この記事は2023年11月17日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「中国住宅市場に低迷脱却の兆し、政府は現物販売を推進」を一部編集し、転載したものです。


中国住宅市場に低迷脱却の兆し、政府は現物販売を推進
(画像=lzf/stock.adobe.com)

中国国家統計局の公表資料によると、2023年9月の住宅販売面積は前年比21.1%減と5カ月連続の2桁減少となった(図表)。内訳を見ると、住宅販売面積の大半を占める予約販売(販売時点で未完成の物件)は同28.0%減と大幅な減少が続いた一方で、現物販売(販売時点で即入居可能な物件)は同23.0%増と2カ月連続で増勢が拡大した。今回は、予約販売と現物販売で明暗が分かれた中国不動産市場の先行きを見通したい。

現在の中国における住宅販売の方法は、約8割が予約販売となっている。予約販売制度は1995年、住宅需要の急拡大に対応するために導入された。この制度では、住宅購入者が住宅の建設前や建設途中に物件を購入(契約)し、契約後すぐに住宅ローンの支払いが始まる。不動産企業が住宅建設資金を早い段階で確保できる利点があり、政府も同制度を推奨してきたことから、導入以降、急速に利用が拡大した。

しかし予約販売が拡大すると、不動産企業が建設資金を流用し、建設工事が遅延するなどの問題がしばしば発生した。そして習近平体制が2020年後半に不動産会社への融資規制を強化すると、恒大集団などの大手不動産会社が相次いで資金不足に陥り、予約販売物件の建設工事を中断するケースが急増した。物件の引き渡しが遅れるケースが相次いだ結果、住宅購入者が不動産購入を控え、不動産市場の低迷につながった。

そこで、中国当局は22年以降、資金繰りに窮した不動産会社への大規模な資金支援を開始した。足元では住宅購入者への物件の引き渡しが着実に進んでいる。23年に入り、中国政府は予約販売における建設資金流用を防ぐため、不動産会社の監督を一段と強化している。ただし、業界最大手の碧桂園の債務不履行懸念が再び高まるなど、不動産企業の経営に対する不安は依然として強く、そのことが予約販売の回復の足かせになっている。

こうしたなか、中国当局は23年1月に、入居可能な不動産を販売する現物販売制度を推進すると表明した。その後、習体制が住宅購入支援策を強化したことも追い風となり、足元の現物販売は好調を維持している。雄安新区が現物販売を全面的に採用し、山東省でも積極的に現物販売を推進するなど、現物販売を拡大する動きは中国全体に広がっている。

回復の兆しが見える中国住宅市場だが、今後の本格的な回復は、①中国政府が不動産企業の経営不安の沈静化に有効な手を打てるか、②現物販売制度が国民に定着するか──の2点に左右されよう。

中国住宅市場に低迷脱却の兆し、政府は現物販売を推進
(画像=きんざいOnline)

浜銀総合研究所 調査部 主任研究員/白 鳳翔
週刊金融財政事情 2023年11月21日号