この記事は2024年2月22日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー」を一部編集し、転載したものです。


創業100周年に向け310億円の積極投資
高機能材と生産体制の効率化に注力

日本冶金工業は、戦前の1935年からステンレス鋼の製造を続ける草分け的企業。原料の製錬から製造、加工まで一貫で行う日本唯一のメーカーだ。ステンレス一般材事業と高機能材事業を両輪で展開している。2023年5月に「中期経営計画2023」を策定し、25年度までに高機能材売上高比率50%、総還元性向35%を目指す。

▼久保田 尚志社長

日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー
(画像=株主手帳)

鉱石製錬から鋼材化まで自社内製
耐食性・耐熱性に優れた高機能材

ステンレス鋼とは、鉄にクロムを10・5%以上含む合金で、さびにくいという特性を持つ。さらにニッケルを加えると、さびにくい特性がより高くなる。建築、土木、家電機器、産業機器など幅広い分野で使用される。

同社はステンレス鋼の中でもニッケル系に強みを持ち、ステンレス一般材事業と高機能材事業を両輪で展開。ニッケル系ステンレスでは現在約25%の国内シェアがある。

京都・大江山製造所において、原料の一部となるフェロニッケルをニッケル鉱石や廃電池・廃触媒などのリサイクル原料から抽出・製錬。神奈川・川崎製造所においては、溶解精錬、連続鋳造、圧延などを行い、製品に仕上げる。同社のような原料のニッケル製錬からの一貫生産体制を敷く企業は世界でも珍しい。23年3月期の売上高は1993億2400万円(前期比33・8%増)、営業利益292億5600万円(同109・5%増)となった。

ステンレス一般材事業では、ステンレス一般材を製造している。

高機能材事業では、ステンレス鋼よりもニッケルを多く含み、高耐食性、耐熱性、高強度など高い機能性を持つ高ニッケル合金を製造する。海水面での環境下でも100年以上の耐久性を持つ橋脚向けの材料や、耐食性と耐熱性が求められる太陽光発電材料製造プラント向けの材料など、厳しい環境や条件下で使用されるものだ。また次世代エネルギーとして期待を集める水素の製造や運搬、保管にも使用される。

「大江山製造所において長年のニッケル製錬の知見がありますから、ニッケルの扱いに非常に長けています。そして川崎製造所の製造設備は多品種少量生産に適しており、高機能材の製造に必要な高度な技術力も持ち合わせています。高機能材のうち最もニッケル比率が高い純ニッケル材(99%)は、苛性ソーダ製造装置向けや水素製造の水電解の電極材として使用されています。この分野は非常にライバルが少ないのです」(久保田尚志社長)

▼大江山製造所

日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー
(画像=株主手帳)

▼川崎製造所

日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー
(画像=株主手帳)

一般材で他メーカーと熾烈な争い
利益高い高機能材で海外展開

同社は1925年に設立した中央理化工業が起源。設立目的は消火器の製造販売だった。34年には川崎製造所の前身となる川崎作業所、また大江山製造所の前身となる大江山ニッケル鉱業を設立した。

35年に、食器などに広く使用されるステンレス鋼を初出鋼。やがて戦後の高度成長と共にステンレス鋼の需要が一気に広がる。同社は50年に日本で初めて酸素製鋼法によるステンレス鋼の精錬に成功。ステンレス鋼の大量生産に道を拓いた。90年代からは、多品種・小ロットに適したステンレス製造設備を活用し、独自の製造技術力を生かし、ニッケルをより多く含んだニッケル合金(高機能材)の量産化にも注力してきた。

「しかし当時は伸びが大きい分、非常に競争も激しかった。当社に加え鉄鋼大手も参入してきてメーカーが乱立。経営的に厳しい状況が何度もありました」(同氏)

ブラウン管テレビの部品に使用される高機能材では、一時は世界シェア50%を獲得したこともあった。しかしブラウン管の需要はピークから4年で消えた。ひとつの製品に頼る危険を実感した同社は、多品種少量生産ができる設備投資の更なる強化と高機能材の拡販を開始した。

「ステンレス一般材では中国の価格競争力が非常に高い。海外マーケットで勝負するなら、高ニッケル合金を中心とした高機能材しかないのです」(同氏)

利益率の高い高機能材が海外市場に受け入れられ、収益構造が大きく改善。さらに2021年には厚板工場プレス設備更新に5・3億円、22年には電気炉更新に約130億円の設備投資を実施した。ステンレス業界の再編により、ニッケル系ステンレスメーカーは国内に2社のみとなったこと、そしてアベノミクスの好景気が追い風となった。

ある程度大きな投資が一段落した23年5月、同社は2025年までの中期経営計画を発表した。

ニッケル高騰に都市鉱山で対抗
自社株買い含め配当性向35%へ

「中期経営計画2023」では、まず市場ニーズに対応する製品の開発と供給に注力。大サイズ鋼板向けの設備を持つ中国・南京鋼鉄との合弁会社を活用し、さらなる協力体制を築く。また、火力発電所向けの排煙脱硫装置に高機能材が多く使われる可能性が高く、市場拡大が期待されるインドへの進出も推進していく。

25年までに、年間100億円規模で合計310億円の設備投資を行う予定。川崎製造所では、下工程で使用する冷間圧延ミルを更新する。また圧延した鋼材を切り分けるスリッターも更新し、多様な形状に自社で加工できる条件を整えるなど、高機能材生産量拡大に向けた効率化・コスト競争力強化と、カーボンニュートラル関連の取り組み強化を図る。

ニッケル鉱石の調達リスクが高まっていることから、ニッケルを含む廃電池や廃触媒などの「都市鉱山」由来のリサイクル原料の活用も進む。リサイクル原料の使用比率は足元で6割を超えた。大江山製造所ではニッケル製錬の還元剤として石炭を使用しているが、これを廃プラにシフトし、CO2排出量を削減する取り組みも進める。加えて、川崎製造所内に水素環境の材料評価試験場を開設予定。これまでは外部の試験場に委託していたデータ取得を社内で行うことに決めた。

「水素は新エネルギーとして注目されているものの、金属をもろくする性質があります。当社はそうした水素脆性に対応したステンレス鋼の供給実績を持っています。水素に関わる分野はいろいろな試験データを求められるので、外部委託ではなく自社対応するために水素環境の試験場を建設予定です。水素関連に関しても、地道にしっかりと、素材としての要請に応えていくのが当社の役割だと考えています」(同氏)

中期経営計画最終年度の2025年は、同社の創立100周年にあたる。同年までに高機能材の売上高比率50%、そして総還元性向は35%を目指す。

「16年3月期に復配し、23年3月期は200円を配当しました。やっとここまで来られた。この額をひとつの目安として、安定的に出していければ。そして上場会社の水準をみると、やはり35%がマストになってきているように思います。今後も自社株買いなどを組み合わせながら35%を続けていきたいです」(同氏)

■達成目標

日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー
(画像=株主手帳)

ステンレス一般材(OEM材を含む)

▼厨房

日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー
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▼腕時計

日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー
(画像=株主手帳)

高機能材部門

▼羽田空港D滑走路

日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー
(画像=株主手帳)

▼羽田空港D滑走路桟橋橋脚

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▼醤油諸味タンク

日本冶金工業【5480・プライム】ニッケル系ステンレスメーカー
(画像=株主手帳)

2023年3月期 連結業績

売上高1,993億2,400万円33.8%増
営業利益292億5,600万円109.5%増
経常利益277億3,800万円116.6%増
当期純利益197億300万円132.6%増

2024年3月期 連結業績予想

売上高1,800億円9.7%減
営業利益210億円28.2%減
経常利益190億円31.5%減
当期純利益130億円34.0%減

※株主手帳24年3月号発売日時点

久保田 尚志社長
Profile◉久保田 尚志社長(くぼた・ひさし)
1955年3月生まれ、大阪府出身。78年、早稲田大学政治経済学部卒業後日本冶金工業に入社。2004年経理部長。08年取締役。10年常務取締役。16年代表取締役専務執行役員、営業本部長。18年執行役員副社長。19年代表取締役社長(現任)。常に自分を客観視する努力を続けることを心掛ける