行動経済学とは? 経済学とはどう違う?

行動経済学とは、これまでの経済学と心理学の視点を組み合わせた学問です。

昔からある経済学は、「人間は合理的な意思決定によって行動する」とされてきました。平たくいえば、いつも一番利益が出る行動を選ぶということです。

しかし、そんなことはないですよね。還元率45%で計算上買えば買うほど損する宝くじを買ったり、セールで安かったからとまとめ買いした食べ物を消費しきれずに捨てたりするのは、一番利益が出る行動とはいえません。

そこで登場するのが行動経済学です。行動経済学では「人間は非合理的な行動を取ることもある」と考えます。その視点で宝くじやセールの行動を分析すると、従来の経済学よりも説明しやすい行動がたくさんある、というわけです。

投資の世界においても、行動経済学はさまざまな研究がなされています。投資の際に、行動経済学を知っておけば、ふと立ち止まって冷静に考えて、損する投資を防ぐことができるかもしれません。

知っていると投資に役立つ行動経済学の理論

行動経済学の主な理論には、次のようなものがあります。

行動経済学の主な理論

  • ヒューリスティック
    • ギャンブラーの誤謬
    • ランダムな出来事に規則性を見出してしまう
    • アンカリング効果
    • 見えない数字の過小評価
    • 確証バイアス
    • 自信過剰バイアス
  • プロスペクト理論
    • 心の会計
    • 決定麻痺
    • 現状維持バイアス

ヒューリスティック

ヒューリスティックとは、人が何かを判断するときに、物事を「直感」で考えることです。ヒューリスティックには、物事をすばやく決められるいい面もありますが、行動経済学の世界では「合理的な判断を誤らせるよくないもの」とされています。

主なヒューリスティックには、次のものがあります。

ギャンブラーの誤謬

たとえば、コインを投げて表裏を当てるゲームをした際、表が続けて5回出たとしたら、「次こそは裏が出そう」と思いませんか? しかし、5回目と6回目、7回目の間には何の関係もない(独立している)のですから、次もその次も表が出ることがあります。

相場が予想以上に上昇すると「そろそろ値下がりするのでは」「暴落が来るに違いない」などと思いがちです。反対に、ずっと値下がりが続くと「ここで底打ちして急上昇」などと思いたくなるでしょう。その気持ちはわかりますが、過去の値動きとこれからの値動きには何の関係もないことを忘れないようにしましょう。

中長期の投資であれば、短期的な相場の上げ下げに一喜一憂する必要はありませんが、短期売買をする際の基本スタンスとしては、「上がり始めたら買う」「下がり始めたら売る」を徹することが資産を増やすポイントです。

ランダムな出来事に規則性を見出してしまう

先ほどのコインの表裏ゲームの結果がもしも以下のとおりなら、次は表でしょうか、裏でしょうか。

表・表・裏・表・表・裏・表・表・裏・表・表・?

いかにも裏が来そうですが、そうとは限りません。前述のとおり、表も裏も同じ確率で、ランダムに出るのですから、表になることもあります。しかし人は「表・表ときたら、次は裏だろう」と考えてしまう、というわけです。相場の上下に規則性はなく、仮に規則性があるように感じられても、それは錯覚かもしれません。

アンカリング効果

アンカリング効果は、先に与えられた数字にその後の判断が引っ張られてしまうことをいいます。アンカリングの「アンカー」とは、船の錨のことです。

過去に株価が7,000円だった銘柄が、今3,000円で売られていたとします。すると、その銘柄を狙っている人なら特に、「割安だ」「いつか7,000円を超えるだろう」と飛びついてしまうかもしれません。

しかし、このときの「割安だ」という判断は、過去の「7,000円」という株価から見たもの。7,000円をアンカーにして考えてしまっています。7,000円を超える保証はどこにもありません。株価が割安か割高を判断する際は、過去の株価ではなく、その銘柄の価値や将来性などを踏まえて判断する必要があります。

アンカリング効果
(画像=「RENOSY マガジン」より引用)

見えない数字の過小評価

私たちは、目に見える数字や現実の支出は気にしますが、目に見えない数字や計算しないとわからないような費用などは過小評価してしまう傾向があります。

投資をした結果、お金がいくら増えるかは市場次第でわかりませんが、誰しも気になりますよね。しかし、投資の手数料や税金、さらには長期投資の複利効果などは、意外と軽視されています。投資の結果が気になるのはわかりますが、手数料や税金はなるべく抑えるようにすること、できるだけ投資に長く取り組むことを優先しましょう。

確証バイアス

確証バイアスは、自分が正しいと信じた情報だけを信じて、それとは違う都合の悪いものを受け入れないバイアスのことをいいます。投資をするときには、誰しも「その投資先が値上がりする」と信じて投資しますが、投資をしていればいろいろな情報がでてきます。なかには、その投資先が値下がりすることを警告するような情報もあるかもしれません。しかし、確証バイアスにとらわれていると、そうした警告に耳を貸さなくなってしまう、というわけです。そしてその結果、大きな損失を抱えることになりかねません。

自分の投資先を信じたい気持ちはわかりますが、いい情報も悪い情報も公平に集めて、冷静に判断することが大切です。

自信過剰バイアス

自信過剰バイアスは、間違った認識をしているにも関わらず、自分が優れていると思い込んでしまうことを指します。たとえば、本当は偶然得られたに過ぎない利益にも関わらず「自分が優秀だから儲かった」と錯覚してしまうようなことをいいます。

自信過剰バイアスにとらわれていると、過度なリスクをとった投資を繰り返したり、大きな損をする可能性を軽視したりしてしまいます。自信過剰で調子に乗り過ぎてしまうと、いずれ失敗して、大きくお金を減らすことになりかねません。

プロスペクト理論

プロスペクト理論は、「損したくない」という感情が合理的な判断を邪魔することをいいます。

たとえば、次のようなくじ引きがあったら、どちらを引きますか?

  1. 必ず100万円がもらえる
  2. 50%の確率で200万円がもらえるが、50%の確率で何ももらえない

多くの人は1を選ぶでしょう。

  1. 必ず100万円を支払う
  2. 50%の確率で200万円を支払うが、50%の確率で支払いがなくなる

この場合は、4を選ぶのではないでしょうか。

しかし、数学的には、1,2のくじ引きの期待値は100万円、3,4のくじ引きの期待値は-100万円でどちらも同じです。目の前に利益があるときは損失を回避し、目の前に損失があるときはリスクを負って損失を取り戻す行動を取りがちなのです。同じ金額の場合、損失は利益の2倍から2.5倍に評価されるといわれています。つまり、100万円の損失を負うなら、利益は200万円から250万円でないと割に合わないと感じるのです。

「持っている株式が少し値上がりしたときに、価格上昇が見込めそうなのに利益を確定した」「値下がりしたときに、損失確定が嫌でそのまま保有してしまった」という経験は誰しもあるでしょう。これらは、プロスペクト理論の「損失回避」として、広く知られています。

プロスペクト理論には、他にも次のようなものがあります。

心の会計

心の会計は、出所・保管場所・使い道によってお金を分類し、扱い方を変える傾向のことです。メンタルアカウンティングともいいます。

働いて稼いだ100万円もギャンブルで手にした100万円も、金額の面では同じ100万円です。しかし、働いて稼いだ100万円は大事にしようと思う一方、ギャンブルの100万円は日頃できない贅沢に使ってしまうという「あぶく銭効果」がこれにあたります。投資で大きく儲けたとしても、無駄遣いしないように注意が必要です。「自信過剰バイアス」と合わさると、かなりのリスクを取ることになり、結局その儲けを一瞬で失ってしまった…ということにもなりかねません。

決定麻痺

決定麻痺とは、魅力的な選択肢が増えれば増えるほど選びにくくなることです。たとえば、私たちが投資できる投資信託は6,000本ほどあります。これだけある中から自分に合う1本を選ぶのは難しいですよね。選択肢が多いと、人は「何もしない」という行動を取りがちです。

一方、つみたてNISA(2024年からの新NISAのつみたて投資枠)では、金融庁の基準を満たした商品にあらかじめ絞り込まれています。といっても、まだ250本ほど(本稿執筆時点)はあるのですが、6,000本よりはずいぶん減ります。その分、選びやすくなるというわけです。

お金を増やすには投資が必要な時代です。決定麻痺の罠にかかっていつまでも投資を始めないでいると、いつまでもお金が増えていきません。心当たりのある方は、今すぐ行動しましょう。

現状維持バイアス

現状維持バイアスとは、変えたほうがいいとわかっていても、なかなか現状を変えることができない状態のことです。

投資をして得られるものと、投資をしないで得られるものを比較した場合、お金が増える可能性があるのは投資ですから、投資はしたほうがいいでしょう。しかし、投資ではお金が減る可能性もあります。投資でお金が減ってしまうようなら、投資をしないほうがよかったわけです。そうなると、はっきりと投資をしたほうがいいと言い切れなくなってしまい、いよいよいつまでも投資をしなくなってしまいます。

投資と感情を切り離すには?

行動経済学を通じて、投資と感情の関係を紹介してきました。投資の最大の敵、感情を克服するには、長期間の積立投資を行い「ドル・コスト平均法」を生かすのがおすすめです。

投資信託などの値動きのある商品を、「毎月1万円ずつ」というように一定額ずつ購入すると、商品の価格が高いときには少ししか買えず、商品の価格が安いときにたくさん買えることになります。こうした購入方法を「ドル・コスト平均法」といいます。ドル・コスト平均法を利用すると、平均購入単価を抑える効果が期待でき、少しの値上がりでも利益を出せるようになります。

それに、積立投資ならば、あらかじめ指定したタイミングで指定した金額だけ商品を淡々と買い付けてくれます。自分の感情に関係なく投資ができるので、感情を挟む余地もありません。もちろん、短期間に値下がりすることもありますが、それに一喜一憂せず、じっくり続けていれば、その後の値上がりの恩恵も得られるはずです。

折しも2024年からは新NISAがスタートし、これまでよりも投資が身近になる方が多いでしょう。今回ご紹介した行動経済学の考え方を頭の片隅に入れておいていただき、投資行動に生かしていただければ幸いです。

ゴルディロックス効果
(画像=「RENOSY マガジン」より引用)

この記事を書いた人

頼藤太希
証券アナリスト
(株)Money&You代表取締役。中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintechなどに関する執筆・監修、書籍、講演などマネーリテラシー向上に努めている。著書は「はじめてのNISA&iDeCo」(成美堂)など多数。日本証券アナリスト協会検定会員。ファイナンシャルプランナー(AFP)。