本記事は、大澤 亮氏の著書『「プロ」に外注』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))の中から一部を抜粋・編集しています。
「幻想」から覚めた企業がプロ人材を活用できている
プロ活用のメリットを実感する企業には特徴があります。3つの「幻想」に気付いた企業だということです。
幻想①「自社の理想通りの人材を採用できる」
「いつか自社でも優秀な正社員を雇用できる」と考える中小企業経営者の方はたくさんいます。年収は転職の市場価値ではなく、自社基準の350万~500万円程度で。
平均給与は大企業約35万円、中企業約30万円、小企業約28万円という現実があります(厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査)。加えて大手は、福利厚生などが充実し、研修制度も整い、かつ家族や恋人・結婚相手から見た安心感・信頼・ブランドもあり、冷静に考えると優秀な人材を獲得することにおいて圧倒的に不利ということがわかります。
大手企業や大型資金調達を済ませたスタートアップが、魅力的な事業内容とともに高年収を提示しています。職種でいえば、エンジニア、マーケッター、事業開発、経営戦略・企画などの市場価値は高騰しています。その中で、即戦力を中小企業の一般的な予算内で獲得するのは、極めて困難です。
もちろん、中途社員を採用できないとお話ししているわけではありません。予算に合った人材は採用できるでしょう。しかし、「これもできる」「あれもできる」「こんな性格の人」「こんな経歴の人」「こんな学歴の人」「年齢はこのくらい」と自社に都合の良い条件を挙げる企業がたくさんあります。
これは、現実を加味していない幻想です。採用できずに困っている間に競合他社は事業を成長させてしまいます。
ただし、即戦力ではないけれど、ポテンシャルのある若手社員はまだまだ採用可能です。キャリーミーのクライアントでは、「若手社員+プロ人材」という組み合わせで組織を構築し、プロ人材に若手社員の育成や内製化を依頼する企業も多くあります。
幻想②「採用した社員は自社に定着する」
自社が優秀だと感じた社員は、他社から見ても優秀です。いまの時代はダイレクトリクルーティングなどもあり、入社しても「合わない」と思ったら離職することが多いのが現実です。転職しなくても市場価値を知るために登録したら、いまの年収の1.5倍、2倍を提示された、ということもあります。
また、2度や3度の面接で、その人の能力や自社との相性を見極めることは極めて難しいでしょう。能力だけでなく、現在の組織にフィットするかという点も重要です。「即戦力社員を採用できた」と思ったら、担当してほしい業務については未経験だった、ということもよくある話です。
人材紹介会社に依頼し、めでたく採用。しかし社風に合わず、早期で離職。ただし一定期間は経っていたので人材会社に支払った手数料も返金されず、まったくのムダ金と徒労だった。そんなことも、経営者同士の会話ではよく出てきます。
幻想③「自社や業界について自分が最も詳しい」
多くの経営者が、「自社の状況は自分がいちばんよく理解できている」と思っています。しかし、実際には多くのことを経営者は知りません。外部からの視点でこそ気付けることもあります。
- 最先端の施策(マーケティング施策、営業施策、もしくはテクノロジーなど)
- 自社の客観的な見え方(お客様の視点、自社サイトやブログに対する外側からの視点等)
- 社員の本音(経営陣には言えない、会社に対して感じていること)
- 自社の本当の強み(自社が強みと思っていたことが、お客様には刺さっていない。もしくは他社もできていた。あるいは全然違うことが強みとなっていた)
- 採用市場での自社の魅力と課題(自社の魅力を正しく打ち出せていない。候補者から見て自社のブランディングや採用サイト、広報記事がどう映っているか)
帝国データバンクが行った調査では、「人手が不足している要因」として、最も高かったのが「条件に見合った人材から応募がない」(54.6%)、次いで「業界の人気がない」が45.4%、「企業の知名度が低い」が42.2%となっています(2023年5月12~16日、有効回答企業数は1,033社)。こうした調査からも、自社に改善が必要だと感じている企業は少ないことがわかります。
しかし時代は変化しています。少し前の「当たり前」が当たり前ではなくなり、それに気付かないということは往々にしてあります。まずは、「気付いていないことに気付くこと」が重要です。
経営者は、これまで自分が会社を牽引してきたという自負から、自分が何でも知っていると思いがちです。しかし、「他社のほうが上手くやっているな」「あの会社はあんなに成長していていいな」と思ったことはないでしょうか。自社が本当に「何でも知っている」のであれば、自社も思う通りに成長しているはずです。
経営者だけでなく、人間は「実際以上に知識があると思い込んでしまう」という傾向があることは、心理学者のフィリップ・ファーンバックとスティーブン・スローマンにより「知識の錯覚効果」として明らかにされています。