本記事は、大澤 亮氏の著書『「プロ」に外注』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))の中から一部を抜粋・編集しています。

Business process automation using flowchart swimlane diagram.
(画像=NicoElNino / stock.adobe.com)

業務の分解を行うことの3つのメリット

なるべく高い確率でプロ人材の活用を成功させるために、欠かせないのが「業務の分解」です。業務の分解とは文字通り、各社・各人の業務をタスクレベルまで分解し、把握することです。キャリーミーにご依頼いただいた企業が業務の分解ができていない場合、初回ヒアリング時などに、併せて実施しています。

業務の分解を2段階で考えます。

まずはビジネスモデル上の分解です。数学で習った「因数分解」をイメージしてもらうと、わかりやすいと思います。仮にEC事業の場合、「売上=アクセス数×転換率×単価+既存顧客×転換率×リピート時の単価」といったように分解できます。

次に、そこで分解された各因数を、さらに施策へと分解します。例えば、「アクセス数」という因数を上げるための施策として、モール出店、広告露出、アフィリエイトなどが考えられます。その中の「広告露出」を考えれば、デジタル広告とデジタル広告以外の広告に分けられ、デジタル広告であれば、さらに「SNS広告」「リスティング広告」「YouTube広告」などに細分化できます。

また、主にプロ人材を活用するパターンを考えるために業務分解についてご説明していますが、この工程自体にメリットがあります。

「プロ」に外注
(画像=「プロ」に外注)

①成功・失敗の要因を特定でき、PDCAを回せるようになる

PDCAを効果的に回せない企業は多くあります。その要因は、そもそもの計画や目標設定(P)が悪い、実行(D)をできる人材がいない、検証(C)できていない、改善策(A)のアイデア出しや優先順位付けができない、などがあります。

そうして「売上が上がらない」と悩んでいる企業は多いのですが、そもそも要素に分解できていないと、「なぜ、どこで成果が出たか、出ていないか」といった要因は見えてきません。

一例としてEC事業であれば、新規顧客からの売上が少ないのか、リピーターからの売上が少ないのか。新規売上はアクセス数×転換率×単価だとすれば、アクサス数が少ないのかそれ以外なのか。

因数に分解することによって、「どの因数に重きを置いて数字を伸ばせるか」ということも客観的に議論しやすくなります。

こうして「アクセス数」という因数を上げる施策として「モール出店」「広告露出」「アフィリエイト」の3つの重点施策に絞ったとします。その結果、どこからの流入が多くどこからが少ないのか、細分化すればするほど、要因を〝見える化〟できます。そうすれば、要因に対する施策を強化する、あるいは見直して検証することができます。

業務を分解することそのものが目的ではありません。分解することにより、自社に合う優先すべき施策の組み合わせを見つけ、成果の出る施策を運用しやすくなるのです。

また、営業時の「失注」など、失敗の分析をしっかりしている企業ほど成長しています。いわゆる「負けに理あり」です。「そんなの当たり前」と思っている企業も多いですが、多くは、失注理由を浅い分解で終わらせてしまいます。

  • 競合に負けた
  • クライアントの予算がなかった
  • 商談の相手が決裁者ではなかった

「競合に負けた」のであれば、「今後より良い提案にするために、他社の提案資料を見せてください」とお願いするのもいいでしょう。もしくは、「どのような提案だったら、弊社にご依頼いただけましたか?」「貴社の課題を解決できる自信があったのですが、他社との比較でそれをイメージいただけなかったのだと思います。どういった点が欠けていましたか?」と、改善点を探っていくことが今後につながっていきます。

「クライアントの予算がなかった」も同様です。仮に100万円の提案をしていて、クライアントの予算が50万円だったとします。クライアントは断る理由を「予算が50万円だったから」と答えるかもしれませんが、たとえ100万円かかっても、それ以上の利益が出るとイメージできる提案をしていれば受注できたはずです。これを「予算のせい」としている時点で、分析はできていません。

「商談の相手が決裁者ではなかった」のであれば、決裁者に上申してもらえなかったのか、上申してもらったけれど失注したのか。

前者であればなぜ上申してもらえなかったのか、どうすれば上申してもらえたのか。後者であれば、決裁者にどのような形で伝わり、どのような理由で失注したのか。

このように、どんなことでも細かく分析した上で改善していかなければ、個人の力も、組織の力も、もちろん業績も伸びていきません。

②大きい目標を達成しやすくなる

いきなり「売上を2倍にする!」と言っても困難に感じる方が多いでしょうが、分解すると簡単に感じられることがあります。Googleが導入し、日本でも話題になっているOKRの概念も、基本は分解の考え方です。大きい目標(Objectives)を小目標(Key Results)に分解することで、達成に近づけるという概念です。

ビジネスモデルを因数に分解すると、必ず掛け算が含まれます。営業であれば、「1人当たりの電話営業の回数×電話を掛ける人数×1人当たりのアポイント獲得率×商談からの受注率×単価」が売上となります。単純に考えれば、各因数を2割ずつ上げれば、合計は約2.5倍になります。

ただし、こうした目標設定はお勧めしていません。優先すべき因数と優先順位の低い因数のメリハリを付けるべきです。

③生産性を上げることができる

業務の分解は、施策を決定できるだけでなく、個々人の生産性を上げることにもなります。

例えば、ヒアリングが得意なAさんがいるとしたら、アポ取りはほかの社員に任せます。Aさんは得意なことに集中でき、スキルもどんどん向上していきます。苦手な分野よりスピーディーにこなすこともできるでしょう。同じように、メンバーそれぞれが得意業務に集中することで、受注率がアップする可能性があります。

正社員の場合、「好きなことだけ」はなかなか難しいとは思いますが、仕事時間の中で得意な仕事の割合が多いほうが本人にとっても幸せですし、ストレスも軽減されます。個々人のモチベーションが上がれば、会社への定着率も上昇する可能性があります。

しかし、残念ながら日本の多くの企業では、業務の分解が行われていません。その結果企業にはびこっているのは「丸投げ文化」です。優秀な社員がいたら、その人に仕事が集中する。さらにその人が得意でない分野や雑務まで押し付けられ、能力のある人ほど疲弊してしまう……。

もちろん、すべての企業がこの限りではなく、業務の分解を実践している会社もあります。多いのが「定型業務」と「非定型業務」、もしくは「コア業務」と「ノンコア業務」に分ける方法です。「非定型業務は社員に」「ノンコア業務は派遣社員に」といった具合です。

ただ、これらの方法は確かに分類しやすいのですが、個々人の適性にもとづいた分け方は難しくなります。やはり、成果が出る施策に紐付く分解が理想です。

「プロ」に外注
(画像=「プロ」に外注)
「プロ」に外注
大澤 亮(おおさわ・りょう)
1996年に新卒で三菱商事株式会社に入社、タンザニア駐在経験(ODA担当)を経て、帰国。退職後、1999年に慶應義塾大学大学院(経営管理研究科修士課程)に入学と同時に起業。在学中に、日本初の証券会社比較サイトを創業し米国企業に売却、またEC事業を設立しサイバーエージェント社に売却。 その後、株式会社ドリームインキュベータに入社し、大手企業とベンチャー企業両方の経営コンサルティング、ベンチャー企業投資も担当。退職後、株式会社土屋鞄製造所に取締役兼COOとして入社し、2年間で売上・経常利益ともに2倍以上にして退職。 2009年株式会社Piece to Peaceを創業し、2016年6月にプロ人材で企業の課題を解決する「キャリーミー」をローンチ。 著書に『世界をよくする仕事で稼ぐ』(ダイヤモンド社)がある。アカデミーヒルズ(六本木)等での講演多数。
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