除去により進行サビを食い止め、メンテナンスのサイクルを長期化させる事も期待されています。

そのメカニズムは非常にシンプルで、直進性のあるレーザー光をプリズムを通す事で光を屈折させ、このプリズム自体をモーターで高速回転させる事で円の軌跡にするという一連のプロセスを特許により権利化しています。高出力レーザーが一点に留まると熱影響により鋼材を溶融させてしまい逆効果となってしまうため、熱影響回避のために高速スキャンする方法として円回転は、同一方向に無駄なく高速運動できる非常に強い特許となっております。

それは非常に興味深いですね。その技術の変遷の中で、どのようなきっかけでこの技術に着目し、どんな困難を乗り越えたのか教えていただけますか?

最初に自動車会社に常駐していた時に、大手自動車メーカーから「老朽化した工場屋根の改修で、工場の操業を止めずに塗装の技術を活かしたメンテナンスが出来ないか?」と要望を受け、独自のアイデアを元に大手化学メーカーと共同で特殊な樹脂塗料を開発したのがSOSEI事業です。その結果、始めて数ヶ月で塗装業とは思えないほどの売り上げを上げることができました。

しかし、この工法は一度メンテナンスすると非常に長い期間、工場の屋根を延命させる事が出来てしまう画期的な工法であったため、全国やり切ったら仕事が無くなってしまうのではないかという不安にある日突然駆られました。その時、まだ私も若かったので、最も活動的な時期に仕事がなくなるのではないかという恐怖に駆られました。そのため、新たなビジネスに挑戦しようと思い立ちました。

まずは、塗装のルーツを遡ることから始まりました。私が生まれ育った静岡県由比は、東京タワーの塗装など高所の塗装の発祥と言われる場所でした。当時の職人が塗ったこれら通信鉄塔や送電線鉄塔はやがて老朽化する時代が来るのではないか?その時アメリカで発生した落橋死亡事故などの報道も目にし、社会インフラの老朽化や、これに対応する作業者が人口減少社会で確保できるのか?こう言った未来の日本に起こり得る社会課題の解決に対する使命を感じ、人生をかけてこれに取り組もうと考えました。

元々塗装業で、新築ではなく改修工事が主体だったとのことですが、塗装の工程をどのように見直したのですか?

塗装の工程は大きく分けて二つあります。一つは下地処理を行う工程、もう一つは塗装を施す工程です。一見、最終的に目に見える塗装を施す工程の方が重要と思われますが、下地処理の工程は非常に重要で、塗替工事における施工費もこちらの方が高くなっています。どんなに高級な化粧品を買っても、ファンデーションで下地をきちんと作らないと化粧が乗らないのと一緒で、下地処理でサビや塩分が残っていると、高い塗料がすぐに剝がれてしまうことになります。私たちはこの重要な下地処理工程に新たなイノベーションが起こせないかと考え、これが日本や世界のインフラメンテナンスの鍵になると思いました。

その解決策として新しい技術を導入したのですね。具体的にはどのような技術を導入したのですか?

ちょうどその時、レーザー技術に興味を持ち、浜松ホトニクス社が同じ静岡県内の浜松市に社会人向けの大学を設立したことを知りました。そこに実際に6年間通いながら光学を学び、教授陣と二人三脚で現在の基本的な特許の取得や、初期的なCoolLaserの装置を開発しました。

技術的なハードルもあったと思いますが、それを克服する秘訣やポイントは何でしょうか?

SOSEI事業の方では、老朽化したスレート屋根をメンテナンスする際に、塗装の前処理として必要な水洗いしてしまうと、スレートに含まれるアスベストが流出してしまい、環境事故となってしまう課題に直面しました。そのため、密着性のある発泡ウレタンを塗布すれば水洗いが不要となるのではと考えました。発泡ウレタンは住宅の内壁に断熱材として使われていましたが、紫外線に弱いため屋外である屋根に塗布する発想は当時新しく、私たちが初めて吹き始めたと思います。この発想は、私が化学に関する専門知識は持ち合わせない一方で、デザイナーとして活動していた経験から柔軟な発想力は持ち合わせていたっていたからこそ生まれたと思います。

トヨコーの強みとは

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(画像=株式会社トヨコー)

確かに、それはまさにイノベーションと言えますね。次に、御社の強みについて教えていただけますか?

当社の強みは、他の企業にはない二つの柱が存在することです。

一つ目のSOSEI事業がキャッシュカウなビジネスとして収益を下支えし、二つ目のCoolLaser事業が次世代レーザー技術を活かしたディープテックなビジネスとして高い成長を狙うビジネスとして牽引しています。

この二つの事業が一つの会社に共存することで、我々の強みが生まれています。元々建設業許可を保有していた工事会社発のイノベーションであるため、試作機を自社工事として現場でテストし、製品開発にフィードバックする事も非常に早いサイクルで取り組んで来れた事が特徴です。

それは非常に興味深いですね。その中でも特に特許を抑えるという点について、詳しく教えていただけますか?

当社では、CoolLaser事業を中心に少人数であるからこそ知財戦略に力を入れています。非常に権利範囲が広い強い基本特許を柱に、そこから枝分かれする形で派生する分割特許を多数取得して、事業の幹を太く強くしています。

特許が増えてきているとのことですが、新たな分野への挑戦という観点で見ても、特許を取得することは可能なのでしょうか?

はい、新しい分野ということは、特許がどんどん取れる可能性があるという事です。スタートアップの限られた経営資源で集中すべき領域を見極め、そこに集中投資する事で企業成長に繋がる強い特許が次々に取れると考えています。

過去の成功体験

それは素晴らしいですね。次に、過去の成功体験とその秘訣についてお聞かせください。

まず、我々が高収益モデルを実現できたことが大きな成功体験と言えます。その基盤となったのが、レーザー施工を屋外で使うという発想でした。この発想は他のどの企業にもなく、我々だけが持っていたものです。この発想により、新市場に向けての入り口が広がり、成長を迎えることができました。

また、我々は少人数の小規模な集団であるため、何をやるかよりも何をやらないかを重視しています。選択と集中の考え方を強く持ち、引き算のものづくりを行っています。その結果、本当にやるべきことに集中することができ、協創パートナーとの関係性も重要になってきました。

パートナー探しには多くの時間を費やし、良いと思ったパートナーとは共同体として深く関わっていきます。その結果、我々が選んだパートナーはこれから未来の社会を見極め、真に両社の成長や社会課題の解決に繋がる取り組みを共に仕掛けられるパートナーばかりです。

協創相手としてのパートナーを選ぶ際の考え方や秘訣について教えていただけますか?

私たちは地元で長く続いている会社との良好な関係を大切にしています。技術が成熟した段階で、それを彼らに引き継ぐことが重要だと考えています。また、建設業界全体をどう解釈するかが重要で、全国的に見ても地域ごとに強みを持つ会社が存在することを理解しています。敵を作るのではなく、自社がするべき事は何かに集中し、立場を決めて行く事を常に意識しています。

トヨコーが見据える将来の展望

なるほど。では、未来構想について、特に新規事業や事業の拡大プランについてお話しいただけますか?

はい、私たちは"3K"を"3C"に変えることを目指しています。デザイナーとして活動していた東京から地元に戻り、家を建てようとした際、人口減少で職人がいないという現実に直面しました。このままでは日本の将来が危ぶまれると感じ、建設業に対するイメージを変えることが必要だと考えました。それが"3K"、すなわち「キツい・汚い・危険」というネガティブなイメージを、"3C"、すなわち「クール、クリーン、クリエイティブ」へ変えていくことを目指しています。

素晴らしいですね。豊澤代表が目指す、クールであり、クリーンであり、クリエイティブな未来について教えていただけますか?

私たちの目指す未来は、安心・安全な社会インフラを子ども・孫世代に確実に受け継いでいける様な、レーザーヘッドとロボットの開発です。

社会インフラのメンテナンスはロボットがアクセスできないような箇所が多いです。そういった部分には、例え専門性が高くない職人でも誰でも扱えて、高い施工品質が実現出来るようなレーザーヘッドが必要でしょう。

一方、自動化出来るような箇所についてはロボットとの共存共演が不可欠だと思います。そう言ったロボットの開発においては、モノづくりの国日本には素晴らしいロボット開発技術を持つ企業もありますので、そう言った協創パートナーとタッグを組み、新たな価値を創り出すことが、我々が貢献できる未来だと考えています。

人手の部分とロボット化する部分を並行して進めていくというのは、非常に興味深いですね。そのために現在、具体的にどのような取り組みをされていますか?

現在でこそディープテック分野に取り組むスタートアップも多いですが、私たちはイノベーションがなかなか起きにくい建設土木のフィールドで、全く新しいハードのイノベーションにゼロから取り組んでいるため、時間もかかっています。その理由は、安全ガイドラインや取扱資格などの社会ルールや、仕事が生まれるための公共工事の発注ルール等を変えて行く必要があり、一つ一つに腰を据えて真剣に取り組まなければならないからです。

既存の工法では限界があったため目をつぶって来られましたが、鋼材表面のサビは除去出来ても、腐食因子となり得る塩分が除去しきれず残ったまま塗装が施され、メンテナンスが行われてきた問題があります。塩分を含むサビかそうでないかは非常に大きな違いがあり、塩分を含むサビは進行サビとして、残ったままだと数年後にサビが再発し、短期間で再度メンテナンスが必要となる「再劣化」という問題が起きる事にようやく業界として目が向けられ始めてきました。人口減少社会において、ただでさえ3K仕事で職人確保も困難な中、何度もメンテナンスが繰り返される人的リソースの余裕は日に日に無くなってきています。この様な日本社会の構造変化も後押しし、CoolLaserへの期待は日に日に高まって来ていますので、一日も早く、より多くの施工会社様にこの装置を使って頂けるよう、装置の販売や、大手建機レンタル会社を通じた貸し出しなどの体制構築を加速させています。

読者へのメッセージ

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(画像=株式会社トヨコー)

それは素晴らしい取り組みですね。最後に、特に伝えておきたいことを教えていただけますか?

(上記掲載)CoolLaserのコンセプトアートは、ゲームのファイナルファンタジーやバイオハザードなどのコンセプトアートを多く手掛けるデザイン会社(株式会社WACHAJACK)の澤井社長に描いて頂いたものです。澤井社長がたまたま静岡県三島市のご出身で、このコンセプトアートは私どもトヨコーの本社がある静岡県富士市の未来を描いたものです。奥に見えるのが富士山、手前が田子の浦港、大手製紙会社の工場等が点在する富士市において、将来これらが老朽化した際に、CoolLaserを使ってサビを除去する世界観をCGと手書きを組み合わせてダイナミックに描いて頂いています。

自社のホームページではCoolLaserのアニメも制作し来訪者に視聴できる様にしたり、一部の中学校の社会の資料集には、未来の技術としてCoolLaserが登場したりもしています。私たちが目指すのは、一見ニッチでマニアックな技術でも、大人や子ども問わず誰にも分かりやすく理解できる表現でその価値を伝えることです。装置の開発のみならず、この様なマーケティング活動にも補助金を活用しながら投資出来ているのは、マンガ・アニメ大国である日本ならではと感謝しています。

貴重なお話と熱いお言葉、ありがとうございました。独自の発想と技術により高収益モデルを確立できた御社の、今後のご活躍をお祈りいたします。

氏名
豊澤 一晃(とよさわ かずあき)
会社名
株式会社トヨコー
役職
代表取締役CEO