特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
創業時からの事業変遷
ーー2011年の方にマテリアルグループにジョインされて、2019年から代表に就任されていますね。これまでの経歴と事業変遷についてご教示いただければと思います。
マテリアルグループ株式会社 代表取締役社長・青﨑 曹氏(以下、社名・氏名略):マテリアルグループは2014年に設立された会社です。前身のマテリアルは2005年に創業されました。事業内容は、テレビPRと言われるサービスから開始しました。テレビPRとは番組本編にクライアントの商品を露出させていくサービスです。そこから派生してキャスティングなどのPR領域に進出しています。
私が入社したのは2011年で、3人目の社員でした。当時は、メディアプロモートの引き受けをするなど、PR会社からPR活動の一部を切り取って孫受けをするようなポジションの会社でした。そこから少しずつ大手の総合広告代理店さんやクライアントさんと直接お取引をすることが増え、現在は多種多様なクライアントに対応し、幅広いPR活動をおこなう総合PR会社という立ち位置をとっています。
大きなターニングポイントとしては、2019年に前代表がアドバンテッジパートナーズに株式譲渡したことです。その時はメーカー業を並行していたのですが、メーカー業とマーケティングコミュニケーション事業を切り離すことになりました。そのタイミングで、私がマテリアルグループの代表になったのです。
2021年からはM&Aを積極的に活用してきました。WEB接客ツールのFlipdeskとメディアコミュニケーションサービスのルームズが当社にジョインしました。そこから2023年4Qまでに6件のM&Aを実施しました。このようにオーガニックの成長と対応領域の拡大を実現したことで成長してきたのです。
ーーその中でも特に御社の強みとなっているのはどのような部分ですか?
青﨑:プランニング力、採用力、経営管理の3つが強みだと自負しています。
1つ目のプランニング力については、専門性を高めて差別化を図ってきました。PR会社の最終的な納品物は比較的変わらないことが多いのですが、当社は専門のセクションを9年前から組成して力を入れてきました。結果として、グローバルな広告賞を受賞することができたほか、専門性を高めたことによって、広告を作ることだけでなく、デジタル広告の運用サポートもできるようになりました。つまりプランニング力という強みを磨くことで、対応可能な領域も広がっていったんです。
2つ目が採用力です。先日「ONE CAREER 就活クチコミアワード2024」のベンチャー部門において、第7位を受賞しました。実際に、年間で約6300人のエントリーをいただいています。働きたいと思ってもらえるようなカルチャーの形成や、若手が活躍する環境を築いてきたので、その部分がご評価をいただいたのだと考えています。
3つ目が、経営管理の高度化です。従来の広告会社では夜遅くまでアイデアを出し続けるカルチャーがありました。しかし当社はCFO率いる経営企画室チームが、長時間労働は業界特有の慣習でもあると捉え、徹底的に排除することを意識して取り組んでいます。
具体的な取り組みとしては、時間単価や不採算の案件がいないか、工数をかけすぎていないか、リソースが足りていないかという部分を確認しています。これを徹底してやり抜いたことが、ブレイクスルーに繋がりました。
ーー人が集まるという強みはとても素晴らしいですね。なぜマテリアルグループで働きたいと考える方が集まるのでしょうか?
青﨑:理由は2つあります。 1つ目はブランド力です。広告業界は定性的な部分での評価が重要になってきます。当社はPR業界で実力を示すことができているので、ブランド力があるのです。
2つ目がカルチャーです。ベンチャーとして培ってきた良い部分は色濃く残しており、年齢に関係なく評価する仕組みを整えています。実力があれば、ポジションを上げていきますし、今後もこの環境を継承していきたいと考えています。
上場を目指された背景や思い
ーー上場を目指されたのはどのような背景があったのでしょうか?
青﨑:上場することで信頼度や知名度を向上させることができると考えたからです。当社は人が基軸になっているビジネスであるため、優秀な人材を継続的に確保するために上場を目指しました。加えて、大手企業様がクライアントの大半となっているため、安心感を与えるためにも、上場が重要だと考えました。
ーーこれまでM&Aもされてきたようですが、上場後も実施するのでしょうか?
青﨑:そうですね。PRやデジタルのマーケットは非常に分散化した市場になっていて、統合の機会は多数存在していると考えています。その際に、上場しているかという部分は重要な判断要素になります。このような観点からしても、上場を目指さないという考えはありませんでした。
今後の事業戦略や展望
ーー今後の事業戦略について教えてください。
青﨑:オーガニック成長を実現していきたいと考えています。現在、昨年対比で約150%のお引き合いをいただいています。ボトルネックになっている供給体制を、採用力を強化していくことで市場のニーズに応えていきます。
また、デジタルマーケティングにおいても急速に成長しています。既存のPRコンサルティングのお客様にアップセル、クロスセルをしていくことで成長速度を高めていきたいと考えています。
ーー約150%の引き合いがあるというのは、顧客満足が担保されているからなのでしょうか?
青﨑:そうですね。PRコンサルティング事業のお客様からは多くの場合、継続的にご相談いただいています。その要因としては、これまでに作ってきたブランド力と国内の有力なマーケットにおいてご紹介いただく機会を持っているからだと考えています。
ーーデジタルマーケティングのアップセル・クロスセルについてはどのようなモデルで進めていこうと考えていますか?
青﨑:まず、アップセル・クロスセルの現状からお話しします。デジタルマーケティングでクロスセルを実行し始めたのは2023年の4Qからで、実際に実現したのは6〜7社です。ただ、PRコンサルティングにおいては多数の大手企業のお客様とお付き合いをさせていただいています。
この部分にきちんとトスアップしていくことが本丸の作戦です。グループ、各子会社間でクロスセルを活性化する仕組みを設けており、現在は1日1件のトスアップが発生している状況です。今後もデジタル領域でトスアップに注力することでグループの持っているアセットを事業成長に変えることができると考えています。
ーーデジタルマーケティングにおいてはどのようなニーズがあるのでしょうか?
青﨑:デジタルマーケティングのプレイヤーはこれまで広告運用の領域で成長してきたことが多かったです。しかし、最近では人による運用の差別化が難しくなってきています。デジタルマーケティングは顕在化したニーズを刈り取っていくことが本来得意としているマーケティングです。この部分の差別化がなくなった時に、当社のPRを活用し、潜在顧客を増やすことができると考えています。
今後のファイナンス計画や重要テーマ
ーー今後のファイナンス計画について教えてください。
青﨑:IPOのスタートはROI(投資利益率)やEPS(1株当たり純利益)、M&Aが重要な観点だと考えています。
その中でもM&Aにおいて、2021年に実施したため、ネットキャッシュが多い状態になっています。さらに、借り入れの余力も十分にあります。今のROE(自己資本利益率)を見ると多少デットで引いた方がバランスは良いですが、今後はデッドとのバランスを持った状態を保っていきたいと考えています。
また、当社は強固な顧客基盤があり、供給体制を改善できれば大きく飛躍する可能性が高いです。供給体制を改善していくために大型のM&Aをすることになった場合、デットとエクイティをハイブリッドにすることも検討しています。
ただ、ビジネスモデル上は設備投資を必要としているモデルにはなっていないため、非常に力強いキャッシュを生み出していくことも可能です。その点に関しては今申し上げたような方針を持って進めていこうと思います。
ーーM&Aに関して、対応領域を広げるためのM&Aだったと思うのですが、今後は同業種での拡大を目指し、供給体制を強化していくというイメージでしょうか。
青﨑:そうですね。対応領域の拡大と供給体制の強化という観点でM&Aを進めていきます。当社の顧客基盤とケーパビリティを活かすことで、事業成長に直結していくと考えています。
ZUU onlineのユーザーに⼀⾔
ーーZUU onlineの会員の皆様に一言お願いします。
青﨑:当社は2024年3月に上場しました。この時期に上場を目指したのは配当と成長投資を継続できるフェーズになったと考えたからです。そのため、上場初年度から配当をしていきます。個人投資家の皆さんへの還元と会社の成長を実現できればと考えているので、ご支援いただけますと幸いです。
- 氏名
- 青﨑 曹(あおさき そう)
- 社名
- マテリアルグループ株式会社
- 役職
- 代表取締役CEO