三洋化成工業株式会社
(画像=三洋化成工業株式会社)
安藤 孝夫(あんどうたかお)
三洋化成工業株式会社 取締役会長
1998年三洋化成工業(株)取締役研究副本部長、 2007年サンノプコ(株)代表取締役社長などを経て、 2011年三洋化成工業(株)代表取締役社長に就任。 2021年同社取締役会長に就任し現在に至る。
持続可能な社会の実現を目指し、製品開発をはじめ、女性活躍推進やLGBTQに関するジェンダー平等に向けた取り組み強化など、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を積極的に推進。 並行して、柔軟な働き方や社内ルールの規制緩和などにも注力することで、従業員の誇りや働きがいの醸成に努める。 一社)京都経営者協会会長、公社)京都モデルフォレスト協会理事長などを歴任し、地域経済・社会の活性化にも積極的に活動。
三洋化成工業株式会社
1949年創立。多様な技術を持つパフォーマンス・ケミカルス(機能化学品)の専業メーカー。
界面活性剤メーカーとして創業して以来、社是「企業を通じてよりよい社会を建設しよう」のもと社会や産業のニーズにお応えし、各種の高分子薬剤、ウレタン樹脂、特殊化学品などを開発。
近年は、機能性タンパク質(シルクエラスチン)、化粧品、バイオメディカル、匂いセンサー、ペプチド農業などの新規事業に経営リソースを投入し事業領域を拡大。

目次

  1. ダイバーシティ経営に対する取り組み
  2. ダイバーシティ経営の取り組みで苦労した点と、乗り越えるための施策
  3. 取り組みを行う前後の変化や取り組み後の反響
  4. 従業員の価値(人的資本)向上に向けて取り組んでいることや、これから取り組もうと思っていること
  5. 理想とする組織像と従業員への期待について

ダイバーシティ経営に対する取り組み

三洋化成工業株式会社
(画像=三洋化成工業株式会社)

まず、当社の取り組みの背景についてお話しします。安倍政権が女性活躍推進を訴え始めた頃から、世間はジェンダーギャップ指数に関心を向けましたが、私はその少し前からダイバーシティ経営を重視していました。以前の日本は、大量生産を繰り返していた時代で、多様性ではなく画一性が求められていました。しかし、少子高齢化が進む中で、国内市場は収縮し、労働人口も減少しています。これを受けて、多様な人材を活用し、様々な価値観や感性を取り入れることが、生産性向上に不可欠となっています。

私は、単に人手不足だからそれを補うために女性に活躍してもらえばいい、という考えではありません。当社では、ジェンダーだけでなく、年齢や障がいの有無、国籍も含めた多様性が重要であり、何より、その人がどのようなパフォーマンスを発揮できるかを評価するべきだと考えています。

そのうえで、当社の実際の取り組みとしては、大きく2点です。 まず、働き方改革は、単に残業時間を減らす(「働かない」)のではなく、無駄な仕事を止め、非効率な仕事の進め方を改めた上でDXを導入して効率化を進めることが重要で、具体的には、現状の残業時間を徹底的に可視化し、周知することで無駄な仕事の削減に取り組みました。また、権限移譲を進め、経営会議を月2回の終日開催から月1回、2時間の短縮開催や、無駄な書類制作をやめ、社内の情報共有はイントラネットを活用することなどにも取り組みました。 次に、組織風土を変えるために、風通しの良い組織を目指しました。名前を呼ぶときは、役職ではなく「さん付け」にして、上下関係を意識せず意見が伝えやすい風土づくりをしました。また、自分らしく働ける職場環境づくりの観点から一年中、勤務時の服装自由化を実施し、ドレスコードを撤廃しました。

ダイバーシティ経営の取り組みで苦労した点と、乗り越えるための施策

働き方改革の取り組みを実際に社内で実施、浸透させることに苦労しました。 働き方の多様性という新しい要素を取り入れるには、費用対効果が見えにくいこともあり抵抗が生まれます。慣例主義を変えていくことは非常に重要で難しい問題です。例えば、私がトップとして女性の登用を推進することを声を大にして訴え、各部門が理解しているようでいても、実際には女性の登用がなかなか進みませんでした。

そこで私は、ダイバーシティを妨げている会社のルールをトップダウンで変えることにしました。具体例としては、昇格に必要な経験年数を撤廃しました。新入社員でも、その人の能力自体が大切であり、その人の属性に関係なく昇格できるようにするためです。また、オールド・ボーイズ・ネットワークという言葉があるように、無駄な残業後に飲みに行き親睦を深める男性の古い関係構築方法をなくし、女性も平等に機会を得られるように、全社の残業時間を0にする方針を打ち出しました。

実施に様々な反対の声もあった中で、このように私がルールを「変える」という方針を打ち出し、「変えてダメなら元に戻して、修正する」と繰り返し言い続けることで、ダイバーシティ経営を進めてきました。

取り組みを行う前後の変化や取り組み後の反響

取り組みや制度を活用することで従業員の仕事の効率化が進み、多くの良い反響が主に女性従業員からありました。

当社は2015年1月から、いち早くコアタイムなしのスーパーフレックス制度を開始しておりますが、それに加えて一時間単位の有給休暇も設けました。これは、主に子どもの保育園の送り迎えや、体調不良などイレギュラーな対応が必要な母親の従業員のために打ち出したものですが、時間を有意義に使えることで他の従業員の効率化に繋がっています。

また、2019年4月に導入した在宅勤務制度も正社員だけでなく、派遣社員にも適用し、育児中の女性社員などから、「本当に助かりました」と感謝の声が届いています。さらに、男性の家庭参画を進めるためにイクボス宣言も行っています。会社としてワ―ク・ライフ・バランスを考えていくことで、男性の育休取得率を98%まで高めることに成功しました。

従業員の価値(人的資本)向上に向けて取り組んでいることや、これから取り組もうと思っていること

三洋化成工業株式会社
(画像=三洋化成工業株式会社)

従業員の多様化する価値観を受け入れ、活かして活躍できる環境づくりをしたいと思っています。例として、当社では化粧品の原料を扱っている部門がありますが、その現場には男性が多く、なかなかうまくいかないことがありました。そこで、社長直轄で、女性中心の多様性に富んだ組織をつくることにしました。

この組織は、化粧品部門の女性リーダーを中心に、技術だけでなく文系の女性も含めた多様なメンバーで構成されました。社長直下の組織にして、社の慣例やルールは無視してもよいとし、短期的な数字にこだわらず、長期的な視点で当社を変えることを目標として、多様性を活かし様々なチャレンジを行ってもらっています。

また、当社では多様な視点を取り入れるために、障がい者やLGBTQなどのマイノリティの方々にも安心して働いていただける環境整備に取り組んでいます。具体的には、すべての人が心理的安全性を確保するために、だれでもトイレの設置や啓発活動を積極的に行っています。一方、障がい者雇用については、ただ法定雇用率の達成を目的にするのではなく、障がい者の方々に働きがいを感じてもらえるような環境を整えることを目指しています。

理想とする組織像と従業員への期待について

会社にも従業員にとっても重要なのは、風通しの良い組織を作り、心理的安全性を確保することです。心理的安全性が確保された環境では、特に若手社員が何でも言い合え、あらゆることにチャレンジできるようになります。中間管理職も含め、全員が長期的な視点で取り組むべきです。

私が常に従業員に言い続けているのは、評価の「マトリックス」についてです。これにはチャレンジした人とできなかった人、成果が出た人と出なかった人の4つの組み合わせがあります。もちろん、チャレンジして成果が出た人を評価するのは当然ですし、チャレンジせず成果が出なかった人を評価しないのも一般的には適切です。問題は、チャレンジせずに成功した人と、チャレンジしたが失敗してしまった人の2パターンですが、私はチャレンジせずに成功した人よりもチャレンジしたが失敗してしまった人を評価すべきだと考えています。

私自身、若い頃は失敗ばかりでしたが、それでも会社は潰れず、何とか社長にまでなりました。だからこそ、若い人たちにはもっとチャレンジしてほしいと伝えています。失敗したからといって、罰せられることはないので、思い切って挑戦してほしいのです。

しかし、トップが言っても、中間管理職のフィルターを通ると、その意志は薄れてしまいます。だからこそ、中間管理職を含めた全員が高い志を持ち、チャレンジできるような組織を作ることが大切です。

ダイバーシティ経営に関しては実際、多くの企業が同様のことを言っていますが、私たちは本気で取り組んでいます。在宅勤務、スーパーフレックス制度、時間単位有給休暇制度など、柔軟な働き方が選択できる制度は従業員を信頼して1人ひとりの能力を最大限に発揮してもらいたいとの想いから導入したもので、服装の自由化やドレスコードの撤廃など風土を変える取組に関しても、全て真剣に実行しています。その本気度を行動に移すことが、真に重要だと考え、今後も続けていきます。

氏名
安藤 孝夫(あんどうたかお)
会社名
三洋化成工業株式会社
役職
取締役会長