TOKYO PRO Marketはプロ投資家向けの株式市場

TOKYO PRO Marketは特定投資家(いわゆるプロ投資家)が売買できる証券取引所です。ある程度投資に精通した投資家のみが参加し取引するため、上場のハードルは低くなっています。

ここでいうプロとは、次のいずれかの条件を満たす投資家を指します。

  1. 国、日本銀行、適格機関投資家(金融機関など)など
  2. 上場会社、資本金5億円以上の株式会社など
  3. 日本国内に住所または居住を持たない個人・法人
  4. 「みなし」特定投資家

4の「みなし」特定投資家は、次のいずれかの条件を満たせばなれます。

  • 上記「2」以外の株式会社
  • 3億円以上の純資産もしくは金融資産を持ち、1年以上の取引経験がある個人

個人でも「みなし特定投資家」になれば、TOKYO PRO Marketでの売買が可能です。ただし、達成条件は時に資産規模の部分で厳しく、実際には個人によるTOKYO PRO Marketでの取引は多くありません。

TOKYO PRO Marketの成り立ち

TOKYO PRO Marketは、もともと2008年の金融商品取引法の改正により導入された「プロ向け市場制度」によって2009年に設立したTOKYO AIMが母体となっています。TOKYO AIMは東京証券取引所や現在の母体である日本取引所とは別会社である「株式会社TOKYO AIM 取引所」が運営していました。

TOKYO AIM市場は次のような目的のもと設立された市場です。

  • 日本やアジアで成長が期待できる企業の資金調達機会の創出
  • 国内外のプロ投資家の投資機会の拡大
  • 日本の金融市場の国際化や活性化

以上のようなコンセプトを引き継ぐ形で、2012年からは東京証券取引所がTOKYO AIMを引き継ぎ、TOKYO PRO Marketとして市場運営を続けています。

TOKYO PRO Marketとほかの東証の市場の違い

TOKYO PRO Marketは、取引参加者がプロ投資家のみであるため、上場の要件が緩和されているのが特徴です。そのため、ほかの市場と比べて新興企業が上場しやすい仕組みとなっています。上場の制限が少なく、また短期間で上場を進められるのが特徴です。

上場時の形式基準の違い

TOKYO PRO Marketとほかの東京証券取引所の市場の上場基準は次のとおりで、ほかの市場に設定された上場における制約がないのが特徴です。

TOKYO PROMarket プライム スタンダード グロース
株式数 制限なし 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 制限なし 20,000単位 2,000単位 1,000単位
流通株式比率 制限なし 35%以上 25%以上 25%以上
時価総額 制限なし 250億円以上
純資産額 制限なし 50億円以上
経常利益または売上高 制限なし 2年間の経常利益が25億円以上
または
売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
直近1年の売上高が1億円以上

出所:上場審査基準 | 日本取引所グループ
出所:上場制度 | 日本取引所グループ

プライム・スタンダード・グロースは、いずれも売上高や株式数など複数の上場基準を定めています。プライム>スタンダード>グロースの順に要件は厳しくなっています。これらの要件は、次のような企業に上場企業を絞る目的で設定されています。

  • 一定の株式の流動性が期待できる
  • 一定程度の企業規模を有する
  • 売上または利益において一定程度の実績を有する

いずれも、個人を含むさまざまな投資家が安心して売買できるよう、一定の信用力を持つ企業のみが上場できるようにするために定められた条件です。

対してTOKYO PRO Marketでは、上記のいずれの制限もありません。一定の投資に関するノウハウを有する投資家のみが参加することが前提のため、上場企業の質を過度に制限する必要がないためです。

新興企業でも上場しやすい反面、投資家はほかの市場よりも厳格に企業のリスクを分析・判断して投資を実行する必要があります。

上場のプロセスの違い

上場時のプロセスに関して簡単に比較すると次のとおりです。

TOKYO PRO Market ほかの東証市場
開示言語 日本語・英語 日本語
審査主体 J-Adviser 主幹事証券会社と東証
上場申請から承認までの期間 10営業日程度 2〜3カ月程度
上場前の監査期間 1年 2年
四半期開示 任意 必須

出所:上場審査基準 | 日本取引所グループ
出所:上場制度 | 日本取引所グループ

TOKYO PRO Marketは、プライム・スタンダード・グロースと比べて手続きが簡略化されていたり、上場にかかる期間が短かったりといった特徴があります。

審査においては「J-Adviser制度」という独自のシステムを採っています。これは、上場に関して知見があると東証が認めた企業が、TOKYO PRO Marketへの上場を希望する企業に上場に向けたコンサルティングや審査を行い、J-Adviserの承認を持って上場が可能となる仕組みです。

ほかの市場と比べて緩やかな基準に加えて、J-Adviserが的確な支援を行うことにより、スムーズに上場を実現しやすいのが特徴です。

通常の市場は上場申請から審査完了まで2〜3カ月かかりますが、TOKYO PRO Marketは、申請時点でJ-Adviserによる支援がひと通り完了していることから、わずか10日程度で承認が得られます。

また、ほかの市場では監査対応を加味すると、実質的に2年以上前から準備が必要ですが、TOKYO PRO Marketは1年で上場が可能です。

海外投資家が参加する市場であるため、開示資料は英語のみでも上場が可能です。また、ほかの市場では必須となる四半期での開示が任意となっています。以上のように手続きにおいてもさまざまな点で簡略化されているのが特徴です。

TOKYO PRO Marketの現状

TOKYO PRO Marketは、取引参加者がプロに限られていることから、取引残高もほかの市場と比べて小さく、2024年4月時点では流動性がほかの市場よりも低いと言えるでしょう。上場企業数も多くはありませんが、継続的にIPOを実現する企業が増えていて、着実に売買できる株式は多様化しつつあります。

TOKYO PRO Marketとほかの市場の取引残高比較

TOKYO PRO Marketとほかの市場の足元の取引残高は以下のとおりです。

百万円 プライム スタンダード グロース TOKYO PRO Market
2023年10月 88,366,450 2,174,659 2,169,019 24
2023年11月 91,124,196 2,632,576 2,588,151 168
2023年12月 84,042,075 2,977,100 2,588,131 671
2024年1月 91,492,592 2,951,108 2,452,770 11
2024年2月 110,439,703 3,296,353 3,589,972 18
2024年3月 117,097,059 3,589,304 3,639,147 5

出所:日本取引所グループ

基本的に取引残高はプライム>スタンダード>グロース>TOKYO PRO Marketとなっています。特に取引参加者の制限があるTOKYO PRO Marketは、プライムのおよそ16分の1、グロースと比べても5分の1と、ほかの市場と比べて取引残高が小さくなっています。

TOKYO PRO Marketの上場企業数と足元のIPO企業

各取引市場の上場企業数は次のとおりです。(2024年4月16日時点)

市場 上場企業数
プライム 1,651
スタンダード 1,608
グロース 581
TOKYO PRO Market 103

出所:日本取引所グループ

TOKYO PRO Marketの企業数はほかの市場と比べると少ないものの、2024年には100社を超えており、徐々に取引できる企業のラインナップは拡大しています。2024年は、4月17日時点ですでに16社が上場しています。足元は日本M&AセンターとJ-Adviser契約を結んで上場する例が複数みられます。

2024年3月以降の新規上場企業

上場日 銘柄名 担当J-Adviser 事業内容
2024/4/11 エージェンテック フィリップ証券 コンピュータソフトウェアの
開発、保守
2024/3/29 ネオホーム 日本M&Aセンター 企画住宅を主とした戸建住宅の設計、販売
2024/3/28 ゼロジャパン 日本M&Aセンター 貴金属・ジュエリー・時計・
ブランド品等の買取及び販売
2024/3/27 オプティ 日本M&Aセンター 尿素水の製造販売、尿素原料の仕入販売、尿素水の製造に関連する消耗品・装置、ディーゼルエンジンのメンテナンス商材の仕入販売
2024/3/27 GAIA 日本M&Aセンター フィーベース IFA によるファイナンシャル・プランニング業、金融商品仲介業、保険代理業、銀行代理業に係る包括的金融サービス提供事業
2024/3/25 アップルパーク 日本M&Aセンター 駐車場・駐輪場の企画及び運営管理等
2024/3/22 三葉 日本M&Aセンター 放課後等デイサービス、児童発達支援を提供する障害児通所施設の運営を中心とした教育サービス事業
2024/3/19 エクセリ 日本M&Aセンター 無線通信機器の販売及びレンタル
2024/3/13 エネルギーパワー フィリップ証券 電力小売、電気工事

出所:日本取引所グループ

これらの企業は、永続的にTOKYO PRO Marketに上場し続けるとは限りません。さらに成長すれば、プライム・スタンダード・グロースに市場替えする可能性もあります。そのときには、個人投資家でも売買可能な企業となるでしょう。

TOKYO PRO Market以外のプロ向け市場とは?

株式市場に限ると、日本取引所グループにあるのはプライム・スタンダード・グロース・TOKYO PRO Marketの4つのみです。一方で、実は東京証券取引所では債券のプロ向け市場である「TOKYO PRO-BOND MARKET」があります。

こちらも、2008年に導入された「プロ向け市場制度」に基づいて2011年に開設された債券の取引市場です。市場参加者は、特定投資家(いわゆる「プロ投資家」)と非居住者に限られています。

債券の発行者にとって、英文の開示書類で起債が可能である、機動的でスピーディな債券発行が可能であるなどのメリットがあるのが特徴です。海外の「MTNプログラム」と呼ばれる仕組みと同様に、発行体の財務情報や債券発行の予定額を登録しておくと、予定額の範囲内で随時債券を発行できる仕組みがあります。

個人投資家がTOKYO PRO Marketに着目すべき理由

TOKYO PRO Marketで個人投資家が売買するのはハードルが高いですが、それでもTOKYO PRO Marketの動向を見ておくのがおすすめです。新興企業の中にはTOKYO PRO Marketでの上場を足がかりに、ゆくゆくはプライム・スタンダード・グロース市場への上場を目指している企業もあります。

すなわち、TOKYO PRO Marketは将来のIPO銘柄が並んでいる可能性があります。未上場企業と比べれば企業情報が多く公開されるため、TOKYO PRO Market上場企業は情報入手がしやすいと期待されるのです。

また、上場の過程でJ-Adviserのコンサルティングを受けているため、未上場企業と比べればガバナンスが効いていて、事業基盤も整っていると考えられます。以上の点で見れば、TOKYO PRO Market上場企業が他市場へ上場するときには、IPO銘柄として安心して投資できるでしょう。

将来のIPO投資銘柄を検討するうえで、TOKYO PRO Market上場時の情報公開態度を見ておくのも一案です。TOKYO PRO Marketは情報開示の粒度に関する制限が緩やかになっています。

そのような中でも、投資家へ配慮して透明度の高い情報を発信している企業は信頼ができます。もし将来その企業が発展してほかの市場に上場するときには、投資先として検討するのも一つの選択肢といえるでしょう。

新興企業が集まるTOKYO PRO Marketに要着目

TOKYO PRO Marketは、取引参加者をプロ投資家に制限することで、将来性が期待できる新興企業がスピーディに上場し、信用力の向上や資金調達手段の拡大に役立てています。

J-Adviser制度により、上場する過程では企業の体制が強化されるため、将来プライム・スタンダード・グロース市場などに上場するときには、ほかの未上場企業より信頼できます。将来のIPO銘柄候補を見るうえで、ぜひTOKYO PRO Marketの動向を見ておきましょう。

この記事を書いた人

伊藤圭佑
証券アナリスト
資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。
新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。