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(画像=東京電力ホールディングス株式会社)
蓑島 裕介(みのしま ゆうすけ)
東京電力ホールディングス株式会社組織・労務人事室 課長(人財戦略担当)
2008年、東京電力株式会社入社。下田営業センターに配属され、検針、債権確保業務に従事。2011年に本店労務人事部に配属され、その後電力契約部、東京電力エナジーパートナー株式会社経営企画室を経て、2017年に組織・労務人事室にて給与、人事制度企画等に従事し、2023年7月より現職。
東京電力ホールディングス株式会社
東京電力グループは、首都圏を含む関東地域を中心にエネルギー供給インフラを担う、日本最大の電気事業者。1951年に東京電力設立。2016年4月にホールディングカンパニー制を導入し、一般送配電事業会社の「東京電力パワーグリッド」、小売電気事業会社の「東京電力エナジーパートナー」、再生可能エネルギー発電事業会社の「東京電力リニューアブルパワー」、燃料・火力発電事業会社の「東京電力フュエル&パワー」の4つが基幹事業会社となり、これらの持株会社である「東京電力ホールディングス」がグループ全体の人的資本経営の推進を担っている。

人的資本経営(ダイバーシティ、従業員エンゲージメントの向上、働き方改革 など)に対するこれまでの取り組み

弊社は、エネルギー供給を通じてお客さまの生活や経済活動を支えることを使命とし、同時にカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みを進めています。これまでの電気(kWh)の販売を主軸としたビジネスモデルを、今後は設備サービスへと転換していく戦略を掲げ、これに向けた挑戦を進めています。電気事業の上流から下流までの全てを担う弊社だからこそ、カーボンニュートラル社会の実現という社会課題の解決に大きく貢献できると考えています。

人的資本経営についてお話しする上で、弊社は、東日本大震災以降、資産売却など厳しい経営合理化を行い、人についても、採用の抑制や希望退職、年収削減など、社員にとって厳しい対応をせざるを得なかった経緯があります。会社の事業や成長を支える、最も大切な基盤は人だという考えは、以前からもありましたが、そうした過去を乗り越え、昨今、電気事業を取り巻く環境が大きく変化する中、事業基盤の強化やカーボンニュートラル社会の実現に向けた新たな挑戦を支えるのは人であり、社員一人ひとりが会社にとってかけがえのない財産、主役であるという考えを強めています。

2021年に経営理念を見直したのにあわせて、ありたい人財像や組織像を示したHR-Visionを掲げ、それを実現していく上での「人財マネジメント方針」を策定し、社内にリリースしました。この方針は、社員一人ひとりが挑戦・成長したい、働きたいと思える環境を創造していくことを約束したもので、「リソースマネジメント」、「「両利きの経営」を加速する人事戦略」、「ダイバーシティ&インクルージョン」、「仕事と働き方の変革」、人権尊重や健康経営、エンゲージメントの向上などの「基盤強化」の5つを重点的なテーマと定め、取り組みを進めています。

以下では、具体的な取り組み事例について、紹介をさせていただきます。

(ダイバーシティ&インクルージョン) 女性活躍推進に向けて、女性管理職比率を2025年度末までに10%という目標を掲げ、女性の採用や育成強化などをとおした、次世代女性リーダーの拡大を進めています。至近では、経営層と社内の女性管理職との対話会を開催するなど、ネットワークの構築や女性の活躍推進に向けた行動実践に繋がる対話に取り組んでいます。

(仕事と働き方の変革) コロナ禍の経験を踏まえ、仕事と働き方の変革として、「TEPCO Work Innovation」を推進してきました。「いつでも どこでも 誰とでも」、時間・場所・組織にとらわれない仕事と働き方の実現に向けて、働き方の選択肢の多様化などの働き方改革と、カイゼン・DXを用いた業務改革に一体的に取り組んでいます。組織全体がパフォーマンスを最大限発揮できる働き方は、組織や職場によって異なるものと考えていますので、全社一律のルールや目標などはあえて設けず、それぞれの組織や職場で模索していくことが大事ということを伝えています。

(従業員エンゲージメントの向上) 人と組織の活力、生産性を高める上では、社員のエンゲージメントを向上させることが重要と考え、社員一人ひとりの「働きがい」、「成長実感」、「ワークライフバランス」をエンゲージメント指標として設定し、全社員対象の社員意識調査で測定しています。社員意識調査は、約20年前から毎年実施しており、調査結果をモニタリングし、全社的な施策の検討に繋げるとともに、各職場へフィードバックをすることで、社員一人ひとりの「社員幸福度」や「働きがい」の向上に向けた取り組みを促し、好事例の水平展開を進めています。

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人的資本経営の取り組みで苦労した点と、乗り越えるための施策

「人財マネジメント方針」をリリースした後は、それをいかに社内や社員一人ひとりに定着・浸透させていくかに注力してきました。

例えば、経営層自らが、「人財マネジメント方針」の取り組みについてライブで語ったり、昨年は、社内の女性管理職との対話会を開催して、ダイバーシティの推進をテーマに意見交換をしたりするなどの機会を設けました。それぞれの職場においては、方針で示したHR-Visionや仕事と働き方の変革に向けて自分達の働き方はどうあるべきかなどについて、社員同士で対話する取り組みを進めてきました。

それと同時に、これらの人的資本経営の取り組みを可視化して、社内外に開示していくことも大切だと考えています。人材版伊藤レポートや人的資本可視化指針、他の先進企業の例を参考にしながら試行錯誤をしているところです。昨年、「統合報告書2023」をリリースした際は、社内の関係者とも議論を重ね、弊社の人財戦略のストーリーやKPIなどを示すにあたり、社外向けの情報発信も意識しながら、それらを再整理して発信しています。

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取り組みを行う前後の変化や取り組み後の反響

先程も紹介したように、企業は人で成り立っており、人の成長を強く推し進めることが会社の成長にもつながると考えています。特に経営理念の実現やグループの経営計画を達成するためには、中長期的な視点に立って、人を育成し、人が持つ能力や組織の総合力を最大限に引き出す必要があると考えています。そうした意味で、経営戦略と人財戦略との連動に意識を向けるようになったのも変化のひとつです。電気事業を安定的に支えるとともに、カーボンニュートラル社会の実現に向けた新たな挑戦に必要な人財を中長期的に計画し、採用・育成・配置する「リソースマネジメント」の強化を進めています。

また、人的資本経営の取り組みは、直ちに結果が表れるものではなく、KPIのモニタリングをしながら、取り組みを深化させていくべきものと考えています。例えば、KPIとして設定している「社員幸福度」や「働きがい」、「成長実感」、「ワークライフバランス」などのエンゲージメント指標の数値は、至近で上昇傾向にあり、こうした動きに一喜一憂するわけではないですが、これらの指標をモニタリング、分析し、さらに数値を伸ばしていけるような取り組みを今後も進めていきたいと考えています。

今後の展望と従業員に対して期待すること

弊社の「人財マネジメント方針」では、主役である社員一人ひとりが、自らの可能性を信じ、「自律心」、「情熱」、「多様性」というマインドを抱きながら、変革への挑戦を続け、世界に通用するプロフェッショナル人財に成長してほしいという期待を込めています。

私たちとしては、そうした人財が集い、働きたいと思える環境を創造していくことで、社員一人ひとりの挑戦や成長を後押ししていきたいと考えています。学べる環境はもちろん、現場でのスキルアップやリスキリングにも注力しています。ただし、受け身ではなく自律的に行動してほしいというのが私たちの願いです。社員が自身の成長やキャリアを考えながら新たなことにどんどん挑戦できるよう、取り組みを進めていきます。

ステークホルダーの皆様へのメッセージ など

近年の人的資本経営への関心や注目の高まりは、企業の中長期的な成長にも目を向けていただいているということだと感じています。私たちは、そうした関心にこたえるべく、例えば、有価証券報告書や統合報告書などにおいて、積極的に開示を進めていきたいと考えており、そうした取り組みが、一方で、社内の人財マネジメント方針の定着や浸透、人財戦略の深化にもつながると考えています。そのため、今後も、社内外の皆さまからのフィードバックをいただきながら、人財戦略の深化、可視化や開示に向けた取り組みを充実させていきたいと考えています。

氏名
蓑島 裕介(みのしま ゆうすけ)
会社名
東京電力ホールディングス株式会社
役職
組織・労務人事室 課長(人財戦略担当)