この記事は2023年8月17日に「第一生命経済研究所」で公開された「ガソリン価格の上昇が止まらない」を一部編集し、転載したものです。


ガソリン価格の高騰を招いた政府の補助金制度
(画像=Costel/stock.adobe.com)

目次

  1. ガソリン価格の上昇はこれからも続く
  2. ガソリン価格の「200円超え」は早くても10月以降
  3. CPIコアを0.5%Pt程度押し上げ
  4. ガソリン補助金の延長・再拡大も?

ガソリン価格の上昇はこれからも続く

ガソリン価格の上昇が止まらない。8月16日に資源エネルギー庁が公表した石油製品価格調査によると、8月14日時点でのレギュラーガソリン価格は181.9円(1リットルあたり)と、前週から1.6円の上昇となった。これで13週連続の値上がりであり、これまでの最高値である185.1円(2008年8月)も視野に入ってきた。また、灯油価格も120.6円(1リットルあたり)と前週から1.3円上昇し、2008年以来の水準となっている。

こうしたガソリン、灯油価格上昇の背景には、いわゆるガソリン補助金(燃料油価格激変緩和補助金)の額が6月(5月29日の週)から段階的に縮小されていることがある。従来は、1リットルあたりのガソリン価格が168円程度になるように補助金が支給されていたが、この補助金は現在、段階的に縮小されている。具体的には、補助金が25円以下の場合について、それまで100%だった補助率が23年5月29日の週から90%へ引き下げられた。それ以降も2週ごとに10%ずつ追加で縮小され、現在は40%となっている。そして9月末で補助率はゼロとなり、補助金自体が無くなる予定である。

ガソリン、灯油価格は今後も上昇が見込まれる。資源エネルギー庁によると、仮に補助金がない場合、ガソリン価格は195.7円になるとされており、足元の実際の価格(補助金あり)である181.9円とはまだかなりの乖離がある。補助率が段階的に縮小されるということは、この乖離が段階的に縮まっていくことと同義であり、先行きのガソリン価格は、この補助金無し価格に近付く形で上昇していくことになる。過去最高値である185.1円の突破も時間の問題だろう。灯油価格も同様であり、過去最高を近々更新することになる可能性が高い。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

ガソリン価格の「200円超え」は早くても10月以降

なお、よく言及される「ガソリン価格200円超え」については、補助金が(縮小されながらも)存在する9月末までに実現することはなく、どんなに早くても10月以降になる。

これは、補助金が25円以下の場合(補助金無し価格と基準価格168円の差が25円以下)の部分では補助率が段階的に縮小されている一方、25円を超える部分については逆に補助率が段階的に引き上げられているためである。具体的には、補助金が25円超の部分については、5月までは補助率が50%だったが、6月以降は2週間ごとに5%ずつ引き上げられており、9⽉下旬に95%にすることになっている。このやたらと複雑な仕組みにより極端な価格上昇が抑制される形になっており、たとえば補助金無し価格が240円にまで高騰したとしても、実際のガソリン価格は193円程度までの上昇に抑えられることになる。8、9月中の200円乗せはあり得ないと言ってよい。もっとも、当然のことながら、9月末で補助金自体が終了すれば、補助金無し価格に一致するレベルにまで価格は変動することになるため、10月以降には200円超えも(その時の原油、為替次第で)現実味を帯びてくる。

CPIコアを0.5%Pt程度押し上げ

次に、CPIへの影響を見てみよう。この補助金制度の対象となっているのはガソリン、灯油、軽油、重油、航空機燃料であるが、このうち消費者物価指数に採用されているのはガソリンと灯油だけであるため、この2品目のみの影響を見れば良い(軽油、重油、航空機燃料の価格は消費者物価指数に反映されない)。

前述のとおり、この先原油価格や為替レートの水準が変化しないと仮定すれば、補助金が無くなる10月にはガソリン価格は195.7円程度、灯油価格は134.4円程度まで上昇することになる。これは、従来の補助金制度が適用されていた5月までのガソリン価格(168円)、灯油価格(111円)と比較して、それぞれ+16.5%、+21.1%程度に相当する。これを元に計算すると、補助金が終了した後の23年10月のCPIコアは、5月までの補助金制度がそのまま続いていたと仮定する場合と比較して0.5%Pt程度押し上げられることになる。影響は非常に大きい。

消費者物価指数は23年後半にかけて前年比で鈍化していくことが規定路線だが、本稿で述べたガソリン補助金の縮小の影響を考慮すれば、鈍化ペースについてはこれまでの想定以上に緩やかなものにとどまる可能性が高まりつつある。

ガソリン補助金の延長・再拡大も?

本稿では、補助率の段階的縮小と9月末での制度終了を前提に議論を進めたが、ガソリン補助金制度の延長を検討する動きも出ている模様である。実際、資源エネルギー庁が5月に補助率の段階的縮小を決めた際にも「ただし、上記の⾒直しに際しては、原油価格の動向を⾒極めながら柔軟に対応する。」との文言が入っており、制度の再見直しの可能性が否定されているわけではない。現在の政府の最優先事項は、9月に軽減策を半減、10月以降は未定となっている電気代、ガス代の負担軽減策の取り扱いと思われるが、それに合わせてガソリン補助金についても議論が行われる可能性が高いだろう。

具体的な方法としては、たとえば現行制度における補助金25円以上部分(ガソリン価格で193円以上)について、補助率を100%にした上で延長を行う方法が考えられる。こうすれば、ガソリン価格が193円以上に上昇する可能性がかなり低下することになる。従来(5月まで)は168円を上限としてきたガソリン価格について、193円を新たな上限とするイメージである。これであれば、現在実施されている補助率の段階的縮小(および25円以上部分の補助率拡大)との連続性もある程度保たれるため、現実的な案と思われるが、インパクトには欠ける。その場合、はっきりとした形でガソリン価格を引き下げるため、補助金制度を従来(5月以前)のものに戻し、再びガソリン価格を168円で安定的に推移させるという方法を採用する可能性もある。通常であれば、ここまで補助金縮小・終了の道筋をつけ、実際に縮小が進んでいるなかで、再度補助金を元に戻すことは考えにくいのだが、足元でガソリン価格が急ピッチで上昇し、国民の不満が著しく高まっていることを踏まえると、こうした方法も否定できない状況になってきた。足元では支持率が低下する一方で、税収は上振れを続けており、経済対策の規模が膨らみやすい状況にあることにも注意が必要だ。

また、その他に話題になる可能性があるのが、トリガー条項の凍結解除問題だ。これは、ガソリンの全国平均小売価格が3ヶ月連続で1リットル 160 円を上回った場合、ガソリン税(揮発油税、地方揮発油税)53.8 円のうち 25.1 円分の課税を停止、軽油についても、軽油引取税 32.1 円のうち7.1 円の課税が停止されるというものである。なお、3ヶ月連続でガソリン価格が 130 円を下回った場合には元の税額に戻すこととなっている。もっとも、現在この制度は適用が停止されているため、ガソリン価格が160 円を上回るなかでも制度は発動されていない。

トリガー条項の凍結解除には法改正が必要になることに加え、一度発動すると元に戻すことが政治的に困難になり、暫定税率分の課税停止が長期間続くことになる可能性が高いことを考えると、実際にこれが実施される可能性はかなり低いだろう。もっとも、ガソリン価格の高騰については国民の関心が非常に高く、不満も蓄積している。今後、トリガー条項の凍結解除についての議論が盛り上がる可能性は十分あるだろう。

第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴