東京大学工学部応用化学科卒業。イーソリューションズにて、先端医療ベンチャープロジェクトに5年関わった後、微生物ゲノム解析技術により有用化学品のバイオプラント開発を手がけるベンチャー企業にて、経営企画職を経験。ヒト常在細菌叢(マイクロバイオーム)の世界に魅了され、2014年にサイキンソーを設立。
1.これまでの変遷について教えてください。
私は大学で化学を専攻し、社会人となってからはバイオの世界に身を投じ、健康を維持するヘルスケアや生物を扱うライフサイエンスの領域で経験を積んできました。最初に入った会社では事業として再生医療創薬の研究を行っていたのですが、一つの薬を作るのに十年近くかかることもありました。しかし、再生医療やゲノムの研究を通じて、もっと一般の人々に近いところで役に立つサービスの提供や早く社会へ届けられるサービスを提供したいと思うようになり、腸内フローラ検査サービスを提供するアイデアが生まれました。
私自身、創業当初から経営者としての役割が変わった点があります。創業して間もない時はやはりビジネスを立ち上げることに専念していましたが、次第に組織作りや評価をしていくなどの役割が増えてきました。特に去年から今年にかけては経営者としての役割が大きく変わりました。組織の規模やフェーズに従って人の役割も変わっていくんだなと改めて実感しました。
2.一番感銘を受けた書籍とその理由は?
ビジネスにおいてターニングポイントとなった書物として「両利きの経営」があります。この本は、組織の運営において、既存事業を深めるベクトルと、新しいことを模索する探索のベクトルが両方大事だという教えを提供していて、私自身この本の最大の教えだと理解しています。この教えは、大企業が既存の事業を深めていくだけではなく、リスクをとって新しいイノベーションを取り入れていく必要があることを説いています。しかし、スタートアップにも同様のことが言えると考えていて、既存の事業を深めることと常に新しいリスクを取り続けて挑戦することを忘れてしまうと、事業の方針や軸がブレてしまう恐れがあります。既存事業の拡大と新しいイノベーションを起こす活動の二つの軸を大切にして、組織運営としてブレることがない思考や経営を考えられるようになりました。
3. 読書はどのように仕事に生かせたでしょうか。
これまで、顧客理解や事業を深めることに関しては考え続けていたものの、組織を大きくする上ではもっと必要な面もあると感じていました。そんな中でこの本を読んで、事業を深め続けることに加え、新しい技術開発や社内のスモールイノベーションも大切だということに気づきました。リソースの配分についても悩んでいたのですが、チームを細分化してそれぞれの役割をしっかり定義してあげることで組織全体の整理ができるようになりました。それによって、オペレーションと探索の両方を進めることができるようになりました。
4.経営において重要としている考え方を教えてください。
組織のバランスを取りつつ、うまく組織を統合しながら成長させていくことが大事だと考えています。
例えば、組織を生物学の視点で捉えると、様々な種がいてそれぞれが相互に作用しながら生活しています。そのバランスがうまく保たれていることが重要で、経営にも同様の考え方が適用できると思っています。
また、他にも二つほど参考にしている教えがあります。一つ目は鏡の女王仮説というもので、「生物の種は絶えず進化していなければ絶滅する」という仮説です。これは「鏡の国のアリス」で「赤の女王」がアリスに話した「同じ場所にとどまるためには、力の限り走らねばならぬ」という言葉にちなんで名付けたものになります。この考えはビジネスの競争関係にも近いと考えており、自分たちが今の状態を保ちたいと思うなら同じビジネスをずっとやり続けるだけではいけません。変化をし続け、社会に適応し続けることが大事だと思います。
二つ目は、チャレンジすることを諦めないということです。今までの生物のゲノム情報を読み取っていくと、現在の身体的特徴に現れないものや、使われていない情報というのがいくつも見つかります。ただそれは無駄な情報だ、というわけではなく生物がトライアンドエラーを繰り返した結果できた情報だということです。私たちも同じで、どんなに泥臭くても次につながるかがわからなくても、とりあえずやってみよう。挑戦してみよう。と行動することで、小さな成功が積み重なり一つの大きな成功を作ることができると考えています。
事業を探索する面、伸ばしていく面の両方において上記のような考えは非常に大切なのではないかと考えています。
5.最後に、御社の未来構想や従業員への期待について教えてください。
事業を伸ばすためには、まず会社をどんどん大きくしていくことが重要です。現在、当社の腸内フローラ検査は、累計検体数10万件に到達しましたが、これに満足せず、十倍、百倍と検査数を伸ばし千万件、それ以上という規模を目指しています。そのためには、商品メニューの改良や新しいものの開発が欠かせません。
何よりも大切なのは、チャレンジし続けることです。従業員同士だけでなく社会やユーザーの皆様と相互に作用し合い進化していくことを大切にしています。従業員には、ユーザーや社会との相互作用を通じて、トライ&エラーを繰り返しながら事業を進めてほしいと思っています。また、このような考え方や会社のバリューに共感してくれる仲間と一緒に仕事をしたいという思いも強く持っています。
- 氏名
- 沢井 悠(さわい ゆう)
- 会社名
- 株式会社サイキンソー
- 役職
- 代表取締役CEO