つばめBHB(東京都中央区)は、東京工業大学発の化学素材製造ベンチャー。同大国際先駆研究機構 元素戦略MDX研究センターの細野秀雄栄誉教授が開発したエレクトライド技術を商業化するために、2017年に教授陣と民間企業、投資ファンドの出資を受けて2017年4月に設立した。

エレクトライド技術でアンモニアを効率的に生産

エレクトライドとは電子化物とも呼ばれ、電子が陰イオンとして働く化合物の総称だ。例えば絶縁体となっている物質の酸素イオンを電子に置き換えると、電気を流しやすくなると同時に電子を外部に与えやすいという性質がある。その結果、アルカリ金属のように電子を極めて放出しやすいにもかかわらず、化学的・熱的には安定しているという。

同社ではこうした特性を利用して、従来は400~500℃の高温と100~300気圧の高圧環境が必要だったアンモニア合成を、400℃以下の大気圧という条件下において短時間で達成した。

アンモニアは農作物の生育に欠かせない窒素を供給する化学肥料の製造に利用されている。アンモニアの約8割は肥料用とされ、尿素や硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムなど様々な窒素系肥料がアンモニアを原料としている。

アンモニアは主に窒素ガスと水素ガスから合成する「ハーバー・ボッシュ法」により、世界で年間約1億7600万トンほど生産されている。ただ、この方法では巨大な工場で年産20万〜120万トン規模もの大量生産をする必要があった。


食糧問題、エネルギー問題で世界に貢献する

つばめBHBはエレクトライド技術を利用したアンモニア製造プラントを開発。消費地の近くに建設して同1000〜10万トン単位で製造する、オンサイト生産技術を確立した。

設備投資額も従来の800分の1に削減できる上にアンモニアの輸送や貯蔵にかかる費用も抑えるなど、環境負荷の抑制とコスト低減につながるという。途上国でも安価なアンモニアの現地生産が可能となり、食糧の増産に寄与する。

同技術を高く評価した味の素は、つばめBHBの設立に当たって資本金の44%を出資し、全面的に経営を支援。農業肥料や食品、医薬品、化成品などでの適用拡大を目指している。

アンモニアは二酸化炭素(CO₂)フリー燃料や水素を化合物化して効率的に運搬する水素キャリアとしても有望視されており、農業だけでなくエネルギー問題解決にも役立つと期待されている。

こうした将来性の高さから、科学技術振興機構・新エネルギー・産業技術総合開発機構主催の「大学発ベンチャー表彰2023」で、新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長賞を受賞した。食糧問題からエネルギー問題まで幅広く対応できる技術だけに、注目の大学発ベンチャーだ。

文:M&A Online