熟成されたVツイン
時代に色あせない秀逸なエンジン
SV650
スズキSV650。
今では珍しくなってしまったミドルクラスのVツイン。丸目一灯のシンプルなネイキッドは、根強く人気で新型のGSX-8Sとの併売が決まっている。1999年に登場してから改良と熟成を重ねて現在に至る。V型ツインの乗りやすさと何と言っても安い価格が魅力。安かろうのバイクではない。これほどの自在性を持ったマシンはスズキの歴代の名車に引けを取らない。
基本設計は古い。今どき正立フロントフォーク。LEDではないヘッドライト。メーターもカラー液晶ではない。ライディングモードもなければクイックシフターもなし。3つのライディングモードが選べる電子制御もりもりのGSX-8Sと比べると装備の差は歴然。しかし、このV型2気筒エンジンは秀逸。素晴らしい。どの回転域でも、しっかりとトルクがありアクセルに対してリニアに反応する。そのリニアさは、けして唐突ではない。じわっと反応するのだ。
V型エンジンの特徴としての、このジワリ感。でもすぐさま分厚いトルクがやってくる。コレが実に絶妙なのだ。反応は素早く、伝達はマイルド、かつ瞬時にワイルド。実に扱いやすい。脳の命令にすぐさまマシンが反応する感覚。この自在性は、乗るとすぐにわかる。そして虜になる。欲しい時に欲しいトルクがすぐに得られる快感。そしてそれは一瞬のジワリと間を置きながらすぐさま力強く伝達される。
これがこのV型2気筒エンジンの秀逸さなのだ。
SV650は、エンジンの秀逸さだけではない。消してすごく軽いとは言えない199Kgの車体。しかし、操舵感はものすごく軽い。それは、V型のスリムな車体と秀逸なエンジンのリニアな反応が合わさって軽快さを出している。この組み合わせがマシンのバランスとして自在性を高めてクイックに操舵することができてしまう。ノーマルで、そうなっているが、サスペンションとタイヤを替えると、ソレはさらに進化する。ベテランがカスタムを加えてレース車両に使うことも少なくない。
バイクを操る楽しみ。これがSV650を一言で表す魅力だ。スピードを出しても出さなくても、このマシンは自在性という快感を伴ってライダーを満足させてしまう。初心者でも扱いやすい、785mmの足つき性や全域でのトルクの厚み。素直なハンドリングと唐突でないパワーデリバリー。大型バイクで手軽に楽しめてこの価格は初心者に勧めないわけがない。
一方でベテランも満足させてしまうのは、熟成によってどこの回転域でもトルクフルなエンジンと軽快なハンドリング。
サスペンションやタイヤをカスタムしていけば、より自分好みの速度域のコーナリングとV型の太いパワーバンドだけを引き出して速く走れてしまう。アグレッシブでもありクイックでもある。操舵感の軽さは正義なのだ。正直、サスペンション脆弱性と質感やシートの薄さなどは、この価格であるから仕方ないとあきらめがつく。ただ、走りの楽しさは絶対に外さないスズキのすごみが感じられる名車なのだ。これだけ長く年間売り上げランキングに常連なのはそういう理由がある。
●水冷4サイクルV型2気筒645cc
●最高出力72ps/8500rpm
●車重199㎏ ●シート高 785㎜
●価格:803,000円(税込)
どちらが優秀で
どちらが楽しいのか
コスパの戦いはいかに
結論としては、どちらもイイ。優劣がつけられない。最初は、正直、あの秀逸な熟成を重ねたSV650に勝てるはずがないと思っていた。130台以上、バイクに乗っているがSV650は名車と言って間違いない。
しかし、そこはさすがスズキさん、新型のGSX-8Sも素晴らしかった。ここまで初期型で仕上げてくるとは驚きだった。自在性はもちろん、アグレッシブで軽快なハンドリング。乗りやすい。そして楽しい。
270°クランクのパラレルツインに新たな静寂性と自在性をもたらす次世代のエンジンと感じた。熟成していったら、今後はSV650を超えていくかもしれない。そのくらい完成度が高かった。自在に動き、軽快で楽しい。これが共通している部分。GSX-8Sの方がよりアグレッシブなストリートファイター的な要素がある。コーナリングはSV650の方が少し速い気がした。そこはV型の優位性か。
コストパフォーマンスも優劣つけがたい。もちろん、SV650はコスパ最強だが、排気量UPと電子制御やLED、カラー液晶メーターなどの装備で税抜き100万円を切ってきたGSX-8Sもコスパはいいと思う。楽しさは乗ってもらうしかない。どちらも楽しい。この後のGSX-8Rの登場も、またマシン選びを迷宮入りにさせそうな予感がしている。迷っているうちが一番楽しいかもしれないが。