東京ビッグサイトで開催された「2023国際ロボット展」(11月29日~12月1日開催)には、過去最高の14.8万人が来場(2023年12月時点での速報値)し、高い注目を集めました。
現在の日本はさまざまな産業で人手不足の問題に直面していることに加え、DX(デジタルトランスフォーメーション)におけるイノベーション創出の点でも国際的に遅れをとっています。
製造業でもその課題は顕著でIoT、AI、ロボティクスを活用した自動化が急速に進んでいます。今回は国内外から約120社が出展した産業用ロボットの国際イベント「2023国際ロボット展」に足を運び、会場の模様に加え、ロボティクス技術の最前線と今年の傾向を主催である一般社団法人 日本ロボット工業会の事務局長の矢内重章氏のインタビューとともにお伝えします。
1971年に任意団体「産業用ロボット懇談会」として設立。ロボット及びそのシステム製品に関する研究開発の推進及び利用技術の普及促進、ロボット製造業の振興を図るとともに、広く産業の高度化及び社会福祉の向上、国民経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することを目的とし、「国際ロボット展」などの展示会やシンポジウム、セミナーの開催、統計データの調査、分析、研究など幅広い活動を行っている。
目次
国内外120社以上が集結。世界最大級の産業用ロボットの国際見本市
2021年はコロナ禍の影響で未開催、2022年は入場を制限した開催となり、実に4年ぶりに通常開催となった「国際ロボット展」。国内外のトップメーカーが集結した4日間で、特徴的だったのは協働ロボットです。
例えば、ユニバーサルロボットは世界初公開となる協働ロボット「UR30」を展示。可搬重量が30kgで従来比2倍となる移動速度を実現。2023年4月に日本進出を果たした中国でトップシェアを誇るメーカーのAUBOロボティクスは、理学療法用のマッサージロボットやラテアートを実現するバリスタロボット、保護等級IP68に対応し、水中でも細密な作業が可能な水中ロボットなど展示の工夫もうまく、来場者からの注目を集めていました。
国内メーカーでは不二越(NACHI)が、高速・高精度の自動化ソリューションをテーマに、従来の「MZシリーズ」を改良した「MZ Fシリーズ」をベースにユーザーニーズに合わせた多彩な製品群と、来場者を圧倒する高密度スポット溶接セルを展示。
また安川電機は「i3-Mechatronics」(integrated:統合的、intelligent:知能的、Innovative:革新的)なものづくりを提案。中でも未自動化領域への対応を可能にする自律型ロボット「MOTOMAN NEXT」シリーズは、ティーチングプレイバック方式からの脱却を目指しており、これまで選別が難しかった不揃いや位置が不確定なものも高精度で対応が可能。
さらに協働ロボットの他では、2024年問題への対応として物流倉庫の自動化を実現するプラットフォームやAGV、AMR、ロボットアームのモジュール、デジタルツインやAIなどもニーズに応じて多様化・最適化が進んでおり、社会への実装がよりスピーディに進んでいることを実感できました。
世界トップメーカーからガンダムまで!ロボットにかける夢と実用的な活用が語られた講演・セミナー
ロボットならではの臨場感抜群の展示ブースの他に来場者の注目を集めたのは、メイン会場の他、3つのセミナー会場で4日間でリアル開催・ウェビナー合わせて延べ100以上行われた講演・セミナーです。
基調講演とも言えたのはメーカー企業とユーザー企業による合同フォーラム「iREXロボットフォーラム2023『ロボティクスがもたらす持続可能な社会』」です。ファナック、安川電機、川崎重工業など日本のロボットメーカーと、スイスのABB、ドイツのKUKA Roboticsからもロボット事業部の責任者が登壇する豪華な顔ぶれが実現。各企業が最新の技術や事例の紹介をしましたが、ロボットと人の協働や実現したい理想の世界は各企業で異なる部分もあり、来場者の多くが興味深く聴講していました。
また経済産業省が「経済産業省のロボット制作 〜ロボットとつくる未来〜」と題して、国が推し進める「ロボフレ」(ロボットフレンドリー。ロボットの未導入分野への導入促進や社会実装促進を目的とした経済産業省の取り組み)での政策紹介、人材育成などを紹介し、日本におけるロボティクス産業の指針を熱心に伝えるなど、産業用ロボットが当たり前のように社会実装される未来は遠くないことを示唆します。
また一風変わった内容で会場を満席にしたのはバンダイナムコ主催による「来るべき“現実の宇宙世紀”に向けて-『機動戦士ガンダム』×サステイナブルな未来・イノベーション創出への挑戦」です。日本が世界に誇るアニメカルチャー、その中でもロボットアニメは細部にこだわったメカニック、個性豊かなロボットのデザインで独自の世界観を確立してきました。「機動戦士ガンダム」の描かれた宇宙世紀が現実のものになりつつある今、アニメで描かれた技術はどのように実現し、社会課題を解決できるのか?実用的な活用とは異なる、大人でもワクワクするテーマとなりうるのがロボットの魅力のひとつであることを、本セミナーが十分に伝えてくれました。
事務局長にきく!今年の特徴は「中国企業の躍進」「多彩な協働ロボット」「プラットフォーム化」
――一般社団法人 日本ロボット工業会についてお聞きします。どういった目的でどのような活動をされているのでしょうか。
矢内氏(以下同) 日本ロボット工業会は、ロボットを製造している、あるいはロボットの部品とか周辺機器やソフトウェアも含めてた企業、研究機関等々の法人が集まって設立された団体です。つまりロボット業界の振興が目的の1番の柱となっています。その中の1つが「国際ロボット展」に代表される大規模イベントとなっており、他には各種データや統計の発表や、技術の標準化などを行っています。私は日本ロボット工業会に約40年間勤めております。
――つまりこれまでの「国際ロボット展」もほぼほぼ 経験されているのですね。速報値では、今年の入場者数、来場者数は14.8万人と発表されています。昨年が6.3万人弱でしたので、倍以上の来場者となりました。
2021年はコロナの影響で開催せず、2022年はポストコロナのタイミングでしたので厳密に感染対策を行いました。今回は基本的には従来の形に戻す方針で、過去最大の来場者数を記録することができました。 高校生以上から入場に登録が必要ですが、中学生以下は登録してませんので、最終的に15万人を超えている可能性もあります(2023年12月現在)。
――過去最大の入場者数という点は、産業用ロボットの注目度の高さがうかがえます。実際に我々も会場で学生をよく見かけました。来場者、出展者に関して属性の変化などはありましたか?
今回は来場者数と同時に、ブースの出展数も過去最高となりました。特に中国から約50社ほど部品など周辺機器メーカーを含めて出展しています。同時に来場者にも多くの中国系の方々に来場いただいております。会場のあちらこちらで中国語が聞こえてきました(笑)。日本は産業用ロボットのメーカーとしては世界でも屈指です。しかし、産業ロボットの世界的な市場はやはり中国なんです。さらに中国ではメーカーも急速に増加し始めており、今後日本の強力なライバルになると考えています。
――JETRO(日本貿易振興機構)のレポートでも、産業用ロボットの年間設置台数は中国が圧倒的で、世界の設置台数の半数以上を占めています(参照:拡大する中国の産業用ロボット市場)。一方、ドイツやスイスなど欧州企業も目立っていたかな、と感じています。
個人的に欧州で面白かったのは、ユニバーサルロボットをはじめとしたデンマークのメーカーですね。エンドエフェクターやモジュールなどをパートナー企業とともに創造していくエコシステムのスタイルで色々と面白い製品を出しています。ドイツ企業が多様なモジュール型製品を出していたのも興味深かったです。
人とロボットが一緒に作業する協働ロボットがやはり1つの柱になっていたと思います。まだ数そのものはそんなに多くはないのですが、着実に参画メーカーが増加しています。特に日本メーカーの増加が目立っていますが、中国、韓国、欧州など世界的に協働ロボットは増加傾向にありました。目新しさの点で言えば、可搬重量が多くなるなどさまざまなトピックがみられました。協働ロボットには「80W(ワット)規制」(※労働安全衛生規則第150条4項で、基本的に出力が80W以下でなければ、安全柵・安全教育が必要となる規制)があるなかで、ファナック様が世界最大となる可搬重量50kgまで対応可能となっています。
――大手メーカーのダイナミックな展示はロボット国際展の魅力のひとつです。その他の特徴はいかがでしょうか。
あとはAIとロボットの組み合わせも多く見られました。例えば、協働ロボットのティーチングに関しても、さまざまな事例が増えてきてます。AIを活用したダイレクトティーチング、ティーチングレスも出てきて、作業者の動きを直接AIが学ぶことで、ロボットの専門技術者を介さなくても協働ロボットに作業してもらうことが可能になってきています。そして、もう1つは、多くの企業がアプリケーションやプラットフォームをいろんな形で広げる動きが見られました。
――では、ユーザー企業にはどういう傾向・特徴があると思われますか?
製造業は中小企業の数が多く、産業用ロボットの導入・利用という点では、まだまだこれからだと思います。そのためには量産型ではなくて、現在では自動化が難しい多品種少量生産の作業工程などの自動化が求められます。経済産業省が掲げる「ロボフレ」のように、ロボットの使い方に関して、 ユーザー側から、いろんな意見をヒアリングして、メーカー側が答えられるような動きをもっと広げていかなくてはいけない。
例えば、食品工場の現場ではパートタイマーの方々がたくさんいらっしゃり、盛り付けなどはロボットによる自動化が難しい分野でした。従来はロボットが得意じゃなかった分野も、ハンドモジュールを変更することで対応できるようになったり、人間と同じような細密な動きも徐々に実現できるようになってきています。
――中小企業の方々、大手企業のサプライヤーなど製造業では中小企業が非常に多く、 デジタル化は避けられません。同時にDX推進やロボット導入は予算が合わなかったり、IT人材不足などの課題があります。日本ロボット工業会では、育成であったり教育っていうところの研修とかもやられていますが、中小企業のロボット導入の課題はなんでしょうか?
ロボティクス化をしたくてもコストが見合わず導入できないという課題は実際に多いと思います。令和5年度の予算でも先ほどの「ロボフレ」に関連した補助金(令和5年度「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に係る補助事業者(執行団体)の公募について)がありますので、このような制度を活用していただきながら拡大していければと考えています。
日本ロボットシステムインテグレーター協会という日本ロボット工業会から独立した一般社団法人があり、こちらで技術者やシステムインテグレーターなどの育成を行っています。同時に、今後製造業に入職する可能性がある学生の方々に向けて、ロボット業界に注目してもらう取り組みも行っています。
――国際ロボット展の、今後の展望を教えていただけますか
日本の製造業はもちろんですが、日本全体の国力が低下してきている中で、しっかりと稼げる力を創出していくにはイノベーションしかないと思います。これまで日本で行っていた仕事が海外に流出し、ものづくりの現場そのものが少なくなっているのが現状だと捉えています。
技術開発をしながら競争力の維持、向上を図ることがもっとも重要です。急速にグローバル化が進む中でいかに海外企業と戦っていくかをしっかり考えていかなくてはいけない。製造業だけではなく、さまざまな業界で技術革新が必要ですね。
かつては、日本は半導体、造船、鉄鋼、家電製品などさまざまな分野において製造大国と言えましたが、日本の地位が下がってきているのは明らかです。どうやって盛り返していくかが本当に重要で、産官連携でスピード感のある技術開発を行うしかないと思います。
人口減少や少子高齢化など課題先進国の日本が先頭に立ちながら、ロボティクスがもたらす持続可能な社会の実現と課題解決できる技術があることを証明する。国際ロボット展がそのような場であり続けることを期待します。
ポイント
- 2023国際ロボット展は、過去最高の14.8万人が来場し、ロボティクス技術、自動化など産業課題の解決手段として高い注目を集めた
- 協働ロボットの分野では技術の進化がめざましく、AIを活用したプラットフォームも今年の大きな特徴となった
- 日本企業は、経済産業省が進める「ロボフレ」など産官一体で自動化を進めていき、中国企業を筆頭とする国際的な競争で優位性を築かなくてはいけない
「2023 国際ロボット展」ではロボット産業の最前線を垣間見ることができました。120以上のブースのすべてをお伝えすることはできませんでしたが、会場全体は毎日活気に溢れ、ブースは大小の規模を問わず、個性的な視点や斬新な技術・工夫に溢れていました。また来場者には、今後の日本のものづくり、イノベーションを担う学生が多かったのが印象的でした。さまざまな課題解決が期待される産業用ロボットが実装され、進化していき、どのような社会課題を解決するのか。「2023 国際ロボット展」では、各メーカーの技術力のその先が見えてきます。
(提供:Koto Online)