凸版印刷株式会社で「ビットウェイ」の事業化などを経て、2011年にみんな電力を創業。世界初の電力トレーサビリティを活用した「顔の見える再エネ100%電力」により、1000社6000拠点以上を脱炭素化し、ジャパンSDGsアワード内閣総理大臣賞。「価格でだけでなく、価値で選択する人=UPDATER」を一人でも増やすべく社名変更し、人々の行動変容を促す社会課題解決型事業を展開中。TBSラジオ「スナックSDGs」パーソナリティなど。
社長のこれまでの変遷について教えてください。
私はもともと凸版印刷という会社で、Bitwayをはじめとして様々な事業を担当していました。ある日、いつものように通勤していたら、他の乗客のソーラー付きの携帯ホルダーを目にして、とても衝撃を受けました。ソーラー付きの携帯ホルダーを見て、「電気は自分で作れる時代だ」と感じ、電気をみんなで作って、好きな電気を選べるようになったら面白いなと思い、当社を起業しました。
起業してから、当社は「顔の見える電力」というコンセプトを掲げています。皆さんは普段、どこかの発電所で作られた電気を使っていますが、ほとんどの人は自分の電気代がどこの発電所に支払われているかを意識していません。例えば、石炭火力や石油から作られた電気は、大量のCO2を排出しています。一方で、福島の太陽光発電に電気代を払えば、CO2も出さないし、復興も応援できます。消費者が発電所を選べる環境が整えば、気候変動対策や地域貢献も可能になるというわけです。
そこで、私たちは電気代を好きな発電所に払える仕組み『みんな電力』というサービスを開始しました。このサービスを使うことで、自分がどの発電所の電気を何パーセント使っているかがわかるようになっています。このサービスは世界初のブロックチェーンを活用した電力トレーサビリティです。さらに私たちは、電力だけでなく、他の分野でも生産者を選べるようになると、世の中が良くなると考えています。そのため、電力以外にも、電力の「顔の見える化」を横展開することで、衣食住の様々なモノの「顔の見える化」を進めていこうと思っています。
一番感銘を受けた書籍とその理由は?
私が影響を受けた書籍はいくつかありますが、まず最初に思い浮かぶのは漫画の『シティーハンター』です。子どもの頃から読んでおり、主人公が新宿で人々の悩みを解決するストーリーが印象的でした。悩みを打ち明けられない人がどこかに書き込んだ落書きを主人公が見て解決するというのは、まさに社会課題解決と同じだと思っています。
さらに私は、主人公が人間的な部分を持ちつつも人々の悩みを解決する姿にも感銘を受けました。私たちも気候変動を人々に伝えるために、きれいごとだけではなく、世間の方に寄り添えるような仕組みを作っています。例えば、ロックフェスとのコラボや、美術館で手打ち野球を行ったりと、ユニークな取り組みをしています。これは、多くの人に興味を持ってもらい、サステナブルな取り組みを広めるために工夫しているポイントです。
また、影響を受けたもう一つの書籍は、ノーベル平和賞を受賞されたムハマド・ユヌスさんの『貧困のない世界を創る』という書籍です。この本では、ビジネスで社会課題を解決することができるということに気付かされました。
読書はどのように仕事に生かせたでしょうか。
仕事に生かされている本もいくつかありますが、印象に残っている2冊を紹介します。
まずは、堀 貞一郎さんの『人を集める―なぜ東京ディズニーランドが“はやる”のか』という本です。堀さんは東京ディズニーランドの最初のプロデューサーでありながら、深夜の人気番組なども手がけていました。この本は、バブル期にも関わらず、人々にハピネスを提供することの重要性を説いていて、時間がたった今でも新鮮さを感じます。 私はこの本を読んで、人気のあるお笑いタレントにも流行っているカフェにも流行っている企業にも、共通の法則性があると感じました。どうすれば番組が人気になるのか、どうすればディズニーランドに人が集まるのかといったことがわかりやすく書かれていて、多くの人を惹きつけるための法則性をこの本から学びました。
もう一つは肥田 日出生さんの『小売原論―購買不効用説 』という私の大学のゼミの先生が書いた本です。本の中にある「イメージセット理論」が印象的で、人の頭の中にインパクトを残すためにはどういうことが必要なのか心理学的な法則性が書かれていて、この法則性は今でも経営の中で活用しています。
経営において重要としている考え方を教えてください。
私が経営において意識しているのは、マーケターではなくイノベーターになるということです。昔、環境ビジネス分野で初めて上場されたアミタグループ代表の熊野会長に、「イノベーターとマーケターは違う。イノベーターというのは社会課題と対峙して事業を作っていくが、マーケターは流行っているものや儲かりそうなものを事業にする。日本にいる人はほとんどマーケターで、社会課題に向き合って事業を作っている人はすごく少ない。社会課題が複雑化していく中で、これからはマーケターよりイノベーターをいかに作っていくのかが重要になってくる」と言われ、それからは常にイノベーターになることを意識しています。
最後に、御社の未来構想や従業員への期待について教えてください。
私たちは『UPDATER』を世の中に一人でも増やしていきたいと思っています。2021年に私たちは「みんな電力株式会社」から「株式会社UPDATER」へと会社名を変更しました。会社名変更の由来は、電気だけでなく洋服なども顔が見えるものを選ぶことによって、誰でも世の中に貢献する『UPDATER』になれるということが由来です。『UPDATER』はモノを価格だけでなく価値で選ぶ人と私たちは定義していて、『UPDATER』を世の中に一人でも増やしていくことをミッションとしています。
さらに、僕らのサービスを使っている方に共通しているのは、電気を使っていて全く罪悪感がなく、むしろちょっと良いことをしている気分になるということです。そして良いことをすることで、人々の誇りも取り戻すことができます。私たちは『UPDATER』を一人でも増やすことによって、人々が誇りを取り戻していくことを目指しています。
また、当社ではバックオフィスや広報も含めて、従業員全員の業務が『UPDATER』を増やすことに繋がっています。そのため従業員には、さらに『UPDATER』を増やすために頑張ろうという気持ちで働いてほしいと思っています。
- 氏名
- 大石 英司(おおいし えいじ)
- 会社名
- 株式会社UPDATER
- 役職
- 代表取締役