この記事は2023年11月24日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「70代まで働き、長寿化の恩恵を社会に還元へ」を一部編集し、転載したものです。


70代まで働き、長寿化の恩恵を社会に還元へ
(画像=Saran/stock.adobe.com)

(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」)

国立社会保障・人口問題研究所が今年4月、2020年の国勢調査をもとにした将来推計人口を公表した。15年国勢調査時の前回推計に比べ、総人口の減少テンポが若干緩やかになった。前回推計よりも外国人の流入超過数の仮定が引き上げられたからだ。それでも、人口の減少が日本経済成長にマイナスの影響を与えることに変わりはない。

今後30年程度を見通すと、これまでゼロ%台半ば程度で推移してきた実質GDPの伸び率は、ゼロ%近傍に低下する可能性が高い。労働力や製造設備といった供給面から実質GDPを見ると「就業者数」×「労働生産性」(就業者1人当たりの付加価値額)と表される。実質GDPの伸び率は「就業者数の増減率」+「労働生産性の伸び率」とほぼ等しい。就業者数の項に生産年齢人口(15~64歳)の推計値を代入すると、50年までの就業者数の伸びは年率▲1.01%と減少テンポが一段と速まる。一方、労働生産性は、新しい技術の導入などで向上を期待できるが、過去の先進国の実績はせいぜい年1%程度の伸びにとどまる。両者を足せば、実質GDPの伸び率はゼロ%近傍となる計算だ。

もっとも、生産年齢人口が急速に減るなか、従来と同じ経済規模を維持することが難しくなるのは当たり前だ。大事なのは、1人ひとりの国民の豊かさ、すなわち人口1人当たりの実質GDPの伸び率である。

だが、その維持も簡単ではない。40年代半ばまで65歳以上人口が増え続けるために、総人口は生産年齢人口ほどのスピードでは減らない。直感的に言えば、これまで6人が働いて作った生産物を10人で分け合っていたのに対し、将来は5人が働いて作った生産物を10人で分け合うこととなり、1人当たりの取り分が減ってしまう。

国民1人当たりの実質GDPの伸び率を計算式で表すと、「就業者数の増減率」-「総人口の増減率」+「労働生産性の伸び率」となる。計算式の「就業者数の増減率」から「総人口の増減率」を引いた値は、今後30年間で年率▲0.39%と計算される。これだけのハンディキャップがある以上、1人当たり実質GDPの伸び率を維持するのも容易でない。

この課題を克服するには、就業者数を増やすか、労働生産性を引き上げるかが必要だ。図表のとおり、生産年齢人口の総人口に占める比率は、ピークの1990年時には約7割だったが、いまや6割程度まで低下し、2050年には5割程度に落ち込む。同比率を約7割まで戻すには、生産年齢人口の上限を、50年までに65歳から75歳前後に引き上げる必要がある。

目指すべきは、70代半ばまで働ける社会づくり。そもそも同比率の低下は、長寿化で高齢者の割合が上昇していることが原因だ。長く働くことは、長寿化の恩恵を社会に還元することにほかならない。

70代まで働き、長寿化の恩恵を社会に還元へ
(画像=きんざいOnline)

オフィス金融経済イニシアティブ 代表/山本 謙三
週刊金融財政事情 2023年11月28日号