東京都心の不動産投資から外国人投資家が脱出を始めている。コロナ禍の終息でリモート勤務が解除されてオフィス回帰が進み、東京に本社を置く輸出企業が円安を背景に高収益をあげている。さらに外国人投資家にとって円安は「買い」の絶好のチャンスにもかかわらず、なぜ「売り」に走るのか?そして、その影響は?
リモート勤務とオフィス供給過剰のダブルパンチ
「汐留のゴーストタウン化」が囁かれている。国内最大の貨物駅だった旧汐留駅跡地を再開発した超高層ビル群「汐留シオサイト」からの退去企業が相次いでいるのだ。汐留シオサイト1区A街区のカレッタ汐留は所有者の電通が2021年、不動産大手のヒューリックが出資するSPC(特別目的会社)に推定2680億円で売却した。
電通は売却後も同ビルの一部フロアを賃貸しているが、リモート勤務を継続しており出社人数は全体の3割程度という。そのため飲食店などのテナントが売上減から相次いで閉店、約60店から29店に半減している。
富士通も2024年9月末をめどに同1区B街区の汐留シティセンターから退去し、同ビルに入居していた管理部門を川崎工場(川崎市)に、営業部門を川崎市内のオフィスビルに、システム開発部門を東京都大田区のオフィスビルに分散移転する。
こうした事情もあってか、2023年9月にシンガポール政府系ファンドのGICが汐留シティセンターを3000億円超で入札を実施することが判明。2024年3月までに売却を完了する方針だ。ただ、東京都心では2025年2月に芝浦一丁目プロジェクトS棟(地上43階建て、延床面積約55万平方メートル)、同3月に高輪ゲートウェイシティ複合棟Ⅰ(地上30階建て、同約46万平方メートル)が完成する。
汐留シティセンター(地上43階建て、同21万平方メートル)級のオフィスビルは、2023年に3件が完成。2024年に1件、2025年には上記のビルを含めて4件と、大型高層オフィスビルの竣工ラッシュを迎えている。2003年に竣工し、築20年を迎えた汐留シティセンターがGICの思惑通りの価格で売れるかどうかは未知数だ。
海外の不動産投資マネーが日本から脱出
仮に汐留シティセンターが「投げ売り」されるようなことがあれば、すでに供給過剰が明らかな都心の不動産価格は大幅に下落するだろう。中小企業にはポストコロナでリモート勤務を解除または廃止する動きが加速しているが、都心にオフィスを構える大企業ではオフィス賃料や光熱費などの固定費を削減するためにリモート勤務を継続または推進する動きがある。楽観視はできない。
現実に不動産サービスを手がけるCBREの2023年第3四半期(1−9月)商用不動産投資動向によると、ビジネス不動産投資額は前年同期比9%減の9450億円となっている。これは海外からの投資マネーが80%も減少したため。一方、不動産を買い支えたのはJ-REITをはじめとする国内投資家だ。不動産への投資額は、同2.4倍と大きく伸びている。
ただ、頼みの国内勢も不動産投資の中心は、インバウンド需要を見越したホテル。ホテルの総取得金額は前年同期の3.5倍の1950億円に達し、このうち75%はJ-REITが投資している。半面、オフィスビルでは需要回復の足取りが鈍い。
オフィス仲介を手がける三鬼商事の調査によると、2023年10月時点の東京都心(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)におけるオフィスの平均空室率は前月比で0.05%好転し、6.10%と4カ月連続で平均空室率が低下した。とはいえ、平均賃料は前年同月比-1.85%となる373円安、前月比-0.05%となる9円安の1万9741円となっている。
ここに来て海外勢が日本の不動産投資からの離脱しているのは、欧米各国の大幅な利上げによるもの。日本は日銀が大型の金融緩和を続けているが、利上げに転じれば国内からの不動産投資も止まる可能性が高い。
同じ都心の不動産でも新築マンションは供給減で高値を更新しているが、オフィスは供給過多で価格が高止まりしている状況だ。その分、金利上昇で一気に相場が崩れる可能性が高い。都心のオフィスビルは危険な綱渡りの状態にあると言えそうだ。
文:M&A Online