一橋大学法学部を卒業後、2011年4月に三井物産へ入社。在職7年間で、南米の自動車ビジネスを担当し、主に在チリ子会社の経営およびクロスボーダーM&A案件に従事。チリへの駐在も3年間経験する。2018年4月に合同会社DMM.comへ転職し、経営企画室にて新規事業立案や子会社のPMI/経営支援を遂行。2019年7月よりアダコテックに執行役員として参画。2019年9月より取締役、2020年4月より現職。
創業から現在に至るまでの事業変遷
―それでは、これまでの事業変遷について教えていただけますでしょうか。
株式会社アダコテック・河邑 亮太氏(以下、社名・氏名略):2006年に産業技術総合研究所(以後、産総研)の認定ベンチャーとして、前身の会社が設立されました。当時、産総研の優れた技術をより実世界で適用していく流れがあり、その一環で「HLAC(エイチラック)」という画像解析に関する特許技術の実用化を目指しました。しかし、初期の6年間は、CPUなどのコンピューティングパワーが未成熟であったことや、世の中のAIに対しての理解も不十分であったため、うまく事業化することができませんでした。そこで2012年に、別の会社に事業を承継する形で弊社が設立されました。そして、その時に初めてアダコテックという名前をつけ、再スタートを切りました。
―参画を決めた直後はどういった思いがあったのでしょうか??
私のパーパスは、今の日本の閉塞感を打ち破り、誇りを取り戻すことです。中学生までアメリカで過ごしたのですが、その際、トヨタの車やメジャーリーグに渡った日本人選手など、日本から世界に大きく影響を与えている存在に勇気をもらい、元気づけられました。その誇りを次の世代に引き継ぎたいという強い想いがあります。
私が2社目で次のキャリアを模索していた時に、三井物産のOBでアダコテックの株主となったVCの方から、アダコテックへ経営メンバーとして参画することを提案されました。その時、アダコテックは日本で生まれた優れた技術を、日本のお家芸である製造業に適用するというテーマを持っており、まさに自分が人生を懸けて取り組みたかったことに合致していたので、参画を決めました。
―なるほど、日本は誇らしいものも多いですよね。事業変遷についてもう少し具体的に教えていただけますでしょうか?
事業開始当初は様々な機械学習の課題を解決し、それを収益化するという受託開発の事業を行っていました。いくつか優れた成果を出すことができていたのですが、事業としてスケールするものではありませんでしたので、資金調達をきっかけに製造業の検査に焦点を当てたプロダクトを作り、事業を拡大する方針を定めました。
リリースまでは二年ほどかかりました。技術的な探求はある程度進んでいましたが、プロダクトが誰の何の課題を解決するのかの解像度が当時まだまだ低かった状態でした。そのため、最初はマーケット調査に集中して取り組みました。
―その過程で何か特に苦労した点や、ブレイクスルーのポイント、成功要因などはありましたか?
弊社が当初、目指していたのは、汎用的に検査課題を解決することでした。汎用的に解決できたほうがマーケットも広く、スケールするだろうという発想でした。ただ実際に顧客の声に触れてみると、検査は現場ごとに要件が異なり、いきなり汎用化を目指しても、課題を表層的にしか解決できないことに気づきました。
そのため、私たちは最初に市場を思い切り絞り込むことにしました。具体的には、自動車部品の中の特定の工程の特定の素材の部品というように焦点を絞り、顧客の声を聴いていきました。このアプローチは顧客の深い課題を特定する上で非常に効果的でした。
また、現場を知ることも重要であると考え、一週間工場に泊まり込んだこともありました。実際に検品の作業を自分で行い、現場の人々が感じている課題に触れたことで、検査に求められる要件についての解像度が深まりました。あの経験があったからこそ今があり、非常に価値のある経験だったと感じています。
自社事業の強み
―素晴らしいですね。次に自社事業の強みについてお聞かせいただけますか?
技術的な部分に関しては、コア技術である画像の特徴量の抽出法「HLAC(エイチラック)」を使用した画像解析技術が強みです。この技術は、今一般的となっているディープラーニング技術とは異なる特徴があり、特に製造業の検査で使うときには優位性があります。
ディープラーニング技術は大量のデータが必要であり、原理的に計算の中身がブラックボックス化してしまうため、ECサイトや広告運用のようにデータがオープンで大量に存在し、高い精度が要求されない目的には適しています。一方、製造業の検査のように取得できるデータに限りがあり、かつ、ミスが絶対に許されないユースケースの場合には、ディープラーニング技術の適用は難しいのです。
この点、弊社のHLACを使った画像解析技術は、少ないデータで学習可能である点や、ロジックが分かりやすく、ユーザーが精度向上に向けて納得感を持って試行錯誤できることが強みと言えるでしょう。
組織的な強みとしては、現場の人に寄り添うことが挙げられます。弊社の社員は製造業出身が多く、ビジネスメンバーのほとんどがエンジニア出身です。業界への高い解像度と技術的な素養をもつ社員だからこそ、お客様と対峙して課題をしっかりと把握することができます。 派手さはありませんが、お客様との対話から積み上げたファクトをもとに意思決定ができていることが、組織的な強みだと感じています。
―なるほど。組織の強みとして、現場の方々に寄り添うことが挙げられるとおっしゃっていましたが、社内でのコミュニケーションについては何か工夫されていることはありますか?
いかに事業開発とプロダクト開発の垣根をなくすかを意識しています。お客様からのインプットをベースに事業開発とプロダクト開発が何をプロダクトに反映するべきかを会話することを仕組化しています。エンジニアもお客様のことをしっかり把握し、事業開発側も技術やエンジニアが何をしているのかを把握する。仕組みだけではなく、一人ひとりにそういったマインドを求めています。
思い描く未来構想やビジョン
―どの業種の方も現場を知ることは重要ですもんね。それでは、思い描いている未来構想について教えていただけますか?
将来的には、良いモノづくりを支えるためのソフトウェアのプラットフォームを提供していきたいと考えています。現在は検査を自動化するためのプロダクト群がコアになっていますが、その周辺のオペレーションに対してもアプリケーションを提供していきます。たとえば、何百とある検査ラインのデータやモデルを統合的に管理したり、検査のデータを製造工程や設計工程にフィードバックしたりして、より品質の良いモノづくりを実現するための機能提供を構想しています。
また、製造業はグローバルに垣根が低いことが特徴ですので、こうしたプロダクトを国内のみならず、海外に向けて積極的に展開していくことを構想しています。
現在、重点的に取り組んでいること
―ありがとうございます。未来構想のために、現在重点的に取り組んでいる課題、またはこれから取り組んでいかなければいけないと思っていることは何でしょうか?
一番はプロダクトの適用範囲を広げていくことです。製造業は製品によって検査要件が異なるため、適用範囲を広げるためのプロダクト改良に力を入れています。また、詳細は割愛しますが、現場で機械学習の運用をするための補助的なアプリケーションの開発も進めていて、お客様が現場で納得感を持って使いこなせるプロダクトに仕上げていっております。将来的な構想実現に向けて着実に一歩一歩進んでいる感覚です。
―なるほど。今回のインタビューで、働く人が皆現場レベルで物事を考え、独自の技術を利用して事業を拡大していこうとしている姿に感銘を受けました。ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 河邑 亮太(かわむら りょうた)
- 会社名
- 株式会社アダコテック
- 役職
- 代表取締役