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(画像=ドリームフーズ株式会社)
山本 英柱(やまもと ひでき)
ドリームフーズ株式会社代表取締役社長
1975年生まれ。立教大学大学院卒。経営学修士号(MBA)取得、IT教育事業の起業、コンサルティングファームでの勤務経験を経て、2004年に同社へ入社、2011年より現職。マーケティング、商品開発、店舗開発、人財開発、ファイナンスなど、幅広い業務領域で知識と経験を有する実践型経営者。若手起業家の世界的組織EOに所属。
ドリームフーズ株式会社
当社は1963年に滋賀・彦根に麺類食堂をかべが発祥。近江ちゃんぽん専門店「近江ちゃんぽん亭」や「金亀庵」など、ご当地飲食ブランドの創生に力を注ぎ、現在全国に55店舗以上展開。2018年に1828年創業の株式会社マルマタをM&Aし、自社製造工場で食品製造販売に参入。食の領域で一貫して事業展開し、「おいしいをつくる・つなぐ会社」として進化。滋賀県に根ざし、滋賀の文化や食事を強調し、地域NO.1企業を目指しています。

起業から現在に至るまでの事業変遷について

―まず、これまでの事業の経緯について教えていただけますか?

ドリームフーズ株式会社・山本 英柱氏(以下、社名・氏名略):当社は1963年に創業し、私が二代目の経営者です。父が代表取締役社長を務めていた頃、私は東京でコンサルティングの仕事をしていました。しかし、父の事業が地元の滋賀県から全国展開へと進む流れになり、そのタイミングの2004年に私は戻ることを決めました。

―なるほど、その後どのように展開してきたのですか?

当時の「ちゃんぽん亭」は彦根市を中心に展開を行っており、直営7店舗、フランチャイズ6店舗の合計13店舗を展開していました。その後、2004年に県外初の京都に出店し、全国展開を進めていきました。ちょうどその頃、イオンモールやララポートなどの大型商業施設が新規出店していたので、その流れに乗って出店を進めていました。

ドリームフーズ株式会社
(画像=ドリームフーズ株式会社)

―京都から全国展開が始まったのですね。

そうです。その後、大阪や神戸、岐阜、愛知などにも進出しました。特に2008〜9年頃から急激に店舗数が増え、15店舗ほど新たに出展しました。ただ、滋賀県では一定の知名度があったちゃんぽん亭ですが、他府県ではまだ知られていなかったので、ブランディングが必要でした。

―どうしてブランディングが必要だったのでしょう。

お店の看板メニューはちゃんぽんだったのですが、当時ちゃんぽんといえば長崎ちゃんぽんのリンガーハットが有名でした。そのため、お客様が長崎ちゃんぽんを期待して来店するものの、我々のちゃんぽんは長崎ちゃんぽんとは中身が全く異なるため、想像と違うとして、クレームを寄せられることもありました。また、クレームが我々にではなく商業施設側に伝わることもあり、我々は本意ではないものの、対応しなければなりませんでした。

―そこでブランディングの必要性を感じたわけですね。

はい。当時の経営陣と協議して、「近江ちゃんぽん」という地域名を冠し、そのブランディングをしっかりと行い、「近江ちゃんぽんを日本のちゃんぽんに」をミッションとして、商品を広めることを決めました。

そして、まず滋賀県民のお客様に、これが我々のご当地ちゃんぽんであることを認識してもらうため、地域戦略を展開しました。当時は県内13店舗でしたが、滋賀県の人口を鑑みるともっと密度を上げることができると考え、最終的には30店舗を目指しました。

一方では全国展開を進めつつ、滋賀県内でもトップの地位を確立しようと、2009年頃から滋賀県内の出店も増やし、現在は30店舗になっています。また「近江ちゃんぽん」の商標登録も行い、ブランディングに成功しました。

―現在の店舗展開はいかがでしょう。

はい、現在は東海エリアや近畿エリアを中心に、お店を展開しています。また、新規出店も行いながら、地域に定着したブランドとして成長しています。

―飲食店として他にも何かチャレンジされたことはありますか?

過去にはパスタ屋やうどん屋、たこ焼き屋など、いろいろな業態にチャレンジしてきて、中には失敗も経験しました。また、地域に根差した話として、彦根市の隣にある多賀町で栽培している日本そば「多賀そば」に出会いました。蕎麦生産地としては関西で二番目に大きな栽培面積を誇っていますが、ブランド化ができていないので、当社で地域おこしに活用しようと考えています。現在、滋賀県内で3店舗の多賀そば店を展開しており、また、肉そばのお店も2店舗展開しています。

自社事業の強み

ドリームフーズ株式会社
(画像=ドリームフーズ株式会社)

―では、御社の事業の強みを教えていただけますか

当社の強みは、滋賀県という地域に根気強くブランディングを行い基盤を整えている、かつそれを他県に展開できているところです。地域で絶対的なマーケットを抑えているからこそ、さまざまなチャレンジが可能になっています。また今後は世界にも展開していく予定です。

そして2018年には、滋賀県にある200年近い歴史を持つ醤油屋が経営支援を求め、M&Aを通じてグループ化しました。その醤油屋は創業時から味噌や醤油を醸造して販売している老舗です。現在はグループ内の工場で醤油を生産し、そば店やちゃんぽん店でも使っています。食品事業の醤油屋としてのメーカー性も持ちながら、生産の上流工程から販売の下流工程まで一本化し、自社内で行える体制が整いました。その結果、商品開発や食材の安定供給、ローコストオペレーションなどが可能になり、自社の製品開発や組み合わせなど、今後の展望が大きく広がりました。

―2020年から2022年のコロナ禍で外食事業が大きな損害を受けたとのことですが、その中でどのような影響がありましたか?

コロナ禍で外食事業が大きな被害を受け、売り上げが約30%縮小しました。その中で得られた教訓は、リスクヘッジと事業ポートフォリオの重要性です。外食事業が落ち込んだ時、巣ごもり消費としてスーパーや食品事業が伸びました。外部環境の変化があっても、何かが落ちたら何かが上がるような形でポートフォリオを組みたいと考えました。

―コロナ禍が明けた現在、今後の展開については、外食事業と食品事業のどちらに力を入れていく予定ですか?

一時期は外食がダメになった場合、食品事業にシフトしようと考えていましたが、昨年4月からコロナ関連の制限が撤廃され、外食産業が回復しています。現在は以前の勢いを上回るほど伸びているため、外食事業にもリソースを投入していく方針です。

具体的には、外食ブランド展開を通じて得られたノウハウやレシピを、上流工程の商品開発に活用し、より幅広い用途での食品の生産をしていきたいと考えています。また、自社で開発した商品を他社にも販売するBtoB事業の方向も検討しています。

現在は新型コロナウイルスの影響で外食産業の企業が新たなチャレンジを求められる時代です。そのため、私たちは原点に戻り、「おいしいをつくる・つなぐ」というミッションを大切にしています。

山本社長の関心事項について

―山本さんが現在最も関心を持っているトピックや関心事は何ですか?

私たちは生産者からお客様へ、仲介者として高い付加価値を付与することが使命だと考えています。そのサプライチェーンの中での使命を果たすためには、人的資本が非常に重要だと思っています。資金調達ができれば、お店や商品をどんどん作ることができますが、最終的には人材が重要です。

―人的資本ですか。

ZUU onlineさんの記事の中にも、「人的資本」という項目がいくつか上がっていますね。当社としても、サプライチェーンの中でいかに付加価値を高めるか、すなわち、どういうレシピを開発するか、どういう商品開発をするかといったテクニカル部分は、日々の中で目標に向かっています。しかし、それを実行しているのはすべて人です。どうやってその人的資本、すなわち人材をうまく採用し、教育し、自己実現を果たせるような環境を作るかが重要です。

―人口減少の影響はどうでしょうか?

2050年には日本の人口が約1億人まで縮小すると言われています。それにより、労働人口が約千万人減ることになります。そうすれば、不人気職種から人が減っていくでしょう。残念なことに我々が従事している外食産業は、その影響を最初に受ける業界です。政府は特定技能外国人という形で外国人労働者を増やそうとしていますが、私は今後10年から20年の間に外食産業で働く日本人の割合は50%を切ると考えています。

そのため、人的資本経営において、外国人をどうやって戦力化していくのか、そこからマネージャークラスや経営幹部クラスをいかに育成していくのか、社内のダイバーシティをどう進めていくのかが重要です。これは、大手メーカーなどよりも、接客業やサービス業をやっている人たちにとって現実問題として非常に大きいと思います。

―今後、外国人戦力の活用や社内での仕組み導入のタイミングが重要だと思いますが、御社ではどのように考えていますか?

この業界では求人を出す際に若くて元気な人材を求める傾向がありますが、それだけでは限界があります。50代、60代も含めたシニア層の採用や、外国人労働者も含めた多様な人材を取り入れることが重要だと考えています。しかし、そのような人材構成を実現することは難易度が高いといえます。日本の労働問題は非常にネガティブなトピックですが、逆に言えば、その中で成長していく企業が今後の競争力を担保できると考えています。ドリームフーズ株式会社としては、これからもそういった人材の確保に力を入れていく必要があると認識しており、社内で常に議論しています。

―なるほど、ありがとうございます。

今後の事業展開や未来構想について

ドリームフーズ株式会社
(画像=ドリームフーズ株式会社)

―今後の新規事業や既存事業の拡大について、お話しできる範囲で教えていただけますか?

はい、日本の労働に関する未来展望があまり良くない中で、今後のビジネス戦略として自社のリソース、特に人材に制限がある場合は他社のリソースを活用する必要があると考えています。これまでは直営店舗による新規出店を中心にやってきましたが、60年の歴史を持って一定の完成度でブランドを仕上げてきた自信がありますので、フランチャイズという仕組みに昇華し、パートナー企業と協業しながら各地域で店舗展開を行うというのが、未来構想の1つ目の軸です。

―なるほど、他にはどのような展開を考えていますか?

もう1つの軸は海外展開です。過去にハワイで一店舗出店した経験がありますが、コロナ禍の直前に契約満了で撤退しました。その経験を踏まえて、今年の5月に台湾に新規出店しました。台湾では新しい需要や異なる労働環境があり、非常に前向きな人々が多いことを感じました。東南アジアや台湾を含めた海外にはまだまだチャンスがあると考えています。

今後も国内での新規出店を行いつつ、20%ぐらいのエネルギーを海外に向けていくつもりです。台湾での一号店出店が期待以上に好評で売上も上がっているので、グローバル戦略として展開を進められるのではないかと考えています。

また、外食産業だけでなく、食品産業を伸ばしたいというビジョンがありますが、それは日本国内だけでなく、海外にも展開できると考えています。輸出や現地での製造を含めた食品事業を海外でも展開できると、非常に面白みがあると思っています。

―外食、食品産業以外で取り組みたいと考えていることはありますか?

我々が取り組んできた外食、食品産業は、一方では観光産業と捉えることができます。観光の観点から、近江ちゃんぽんという新しい観光資源を作り出し、お客様が訪れるお店を一種の観光地として捉えています。滋賀県といえば近江ちゃんぽんが有名で、観光客が目的地として訪れることが多いとも聞いています。すなわち、日本全体で観光産業が重要視されている中、新たな観光名物を作り出し、お客様に提供しているわけです。

マクロ的な視点から、醤油を生産して海外で販売する輸出業と、観光地の役割として滋賀県を中心に店舗展開する観光業は、日本が今後注力していく産業でもあるため、世のトレンドにも矛盾せず、当社の未来構想とも整合性が取れています。今後もさらに観光業を伸ばして、当社の軸の1つになれば良いと考えています。

―面白いですね。具体的に観光業で取り組んでいたり、取り組む予定のことはありますか?

現在は、当社で生産した醤油を、道の駅などのお土産屋に置いていただいています。また、近江ちゃんぽんをお土産の形にして販売しており、食品面で観光業に貢献しています。さらに、旅館・宿泊業なども、具体的な動きはしていませんが、頭の中ではいろいろなことを考えています。チャンスがあればチャレンジしていくつもりです。

―様々な事業に携わることで御社の人材も多種多様になりそうですね。

はい。業種によって年齢・スキル・人種など集まる人たちの属性が変わるため、さまざまな業種にチャレンジすることで、当社のダイバーシティも高まれば、なお良いと思います。飲食業、製造業、観光業、海外事業と、それぞれ異なるタイプの人が集まることで、会社が偏らずバランスが良くなると考えています。

あとは、これを机上で描くだけでなく、それぞれ実行していく必要があると考えています。実現力は、リーダーシップの問題が一番大きいと思うので、課題が残る部分もありますが、我々はそういった課題にチャレンジしていく会社です。

―本日は素晴らしいお話をありがとうございました。

氏名
山本 英柱(やまもと ひでき)
会社名
ドリームフーズ株式会社
役職
代表取締役社長