この記事は2023年11月21日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「ワークマン【7564・スタンダード】」を一部編集し、転載したものです。
一般向け機能性ウェアに業態拡大で店舗売上倍増
高機能・低価格のPB開発で国内1500店舗体制へ
プロ向けのワーキングウェアや一般向けの機能性ウェアを販売するワークマン。作業服専門チェーン店として業界トップシェアの同社が、一般向けの新業態「ワークマンプラス」を打ち出したのが5年前。大胆な業態転換で大きな注目を集め、株価は当時1万円超の高値を付けた。現在はプロ・一般向けの5業態を全国1000店舗(2023年9月末)展開。既存店の改装転換やショッピングセンターへの出店加速、新たな新業態出店でさらなる客層拡大を図っている。「機能と価格」を武器にしたPB商品で、国内1500店舗体制、チェーン全店売上高3000億円を目指す。
▼小濱 英之 社長
プロと一般向けの5業態を展開
取扱商品は同じ、見せ方を工夫
ワークマンでは、職人などプロ向けの作業服・作業関連用品のほか、一般消費者向けのアウトドアウェア、スポーツウェア、カジュアルウェアなど機能性ウェアを中心に取り扱う。いずれも高機能かつ低価格な商品が人気の理由だ。
現在はプロ向けが中心の「ワークマン」、プロと一般向けの両方を扱う「ワークマンプラス」、100%一般向けの「#ワークマン女子」「ワークマンカラーズ」、100%プロ向けの「ワークマンプロ」と、ターゲットを明確に分けた5業態を展開する(図1)。いずれも取り扱う商品は概ね同じだが、陳列方法や見せ方を変えて、幅広い客層にアピールしている。1日の1店舗あたり平均来店客数は約180人。来店の客層比率はプロが6~7割、一般が3~4割だ。
店舗数は、創業から展開する「ワークマン」が432店舗、新業態の「ワークマンプラス」518店舗と「#ワークマン女子」40店舗、「ワークマンカラーズ」1店舗、そして「ワークマンプロ」が9店舗。計1000店舗を全国47都道府県に展開。出店は基本的にロードサイドで、建坪は約130~150坪。駐車場も入れると500~600坪程の広さになる。近年は経営課題でもある一般向けの客層拡大を図るため、ショッピングセンター(SC)への出店も加速している。
「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」での新規出店を年間約40店舗、および既存の「ワークマン」からの改装転換を年間60~70店舗のペースで進め、一般向けの店舗網を拡大中だ。そのため24年3月期第1四半期には、「ワークマン」と「ワークマンプラス」の店舗数が逆転した。
「今後新店に関しては、ワークマンでは出さずに、ワークマンプラスもしくはワークマン女子を積極的に出店していきます。一方で、客層拡大する前から売上が上位クラスの店舗があります。そこはプロのお客様がしっかりついている店なので、より一層プロのお客様を獲得していくためにもワークマンプロに転換していきます」(小濱英之社長)
作業服専門店で着実に成長
プラスと女子で認知度急増
同社は、物販・流通関連30社で構成される企業集団ベイシアグループに属している。スーパーマーケットを運営するベイシア(群馬県前橋市)やホームセンターのカインズ(埼玉県本庄市)と共に、グループの中核企業の1社だ。
1980年に職人の店「ワークマン」1号店を群馬県伊勢崎市に開店。82年にベイシアグループの前身、いせやの衣料事業部門から独立し法人を設立した。以後、作業服・作業用品専門店として着実な成長を続け、97年に株式上場。売上高・店舗数は10年以上増加しており、長期にわたり成長を続けている(図2)。
ワークマンの認知度を一気に高めたのが、18年と19年の一般向けの新業態「ワークマンプラス」と「#ワークマン女子」の出店だ。作業服市場でほぼ独占状態だった同社が、大胆な方向転換をしたことはメディアや消費者の注目を集めた。
「人口減でプロの職人の方も減ってきています。そうなると当然売上も減りますので、このままの延長で行っても駄目だろうという危機感が当時社内にありました。業態を変革するため色々チャレンジしていく中、SNSで商品が良いと言われるようになりました。そこで一般の方が購入しそうな商品を集めて、1つの店舗で出したのがワークマンプラスでした」(同氏)
ワークマンプラスを出店以降、平均1700~1800円だった客単価は3000円台に増え、1店舗平均売上高は約8000万円から約1億7000万円に倍増した。大幅な売上増とともに、株価は当時1万円を超える高値が付いた。
「ワークマンプラスが出る前は、前年比103~108%の成長をずっと続けていました。それが、プラスが出て盛り上がっている時は既存店で120~130%。正直に言うと社員もびっくりでした。最初はどうなるかチャレンジでしたが、そこで火が点いてそのまま走り続けている感じです」(同氏)
低価格・高機能のPB商品
PB売上は前年比14%増
ワークマンプラスと女子の人気を後押ししたのが、2010年から自社開発するプライベートブランド(PB)商品だ。商品開発では、同社の強みである「高機能」「低価格」と、「素材」「サステナブル」の4つを追求し、他のワーキングウェアやアウトドアブランドとの差別化を図っている。
23年3月期のPB商品の売上高は、前年比14・3%増の1117億7800万円。売上のPB比率は6割以上を占める。商材別では、作業服・手袋・工具・安全靴などの「ワーク」が約21%、アウトドアやスポーツ向けの「アスレジャー」が約44%、その他の靴下やTシャツなどの「共通」が約35%。特にPBブランドを代表する「FieldCore」「Find─Out」「AEGIS」などを含むアスレジャー商品は、プロ・一般問わず幅広く支持されている。
「PBは元々プロの職人さんがより快適に作業できるようにアウトドアやスポーツの機能をプラスしていきました。それがキャンプやバイクのツーリングをする人の間で人気になり、一般向けに展開しました。今度は逆に一般の方に高評価を得たものを、プロ向けの商品にプラスするというのも行っています」(同氏)
夏用の1900円のストレッチクライミングパンツは、山登り用のカッティングを採用している。立ったりしゃがんだりの作業がしやすいため、トレッキングだけでなく農家の人や職人にも人気の商品で、年間80万本近く販売する。
「ジョギング用に売れているハイバウンスシューズは軽くて疲労軽減になります。プロの方からの要望でセーフティシューズを開発しました。運送業や物流センターの方も履いています。仕事でもどうせなら格好いい方がいいですよね。若い方は特にその傾向があるので、非常に売れています」(同氏)
PBの販売アイテム数は現在2100を超える。アイテム数の増加に伴い、2027年と28年に自社所有の大型物流流通センターを2棟建築する予定だ。
「#ワークマン女子」400店目標
新業態「カラーズ」で来店誘致
中長期の成長戦略では、2030年に国内1500店舗体制、チェーン全店売上高3000億円を目指す。業態別の店舗数は、現在432店舗の「ワークマン」が200店舗まで減り、「ワークマンプラス」が518店舗から900店舗まで増える計画だ(図3)。さらに「#ワークマン女子」も400店舗まで拡大を計画。出店加速のための施策の一つが、「#ワークマン女子」のブランドを確立させることだ。
「ワークマンプラスの出店が飽和状態になったエリアではワークマン女子を出していきます。出店することによって商品開発力も上がり、会社としてもさらに伸びていきますので出店は止められません。ワークマン女子は安定した売上を稼げる業態にし、さらにはワークマンプラス等と共存できるようなお店にしていかなくてはいけません」(同氏)
今年9月には、新業態「ワークマンカラーズ」を銀座にオープンした。「デザイン性重視、機能はステルスへ」をテーマにした新業態は、機能性を追求する一方で、よりデザイン性を高めた商品を集めデイリーウェアとしてアピールしていく。
「低価格なのに機能がしっかり付いているというポジションはブルーオーシャンです。機能性の場合、撥水があるからといった理由で買いますが、普段着はかっこいいとか可愛いとか直感的、情緒的なものが購入するきっかけになります。カラーズでは普段着として着用できる商品がこんなにあるということを発信したいです」(同氏)
カラーズの開店に合わせ、9月からはクイックレスポンスの生産方式を採用。流行を素早く取り入れ短納期・小ロットの海外生産を開始する。また、女性用インナーなど日常的に着用する購入頻度が高い商品を揃えて来店促進も行う。
▼ワークマンカラーズ
プロ用品は必需品で消耗品
主力PBの90%以上据え置き
2023年3月期のチェーン全店の売上高は1698億5600万円。同社の営業総収入が1282億8900万円(前期比10・3%増)、営業利益が241億600万円(同10・1%減)と増収減益で着地した。
新規出店や改装転換が進み増収となったが、円安や原材料費、海上輸送費の高騰など、外部要因により減益となった。競合他社が価格改定をする中、同社は22年2月に「価格据え置き宣言」を発表した。主力PB製品の90%以上の価格を据え置いている。
「元々ワークマンの商品はプロの人が使う必需品であり消耗品です。今もプロのお客様を主力にEDLP戦略をとっているから価格を簡単に上下できない。一般のお客様にもようやく客層拡大がうまくいっています。『機能と価格に新基準』を謳っているので、このクオリティの商品がこんな価格で買えるんだという驚きは続けたい」(同氏)
24年3月期の通期計画は、チェーン全店売上高1809億8000万円(前期比6・5%増)、営業総収入1365億7600万円(同6・5%増)、営業利益257億2000万円(同6・7%増)を予想する。
「価格据え置き効果で、法人向けのユニフォームなどの納入も増えています。価格を抑えますが、製造原価の見直しや素材共有で原価を抑えるなど、自社努力で採算の方も取りに行っていますので、今期は増収増益を目指します」(同氏)
EC販売では加盟店へ送客
ワークマンでは、一般向けに客層拡大したことで店舗平均売上高は1億7000万円まで増えた。だが、中長期的には2億円を目指しており、その目標達成のために、ECの売上高も伸ばしていく方針だ。
「店舗売上だけで2億円だと忙しすぎたり、店のスペースに限界もあるので、ECを組み合わせてその実現を目指します」(小濱社長)
同社EC運営の特徴は、店舗への送客効果を持つことだ。キャンプギアなどはネット専売となっており、しかも店舗受け取り限定で販売している。結果として加盟店の売上のサポートに結び付く。
「ワークマンは職人の店のイメージが根付いているので、まだ行きづらいと思っている人も多い。一般の方がキャンプギアなどをネットで購入するのを来店のきっかけになればと思っています」(同氏)
2023年3月期 連結業績
売上高 | 1,282億8,900万円 | 10.3%増 |
---|---|---|
営業利益 | 241億600万円 | 10.1%減 |
経常利益 | 246億6,400万円 | 10.0%減 |
当期純利益 | 166億5,600万円 | 9.0%減 |
2024年3月期 連結業績予想
売上高 | 1,365億7,600万円 | 6.5%増 |
---|---|---|
営業利益 | 257億2,000万円 | 6.7%増 |
経常利益 | 262億1,400万円 | 6.3%増 |
当期純利益 | 175億6,300万円 | 5.4%増 |
※株主手帳23年12月号発売日時点