北海道出身。車載機の開発、ソーシャルゲーム開発、 EC プラットフォームのエンジニアを経て Wovn Technologies株式会社を創業。
これまでの変遷について教えてください。
私は元々エンジニアとして働いており、ロガーという車載機のシステム開発を行っていました。その後、インターネットの普及に伴って、ロガーを通して世界中の車のデータを集められるようになり、道路交通情報をオンタイムで知ることができるインターネットは素晴らしいなと思うようになりました。当時、私にとってインターネットは、SNSを見たり検索の際に利用したりと、使用する側として認識していましたが、徐々に生活インフラになっていくインターネットの開発に興味を持つようになり、転職を決意しました。
その後、インターネット系のエンジニアとして働きながら、趣味のプログラミングで様々なものを作っていました。そして、その趣味制作物の一つで、現在のWOVN.ioの元となるプロダクトを生み出し、それを知人によってベンチャーキャピタルに紹介してもらい、創業することになりました。
一番感銘を受けた書籍とその理由は?
私は様々な本から影響を受けてきましたが、創業期、プロダクトマーケットフィット(PMF)期、そして拡大期という3つのフェーズごとに、自分の考え方に影響を与えた本がそれぞれありました。
まず、創業期に大きな感銘を受けたのは、ポール・グラハムの『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』です。この本は技術者の視点から、世界を変えていくイノベーションについて解説されており、私自身が技術者であったことから非常に共感しました。いかに既存システムを工夫して、ハックしてビジネスに活かすのかという考え方は、エンジニア上がりの起業家が今より珍しかった当時、大変参考になりました。
次のPMF期には、マイケル・ポーターの『競争の戦略』という本が非常に重要な指南書となりました。この本自体は隅々まで読んで全て勉強になった、というよりは、市場の選択によって「弱者の戦い方」と「横綱相撲」の戦略があるという視点がとても興味深かったものとして印象に残っています。当社はウェブサイトをローカライズする事業を展開していますが、このサービスを翻訳という市場のどのターゲットに刺しにいくのか、という選択をしなければならない時に、まだまだスタートアップという「弱者」だからこそ、狭い市場でトップになろうと決意し、動的コンテンツの自動多言語化に特化することを選びました。そのおかげもあって、PMFすることができ、成長軌道に乗ることができました。
最後に、拡大期では『貞観政要』という中国の本が、私の経営観に大きな影響を与えました。この本は、王朝や権力の移り変わりが激しい中国大陸において、一番長く平和だったとされる唐の王朝期の貞観という時代に、魏徴という政治家が貞観の政治の要点をまとめたもので、徳川家康が幕府を長く繁栄させるために愛読していた本と言われています。内容としては、王様とその右腕の二人の会話が議事録形式で書かれているのですが、その中でも印象的なエピソードが、王様が高価な茶碗を使用していることに対して、部下が「一つ贅沢をするとさらに贅沢したくなり、それがやがて国を滅ぼします。」と説き、王様が納得する、というものがあります。こうした考え方がとても痛快で面白く、何度も読み返すぐらい好きな本となりました。
経営において重要としている考え方を教えてください。
経営を組織という一面から切り出して考えると、組織を作り拡大をする上では、お互いがリスペクトする関係性が非常に重要であり、組織文化とビジネスモデルは非常に関連性の深いものだと考えています。当社では、WOVN.ioというサービスがあり、これを作る人がいて、売る人がいて、管理する人がいます。つまり、お客様とサービスを中心に、たくさんの人が関わっているビジネスモデルである以上、それぞれの職種を正しく理解してリスペクトをしながら事業を進めていくことが必要不可欠です。
これを具体的に実施しているものが、「Feedback Day」です。これは、会社のオープンスペースで、エンジニアの社員たちが2週間のスプリントでの成果物を出店形式で発表しあうというもので、各チームが開発したデモを見ることができる場となっています。他にも、営業チームが受注したら、時間をとって表彰したりと、社内メンバーの取り組みを他部署が理解するための工夫を行っており、これらによって、それぞれの仕事へのリスペクトが生まれて、部署を跨いだ新たなコミュニケーションが生まれています。こうした取り組みは、WOVNの製品の情報共有の場にもなっており、全員が自社の製品についての最新情報を持つことで、自信を持って業務に取り組むことができることにも繋がっています。他者を理解してリスペクトを送ることが、WOVNの成長と職場環境の向上に大いに貢献しています。
最後に、御社の未来構想や従業員への期待について教えてください。
当社の社員によく伝えていることは、世界レベルの”黒子的な”インフラ企業になろうということです。これはつまり、WOVNという会社やサービスを知らなくても、インターネット上のサービスが母国語で使用できるのはWOVNのおかげであり、人々は知らず知らずのうちに当社のサービスの恩恵を受けているという未来構想を描いています。
そのためにはやはり、他者へのリスペクトが必要不可欠になります。世界的なインターネット上のインフラになるというミッションは、一人の力でできるものではなく、社員全員が互いのプロフェッショナリズムを信頼して尊敬している状態でなければ達成できません。ミッションが遠いものだからこそ、他者を尊敬するというミッションドリブンな働き方を従業員には期待しており、全員がミッションを信じて働くことによって、世界を変える力になると信じています。
- 氏名
- 林 鷹治(はやし たかはる)
- 会社名
- Wovn Technologies株式会社
- 役職
- 代表取締役/CEO