ウイングアーク1st連携企画_建設DX

2024年4月から建設業界でもいよいよ適用が開始された時間外労働の上限規制。
この2024年問題に対処するためにどのようなアプローチが必要なのか?
建設業界で多くのDX推進に関わってきた専門家2人による対談の後編では、建設業における具体的な取り組み事例を伺います。

小林 大悟氏
ウイングアーク1st株式会社
Data Empowerment事業部 ビジネスディベロップメント室


2018年、ウイングアーク1stに入社。現在MotionBoardの製品企画・戦略立案に従事。また、2010年からIoTの推進に注力しており、ベンチャー企業でのIoTプラットフォームの事業企画や、大手ドイツ自動車部品メーカでのインダストリー4.0やコネクテッドカー向けシステムを手掛けた経験から、IoTデータの活用を中心としたエバンジェリスト活動も行っている。
種村 克夫氏
株式会社コアコンセプト・テクノロジー
SI事業本部
シニアコンサルタント


DX支援、IT人材調達支援をしている株式会社コアコンセプト・テクノロジーにて、建設業クライアントへのアドバイザリーを担当。
前職でのゼネコンでの勤務経験から、クライアント企業に寄り添った伴走型の支援を行う。
建設業界の「2024年問題」に向けたデータ活用の取り組み事例

ーーこれまで、2024年問題の現状や求められるアプローチついてお話しを頂きましたが、具体的な事例についてもお聞かせいただけますか。

小林:公開できる事例の数は限られているのですが、ここでは大林組様と清水建設様の2社の事例をご紹介します。まずは大林組様についてお話しできればと思いますが、これは土木の世界での事例となります。

大林組様は弊社のMotionBoard導入以前からDXの取り組みを行っていましたが、業務システムやカメラ映像などの各データが分断されており、一元管理の部分に課題を感じていらっしゃいました。

そこでMotionBoardを各システムのポータルサイトのように活用し、タブレットや現場にある大型ディスプレイでリアルタイムに必要なデータを取得できるようにしています。

別々のシステム内にあるデータを探す手間を簡略化し、関連するデータの紐付けを容易にすることで関係者が関連する情報にアクセスできるようになった事例となります。

建設業界の「2024年問題」に向けたデータ活用の取り組み事例

MotionBoard導入以前は、企業規模の大きい会社ということもあり、現場単位で様々なシステムが使用されていました。
例えば遠隔臨場するカメラのデータや、コンクリートの打設管理のデータがそれぞれ異なるシステム内で管理されており、関連するデータの紐付けができないといった具合です。

これらの複数に跨がるシステムのデータを統合しようとするとかなり大変な作業となりますが、繋げたいシステム同士を丁寧に繋ぎ、MotionBoardの中でポータル化することに成功しました。

結果として現場の所長がダブレットさえ見れば必要なデータにアクセスできる状態になり、情報を探す手間がなくなったことが大きな価値だったと言っていただいています。
カメラデータなどの非構造化のデータも含め、MotionBoardが様々なデータを取り込むことができる点をご評価いただいたのかと思っております。

建設業界の「2024年問題」に向けたデータ活用の取り組み事例

ーーつづいて清水建設様の事例も伺えますでしょうか

小林:清水建設様は施工管理領域での事例となります。

MotionBoard上で工程の進捗を管理できるダッシュボードがあるのですが、必要な情報のうち、基幹システムから取れるものはMotionBoardとDr.Sumが自動で取得する状態を作り、その他の人による直接入力が必要な情報はMotionBoardから直接入力でできるようにしました。

清水建設様はMotionBoardとDr.Sum導入以前からデータを一元管理するシステムの構築に取り組まれており、その際には施工する時に現場で必要となる原価情報や工程の情報などのデータをまずは表計算ソフトに入力し、その後一元管理するシステムに格納する、という運用をされていました。

ただ表計算ソフトで入力するデータというのは、ある程度仕方がない部分ではあるのですが、揺らぎが発生しやすいです。
揺らぎというのは例えば数字で時刻を入力しなければいけない部分に「(午後)」とか書いてしまうようなことですね。

この揺らぎのあるデータを人海戦術で共通化するというデータクレンジングに近いことをされており、その手間をできるだけ少なくして情報を活用しようということで、弊社ツールを活用した取り組みが始まりました。

現在ではデータ加工・収集の手間を大幅に削減したことや、収集したデータを本社が横串で活用できるようになった点に手ごたえを感じていただいています。

建設業界の「2024年問題」に向けたデータ活用の取り組み事例

ツールを導入するだけではなく、並行してプロセス改善にも取り組まれ、内勤の方とうまく作業分担して現場側のデータ入力の手間を増やさない運用を考え、進捗に応じて必要となる格納データに不足がある場合は本社側にアラートが上がり、フォローを入れるといった仕組みを構築されています。

施工管理のノウハウを平準化する取り組みをされている事例といえます。

ーーこれらの大手企業の導入事例から、建設業の会社が活用できるポイントはどのような部分なのでしょうか

種村:揺らぎのあるデータの整理に大きな工数がかかるといった話や、関連する情報にアクセスしたいデータに辿りつく部分が非効率だったという話がありましたが、帳票作成でも建設業界では重複していたり手間が多い業務が多いです。

元となる情報が同じで内容も大差が無くても、顧客や協力会社などの社外組織ごとに形式を整えたり、社内であっても部門ごとに用意されている形式に作り変える、ということはよくあります。

MotionBoardやDr.Sumはこのような本業じゃない部分で現場が疲弊してしまっている報告業務を強力にサポートしてくれる製品だと思います。

種村:帳票の形式は社内だけでなく現場単位の関係各所で異なっており、建設業の帳票文化は改善できる余地が大いにあると思います。

工事現場はプロジェクト管理する中で表計算のマクロを使ったり外部参照を駆使して帳票作成の効率化を図りますが、プロジェクト特有の内容となる事が多く、横展開が限定的になる傾向があります。現場担当者は常に同種同様のプロジェクトに携わるわけでは無いので、過去のプロジェクトで作成したものを再利用できたとしても、現状に即した形式に修正する方が労力が必要となります。結果的にいちから作り直しを求められることになります。

MotionBoardのダッシュボード内でデータを集め、帳票作成という副次的な業務を簡単にすることの効果は大きいと思います。

建設業界の「2024年問題」に向けたデータ活用の取り組み事例

ーー中、小規模の企業ではどのような取り組みが多いのでしょうか?

小林:MotionBoardのクラウド版は月額30,000円程でスタートでき、大手の企業でなくても導入できる価格設定になっています。

一方で中小規模の企業様ですと、データ自体の物量が少なく、データ活用という文脈でいうと十分な効果が出にくい側面があります。

そういった中でどのようにご活用頂いているかというと、種村さんのおっしゃったように「脱表計算ソフト」を実現する手段としてご使用頂いていることが多いです。

表計算ソフトは本来帳票を作るためのツールではないので、データ入力や整理に余計な手間がかかってしまいます。
MotionBoard上で入力することで、構造化された状態でデータベースに入るので、決まった帳票の形であればMotionBoardで、自動で報告書を作って配信できます。

このような活用が中小規模の組織においては鉄板の使い方ですね。

ーー逆にMotionBoardを運用するにあたっての注意点はあるのでしょうか

小林:MotioinBoardは非常にカスタマイズがしやすいツールなのですが、個別最適を追求しすぎると属人化に繋がってしまう側面もあります。
例えば施工管理の領域であれば、施工管理技士の能力やスキルによって、現場の成否がばらけてしまうんですよね。

MotionBoardを活用するにあたって現場の声を聞くこと自体は正しいアプローチなのですが、その声を聞きすぎると現場の数だけダッシュボードを構築する必要があり、ものすごい工数がかかってしまいます。

現場に合わせる作業をどこまでやるのか、全体最適のためにどの部分を標準化するのか。
明確な正解があるわけではないのですが、この匙加減には注意が必要です。

種村:逆にカスタマイズの調整はある程度制約を設けて属人化しにくい仕組みを好まれる企業もありますね。ユーザーや社風によるところも大きいです。

ーー新しいツールを導入したものの、うまく活用されず、日が経つにつれて昔のやり方に戻ってしまう、ということは多くの職場で起こりうることだと思います。スムーズに運用できるポイントはあるのでしょうか。

小林:私の感覚ではあるのですが、建設業においてデータ活用をトップダウンで実施している会社は他業種と比較すると少なく、どちらかというと現場単位や支店単位での意思決定が強い印象があります。

ボトムアップ型のアプローチでデータ活用を推進するためには、いかに現場の手間をかけさせないか、現場の反対を受けないかということが非常に重要となります。

その上で、出てきたデータをうまく現場の役に立つ形でお返ししつつ、データを全社的に横串で活用する。このスキームをうまく組めるとデータ活用が進むと思いますね。

種村:建設業においては、生産部門が現場です。
どのような目的でツールを導入したとしても、やはり生産しているところは現場なので、現場から上がってくるデータが正しくなければ、絵に描いた餅となってしまいます。

開発の進め方においても同様のことがいえます。出来上がった状態でお見せするのではなく、段階的に開発部分をお見せしながらフィードバックを受けることや、直接のカウンターだけではなく、エンドユーザーからのお声をいただきながら進めることが重要になります。

お客様のDX部門だけでは浸透させるのは難しいので、弊社では導入後のサポートも含めて、様々な関係者を巻き込み、根付くまでのご支援をさせていただいています。

ーー今回は2024年問題を解決するために求められる業務効率化の観点を中心にお話しを伺ってきました。今後の業務効率化の先に建設業に求められるビジョンについて、お二人のお考えをお聞かせください。

小林:DXという観点では、私たちは五分割ぐらいのレベルで考えることが多いです。
レベル1は上のデータをデジタルに移行する。レベル2は支店単位や部単位で管理すべき指標を定めて、効率化を進める。レベル3では支店単位や部単位で機能している施策を横に広げ、横断的に効率化を進めるステージです。

ここまでは比較的システムが中心となりますが、レベル4ではそのデータを使って自分たちの事業を差別化し、競争優位性を高めていくことが求められます。

レベル5はそのデータを使って新しい事業を生み出し、新しいビジネスモデルを構築するステージになります。例えばデータ管理のシステムがあり、他社に外販したりするのがレベル5という具合です。

このような感じで、DXに至るロードマップをイメージし、自分たちはまずどこを目指すのかを定めて、実現するための手段を設計していくと良いかと思います。

種村:構造物のDXといった観点では、建設業の施工期間は数年ですが、作った構造物は50年、100年と存続します。そのため、建設期間だけではなく、運用保守まで含めたトータルのライフサイクルで全体が最適化されるのが理想です。

BIM/CIMにおいても最初から全ての属性や情報を含めることは難しく、一つのモデルを軸に、構造物のライフサイクルに沿って企画・設計から施工、そして運用段階で情報が付与されるプロセスがスタンダードとなることが重要と考えます。
そういったときに、スタンダードとなる基準が重要になると思います。

小林:例えばファシリティマネジメントのデータは今でもあると思いますが、紙で管理されており、BIM(現実と同様の立体モデルをコンピューター上に再現する仕組み)などに統合されていない場合もあります。MotionBoardであればBIMのデータの属性情報や別のシステムに入っているデータをダッシュボード上で統合してみせることができます。まずはその辺を一つの中間地点として設定すると良いのではないでしょうか。

種村:そうですね。MotionBoardが現状を可視化することで、より標準化への取り組みが進むんじゃないかな、と期待しています。

本記事のポイント

・データ管理の形式を整え、システムで管理する体制を構築することで、業務効率化にあたって課題となっている帳票作成業務も改善することができる。
・カスタマイズは業務の属人化にもつながりやすい側面がある。全体最適のため標準化とバランスをとることが重要
・目的を具体化し、自社の立ち位置と目指す場所に至る手段を設計することがDX実現の第一歩

建設業界の「2024年問題」に向けたデータ活用の取り組み事例

(提供:Koto Online