受発注の業務を手作業で行っているとさまざまな問題が起こり得るため、改善したいと考える企業担当者も多いでしょう。受注側・発注側ともに「手間がかかる」「ミスが頻発する」「修正が面倒」「在庫管理が煩雑」などの課題があります。

そこで受発注業務を効率化する方法として、システムを導入する「受発注の自動化」があります。自動化することで、人為的ミスや属人化などの課題を解消でき、部門間連携の強化などにも効果が期待できます。この記事では受発注業務を自動化する方法やメリットについて詳しく解説します。

目次

  1. 受発注業務とは|日本企業における現状と課題
  2. 受発注を自動化するための具体的な3つの方法 
  3. 受発注を自動化する受発注管理システムとは
  4. 受発注管理システムを導入し業務を自動化する7つのメリット
  5. 受発注業務の自動化の前に①|受発注業務の自社における課題を確認する
  6. 受発注業務を自動化の前に②|検討すべき4点
  7. 受発注システムによる自動化のデメリット
  8. まとめ

受発注業務とは|日本企業における現状と課題

受発注業務を自動化する具体的な方法とメリット、注意点を解説
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

まず、受発注業務とは受注業務と発注業務を指します。さまざまな業務があり、その種類は多岐にわたります。業務は繁雑で手作業で行うには多くのリソース(従業員の人数、手間、時間、費用など)を必要とし、手作業のためミスが起こりやすい業務ともいえます。

ところが日本の多くの企業では、現在もアナログな手法である電話やFAXで受発注を行っているところが最も多いと、帝国データバンクの調査で示されています。

【図1】中小企業における受発注方法

受発注業務
(出典)経済産業省委託調査 帝国データバンク:「経営診断ツールの認知・活用状況及び、決済・資金調達の実態に関する調査」調査報告書 p37(2019年2月)

受発注業務で多くのリソースを割くことは業務効率の低下を意味します。これを解決する方法として受発注の自動化があります。

受発注を自動化するための具体的な3つの方法 

ここでは、実際に受発注を自動化するために考えられる方法を紹介します。結論から言うと、マクロやRPAの利用では完全な自動化とはいえず、手作業が残ってしまうため、受発注管理システムの導入をおすすめします。

【方法1】マクロ・VBA(Visual Basic for Applications)の利用

マクロはコンピュータの操作を自動化する機能を指し、主にExcel・WordなどMicrosoft製品での操作を自動化するものです。VBA(Visual Basic for Applicationsの略称)も、Microsoft Office製品などで使用されるプログラミング言語で、Excelなどでマクロを作成するためのものです。マクロやVBAは、すでに受発注業務の一部自動化に活用している企業も多いかもしれません。

マクロやVBAを使用すると、ある特定の業務プロセスを自動化します。例えば、Excelを使用した注文書の作成やデータの処理などが挙げられます。

なお、この「Excelのマクロ(VBA)を使っている」ことで「業務を自動化している」と考えている企業もあるかもしれません。しかし、マクロの利用は属人化につながりやすいデメリットがあるほか、近年の情報セキュリティの観点ではEmotetなどのマルウェアがマクロを埋め込んだファイルでサイバー攻撃を仕掛ける手口に使うことから、問題があると考えられており、今後も継続的に利用できるかどうかは不明とされています。

また人の目による確認が必要など完全な自動化とはいえない手法であり、ミスが起こることは回避できません。自動化のためには専用のITシステムやツールを導入する必要があります。

【方法2】RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:Robotic Process Automation)の活用

RPAは”Robotic Process Automation”の略称で、ソフトウェアロボットを使用して人間が行っているルーティーンな業務プロセスを、そのままのかたちで自動化する手法です。

例えば受発注フォームの入力やデータベースの更新など、人が行っている「繰り返し行われる定型的な作業」を自動的に行います。プログラムが自動で行うため効率化できますが、作業内容がブラックボックス化することや、誤った情報を与えても間違いに気づかずそのまま作業を続けてしまうなどのリスクがあります。

なおRPAでの自動化はあくまでも提携作業を自動化することにとどまるため、業務フロー全体を統括して管理することには適していません。

【方法3】受発注管理システムの活用

受発注管理システムは、企業が受発注プロセスを効果的に管理するための統合ソリューションを指します。受発注の自動化に最も適しているシステムです。IT化が進んでさまざまなシステムやツールが開発されており、複雑な業務も自動化できること、情報を一元管理できるメリットがあります。

受発注管理システムには、オンプレミスとwebシステムを用いたクラウドサービスがあります。いずれも自社の内情に合ったシステムを選び、実際に役立つものを構築・導入する必要があります。またどちらもコストがかかるため導入に際して注意が必要です。

受発注をIT化、自動化するためには、この受発注管理システムの導入と全社的な活用が必要になります。

受発注を自動化する受発注管理システムとは

ここでいう受発注管理システムとは、繁雑な受注・発注の業務を管理するためのデジタル化された情報システムを指します。従業員が手動で行っていた受発注に関わる業務を自動化することで、業務の効率性向上や精度の向上を図れ、リアルタイムでお金と商品の流れを可視化し把握できることが特徴です。

受発注管理システムには、主に以下の機能が含まれます。

※図1 受発注管理システムの主な機能

受発注業務

①受注管理

受注に関連する業務全般を一元管理します。電話・メール・FAXなど複数の窓口からの受注にも対応します。

②在庫管理

商品の最新の在庫状況をリアルタイムで確認できます。AIを活用して過去のデータから需要を予測し、不足が生じた場合に自動で発注できるものもあります。

③出荷管理

納期に適した出荷日を自動で、指定した数だけ出荷できます。

④請求管理

請求書の発行や送付を自動化できます。

⑤顧客情報管理

顧客の属性ややりとりを一元管理し、受注や発注に際して確認のメール送信、お礼メール送信などを自動で行います。

⑥レポートと分析機能

これまでの受発注傾向をデータとして蓄積し分析して将来予測などに活用できます。

⑦他のシステムとの連携

データを一元管理し営業システムなどと連携することで、受注データの二重保存が発生せずミスが起こりにくくなります。

これまで全て手作業で行ってきたこれらの業務を、受発注管理システムはデジタル化することで自動化でき、企業が受発注プロセスを迅速かつ正確に管理して業務効率を向上させるのに役立ちます。さらに、顧客満足度の向上やヒューマンエラーの削減といったメリットも期待できます(くわしくは次章にて解説)。

受発注管理システムを導入し業務を自動化する7つのメリット

受発注システムを導入し自動化することで、さまざまなメリットが期待できます。ここでは主なメリットを7つ紹介します。

【メリット1】人為的なミス(作業ミス・対応漏れなど)の削減が可能 

システムの自動化により、人為的なミスが大幅に減少し、正確で効率的な業務処理が可能となります。

【メリット2】業務効率が上がり納品にかかる時間が時短できる

受発注プロセスが自動化されることで、主に納品までの時間が短縮されます。業務効率化が進み、無駄な作業や戻りがなくなり、迅速な対応が可能となるでしょう。

【メリット3】適正な業務時間の確保により従業員の労働環境が改善される

システムによる自動化で、これまで人手で行っていた作業や確認業務が発生しません。また人の手によるミスが削減できるため、戻りの工程や受発注のやり直しが発生せず、業務フローの滞りがなくなります。これにより従業員は無駄な業務にかかる時間がなくなり、本来の業務に専念できます。その結果、従業員は受発注にのみ時間を取られることがなくなり、過重労働や時間外労働が減り、労働環境が改善されることも期待できます。

【メリット4】在庫の無駄がなくなる

受発注システムは部門や部署を横断して機能するため、在庫の数や管理状況などについてもリアルタイムで、そして一元管理できます。これにより在庫の無駄や過剰な保管、重複発注などが大幅に削減されます。

【メリット5】顧客満足度が向上する

迅速かつ正確な受発注プロセスにより、トレンドやニーズに即した(顧客の欲しいと思った)タイミングで市場に製品を投入することが可能になり、顧客の期待に応えることができます。正確な情報提供や迅速な対応は製品のみならず企業の評価も高め、顧客満足度の向上につながります。

【メリット6】取引先の満足度が向上する

受発注業務が円滑に進むことで、取引先との信頼関係が強化され、取引先の満足度が向上します。

【メリット7】受発注対応が簡単になり対応できる人員が増える

システムによる自動化により、受発注業務の対応が簡素化され、属人化が解消されます。「どの従業員でもできる」ことから利便性が高まり、対応可能な人員が増え、従業員一人にかかる責任が減って「ミスをしたらどうしよう」などのストレスから解放されます。

受発注業務の自動化の前に①|受発注業務の自社における課題を確認する

業務効率化に有効とされる受発注業務のシステム化と自動化ですが、実際に進める前に、まず自社において以下の3つの課題・状況がどうなっているか確認することが重要です。

人為的ミスの発生頻度はどのくらいか

受発注業務において、人為的ミスが発生する頻度を評価しておきましょう。

具体的なミスには、注文数量の誤り、在庫管理の不明瞭さ(数量の不一致など)、納期やスケジュールのミス、請求費用など金銭にかかわるミスなどがあります。これらの人為的ミスが頻繁に発生している場合、自動化の導入が特に効果的である可能性があります。

関連する業務との連携がうまくいっているか

導入前に、在庫管理や請求処理などが関連する部署全てと連携がなされているか確認する必要があります。

受発注業務は、他の業務との連携が不可欠です。自動化システムを導入しても、部門間・部署間での意思疎通や情報共有が上手くいっていなければ、業務自体が滞るおそれがあります。この課題は単に業務が滞りなく進む仕組みができているだけでなく、従業員同士のコミュニケーションがスムーズに取れるような企業風土があるか、なども重要になります。

業務の属人化がどの程度か

受発注業務が、属人化(=特定の個人のスキルや知識に依存)していないかどうか確認します。

業務が属人化されていると、その人が不在の際に問題が発生するリスクが高まります。例えば、「●●さんしかやり方を知らない」という業務が多かったり、「●●さんが休みのときは業務が停滞する」などの事態が実際に頻発していたりする場合、業務の属人化が進んでいると考えられます。

受発注システムを導入して自動化することで、問題点が可視化され手順や仕組みがスムーズになり、その業務を他の従業員もできるようになる可能性が高まります。

受発注業務を自動化の前に②|検討すべき4点

受発注業務を自動化する前に、以下の点を検討し見直すことが重要です。

現在の業務フローと業務内容に無駄はないか

受発注業務の現行のプロセスを詳細に分析し、どの部分に無駄があるか、どのステップが冗長であるかを確認します。これによって無駄を削減し、効率を向上させるための改善点を見つけることができます。また実際に受発注システムを導入し自動化する際、検証の結果得られた最適なフローを実現でき、より効率化が高まります。

自動化は妥当か

そもそも自動化することにメリットがあるのか、自動化が適しているかどうかを検討します。

例えば、定型的で反復的な業務や大量のデータ処理が必要で、それらを従業員が手作業で行っている場合、自動化によって業務効率化が進められる可能性が高まります。

多くの企業では受発注は膨大な数になるため、通常はシステム化・自動化することで業務効率化が進み、ミスも少なくなるメリットが得られます(具体的なメリットについては後述)。そのため現在特に大きな問題が発生していない場合でも、自動化することでビジネスが加速し企業価値を高められる可能性があります。

システム導入は可能か

受発注を自動化するには、当然新しいシステムを導入または新規構築する必要があります。これにはオンプレミス方式(自社でシステムを設置構築するもの)とクラウド方式(インターネット上にあるサービスを購入して利用するもの)があります。

オンプレミスの場合、日本の中小企業では古いシステム(レガシーシステム)を現在も使い続けていることが多く、それらは現在主流となっているITシステムとの連携が難しいものも少なくありません。そのため、いざ自社で新規システムを導入しようとしても、システム全てを入れ替えなければできなかったということもあり得ます。よって、自動化の前にまず自社システムの状況を把握する必要があります。

クラウドサービス利用の場合はオンプレミスよりも導入は比較的スムーズなことが多いようですが、やはり企業内で使われているネットワークによっては利用が難しいというケースもあり得ます。どのシステムを利用するにせよ、自社システムとの連携が可能かどうかの確認は事前に行っておく必要があります。

(参考)経済産業省:「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」

アウトソーシング(BPO)は可能か

受発注業務システムやツールを自社の既存システムに導入したり、新規システムを構築したりする以外に、業務自体をアウトソーシング(BPO:Business Process Outsourcing)することも一つの方法です。

BPOを活用するメリットとしては以下の3点が考えられます。

① 外部ベンダーに業務を委託することにより、専門知識を持つアウトソーシング先が業務を効率的に処理するため、企業は自社の中核業務に集中できるようになります。
② 例えば、企業側が受発注システムを自社で導入し運用するにはコストや人的リソースがかかり過ぎる場合、アウトソーシングすることでこれらのリソースを抑えられる可能性があります。
③ 自社のシステムが古く、自動化システムを乗せ換えられない場合に有効です。自社システムを特に変更することなく受発注システムのみ自動化できます。

ただし、アウトソーシングには定期的にコストが発生するため、自社内で導入・運用をする場合と比較してどの程度差があるか、事前に正確な試算等を行う必要があります。

受発注システムによる自動化のデメリット

受発注システムの導入には大きなメリットが複数ありますが、一方でデメリットもあります。

【デメリット1】構築や導入にコストがかかる

当然ながら新しいシステムを導入するため費用がかかります。SaaSなどクラウドサービスの場合は定額が月額または年額で必要です。オンプレミスの場合はシステム構築費用として初期投資費用がクラウド型よりも大きくなる傾向があります。また保守・運用にかかるコストや、ITに詳しい人材の雇用なども必要になり、傾向としてはクラウド型より費用は高くなります。

【デメリット2】従業員への教育が必須

新しいシステムを導入しても従業員が使えなければ意味がありません。「今まで電話やFAXで問題なく済んでいた作業を、何故わざわざ使い慣れない端末を使って覚えなければならないのか」と不満が出ることもあります。全社的にどのようなメリットがあるか、目的をよく理解してもらえるよう、また従業員全員が使いこなせるように継続的な教育は必須です。

【デメリット3】顧客(得意先)へ理解を求めることが必須

従業員以上に、顧客がとまどうことが考えられます。「これまで電話で取り次いでくれていたのに、メールでないとダメなの?」となったら、受発注をしてもらえなくなるかもしれません。

具体的には、こちらから赴いて使い方をレクチャーするなど、丁寧に対応し、利用率が上がるように努める必要があります。

まとめ

この記事では受発注システムの導入と自動化のメリットについて解説しました。

受発注システムを導入し人が行っていた作業を自動化することで、企業は業務効率を高められさまざまなメリットを得られ、課題を解決できます。ExcelのマクロやRPAによる部分的な自動化ではなく、業務プロセス全体を見直し自動化することで企業価値も高められるでしょう。受発注システムの構築や導入には専門的な知識が必要になることもあるため、外部ベンダーの知見なども活用しながら、従業員の利便性を高め利用しやすいシステムを導入してください。

(提供:Koto Online