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最近、個人投資家や中小企業に「オフィスビルの不動産投資(以下オフィスビル投資)」が注目されています。
オフィスビル投資が人気の理由は、適正価格の物件を探しやすいことや、コロナ禍で落ち込んだオフィス入居率が回復基調にあることが挙げられます。
加えて、オフィスビル投資が脚光を浴びる理由には、投資金額を抑えやすくなったこともあります。
このコラムでは、オフィスビル投資について詳しく解説します。メリット・デメリットについても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
- オフィスビル投資が人気の理由
- オフィスビル投資、マンション投資、アパート投資それぞれのメリット
- 限られた予算でオフィスビル投資を始めるのにおすすめの3つの方法
オフィスビルの不動産投資が人気の理由
個人投資家や中小企業が不動産投資で購入する物件として、これまでは区分マンションやアパートなどが一般的でした。しかし、最近では、オフィスビル投資も注目されています。
この分野が脚光を浴びている理由として、適正な価格帯や利回りの区分マンションを探しにくくなっていることや、オフィスビル投資をしやすい環境が整ってきたことが挙げられます。
詳しくは以下で解説いたします。
1. 区分マンション投資は過当競争になっている
不動産投資と一口にいっても、以下のように運用する物件の種類はさまざまです。
運用する物件の種類 | 運用方法 |
---|---|
区分マンション | マンションの1室を運用 |
一棟マンション | マンションの建物を丸ごと運用 |
アパート | アパートを丸ごと運用 |
戸建て | 一軒家を運用 |
ビル | オフィスビルや商業ビルを運用 |
その他 | リゾート物件、シェアハウス、レンタルスペースなど |
これらのうち、個人投資家や中小企業によく選ばれるのが区分マンションやアパートです。
その理由としては、「ビルや一棟マンションに比べて投資金額を抑えやすい」という点や、「物件数が多いため探しやすい」という点が挙げられます。
ただし、区分マンションは、需要が高まっている一方で供給数が限られているため、過当競争の傾向が強まっています。
その結果、適正な物件価格や利回りの物件を見つけにくいマーケット環境になっています。
たとえば、首都圏の投資用マンションの発売戸数は、ピーク時の2007年に9,210戸でしたが、3年後の2010年には約半数の4,583戸に急減しました。
その後やや持ち直したものの、2019年から2022年の直近を見ると、約6,000戸前後にとどまっています。
参考:不動産経済研究所 2023年上期及び2022年年間の首都圏投資用マンション市場動向
2. オフィスビル投資をしやすい環境が整ってきている
区分マンションの投資環境が厳しくなるなか、人気が高まっているのはオフィスビルによる不動産投資です。
個人投資家や中小企業がオフィスビル投資に着目しているおもな理由として、以下の3つが挙げられます。
1. 適正な価格帯や利回りの物件を探しやすい
2. オフィスビルの空室率が低下傾向にある
3. 限られた資金でもオフィスビル投資がしやすい環境になった
・1. 適正な価格帯や利回りの物件を探しやすい
1つ目の「適正な価格帯や利回りの物件を探しやすい」ですが、オフィスビルは区分マンションよりも高額なため、購入できる投資家が限られます。
そのため、競合相手が少なく、適正な価格帯や利回りの物件を探しやすいといえます。
・2. オフィスビルの空室率が低下傾向にある
2つ目の「オフィスビルの空室率が低下傾向にある」では、コロナ禍によってオフィスの空室率が上昇しましたが、現在は回復基調にあり、安定した経営がしやすい環境です。
このことを示す具体的なデータとして、日経新聞 電子版では、東京都心5区のオフィス空室率が2年8ヵ月ぶりに5%台に低下したことが報じられています(2024年2月8日付)。
・3. 限られた資金でもオフィスビル投資がしやすい環境になった
そして、3つ目の「限られた資金でもオフィスビル投資がしやすい環境になった」ですが、オフィスビル投資は高額な初期投資が必要なため、個人投資家にとっては高いハードルでした。
しかし最近では以下のような方法により、限られた予算でもオフィスビル投資を始めやすくなっています。
・区分オフィス
・REIT(リート)
・不動産小口化商品
上記のオフィスビル投資の詳しい内容について、このコラムの後半(限られた予算でオフィスビル投資を始める方法)で解説します。
【徹底比較】オフィスビル・区分マンション・アパートによる不動産投資
ここまでお話してきたように、不動産投資をしたい個人投資家や中小企業にオフィスビルが注目されています。
ただし、オフィスビル投資はすべての個人や法人に適した資産運用の方法ではありません。オフィスビル投資を始める前に、その特性を理解する必要があります。
区分マンションやアパートと比較した場合の特徴は以下のとおりです。それぞれ詳しく解説していきます。
1. 初期費用の比較|区分マンションが最も安価
一般的に、オフィスビル投資では頭金や諸費用などの初期費用が多くかかります。
一例では、区分マンション、アパート、オフィスビルの初期費用を比較すると以下のようになります(初期費用を物件価格の20%と仮定した場合)。
物件タイプ | 物件価格 | 初期費用 |
---|---|---|
区分マンション | 3,000万円 | 600万円 |
アパート | 1億円 | 2,000万円 |
オフィスビル | 30億円 | 6億円 |
・オフィスビル投資で初期費用を抑えるには
ただし、オフィスビルには投資金額を抑えやすい方法として、区分オフィス、REIT(リート)、不動産小口化商品などの選択肢があります。
これらの投資金額の目安は以下のとおりです。
投資商品 | 投資金額の目安 |
---|---|
区分オフィス | 1フロア:5億円など 1室:1億円など ※上記はあくまでも一例です。 |
REIT(リート) | 1口当たり:数万円〜数十万円 |
不動産小口化商品 任意組合型 | 1口当たり:100〜500万円 |
不動産小口化商品 匿名組合型 | 1口当たり:1〜10万円 |
2. 利回りの比較|オフィスビルのほうが利回りは高い
利回りはエリアや時期、築年数などによって大きく異なります。そのため、対象とするエリアごとの利回り傾向を確認することが重要です。
たとえば、東京都心のオフィスビルと城南地区(目黒区、世田谷区)のワンルームマンションの利回りを比較すると、以下のようにほぼ同じです。
物件タイプ/エリア | 期待利回り |
---|---|
オフィスビル/東京都心 | 3.5〜4.0% |
ワンルームマンション/城南地区(目黒区、世田谷区) | 3.8% |
3. 空室リスクの比較|空室リスクは賃貸物件のほうが低い
空室リスクもエリアや時期、築年数などによって大きく異なります。
たとえば、東京都心のオフィスビルと首都圏の賃貸物件全体の空室率を比較すると、後者のほうが低い空室率になっています。
オフィスビル/都心6区※1 千代田・中央区・港区・新宿区・渋谷区 |
空室率5 .47% |
---|---|
賃貸物件全体/首都圏※2 | 空室率4.2% |
4. 原状回復費の負担の比較|オフィスビルのほうが有利な条件で契約しやすい
原状回復費の負担では、オフィスビルが最も有利です。
オフィスビルを選んだオーナーは、区分マンションやアパートよりも有利な条件で賃貸借契約を締結することが可能です。
原状回復とは、賃貸借契約の終了時(退去時)に物件を入居時の状態に戻すことを指します。原
状回復については民法の第621条で一定の考え方が示されており、物件の引渡し後に生じた損傷がある場合、借主が原状回復の義務を負うというのが基本です。
ただし、通常損耗や経年劣化の部分については、借主の原状回復の責任はありません。
【用語解説】
通常損耗 | 通常の生活をしていて生じる傷みや損傷 |
---|---|
経年劣化 | 期間が経過したことで生じる劣化や不具合 |
ただし、マンションやアパートとオフィスビルでは、実際の責任範囲が異なる傾向があります。
原状回復の内容は特約を定めることも可能ですが、オフィスビルの場合、通常損耗や経年変化の原状回復を借主の義務とするという特約を設けるケースが多く見られます。
出口戦略の比較
出口戦略(売却のしやすさ)で最も有利なのは、区分マンションです。
その理由は、物件価格が比較的安価であるため、多くの投資家が購入を希望するからです。一方、売却が難しいのは、物件価格が高いオフィスビルです。
オフィスビル投資のメリット・デメリット
次に、不動産投資でオフィスビルを選択した場合のメリットとデメリットを解説いたします。
メリット | デメリット |
---|---|
1. 高い賃料を得やすい 2. 入居期間が長い傾向 3. まとまった敷金(保証金)を得られる |
1. 物件価格が高くなる傾向がある 2. 融資審査のハードルが上がる 3. 景気の影響を受けやすい |
オフィスビル投資のメリット3つ
まずはオフィスビル投資のメリットを確認していきましょう。
・1. 高い賃料を得やすい
オフィスビルはマンションよりも高い賃料を得やすいというメリットがあります。
購入手続きや管理の手間をかけずに、効率的に収益を得たい人にはオフィスビル経営が向いています。
一例では、山手線の神田駅前に区分マンション(築10年程度)を所有した場合、得られる賃料は10数万円程度です。
一方、同じ神田駅前でも区分オフィスを所有した場合、得られる賃料は90万円程度です。
・2. 入居期間が長い傾向
オフィスビルはマンションよりも平均入居期間が長い傾向があるというメリットがあります。
そのため、空室リスクを抑えて安定経営をしたい人には、オフィスビルによる不動産投資が向いています。
賃借人の特性 | 平均入居期間 |
---|---|
オフィス(東京23区) | 9.6年 |
単身世帯(首都圏) | 3年3ヵ月 |
ファミリー(首都圏) | 5年2ヵ月 |
ザイマックス総研の調査※3によると、東京23区のオフィステナントの平均入居期間は9.6年と推計されました(2018年調査)。なお、2年以上継続して入居するオフィスは、93.8%と推計されています。
一方、賃貸住宅管理協会などの調査※4によると、個人の平均入居期間は単身世帯で3年3ヵ月、ファミリー世帯で5年2ヵ月となっています。
※3出典:ザイマックス総研「東京23区オフィステナントの入居期間」(2018年)
※4出典:(公財)日本賃貸住宅管理協会など 第27回 賃貸住宅市場景況感調査『日管協短観』
・3. まとまった敷金(保証金)を得られる
オフィスビルには、賃貸借契約時にまとまった敷金(保証金)を受け取ることができるため、これを活用して安定的な不動産投資をおこなうことが容易になるというメリットもあります。
オフィスビルにおける敷金の相場は、エリア・築年数・物件タイプによって異なりますが、一般的には「賃料の3〜12ヵ月分」といわれています。
傾向としては、大規模なオフィスビルのほうが小規模のオフィスビルよりも、より多くの月数の敷金が必要です。
一方、マンション投資で得られる敷金の相場は、通常1〜2ヵ月程度です。ただし、空室率の高いエリアや物件では「敷金ゼロ」の設定にするケースも増えています。
オフィスビル投資のデメリット3つ
続いてはオフィスビル投資のデメリットになります。
・1. 物件価格が高くなる傾向がある
物件価格を比較すると、オフィスビルはマンションよりも購入費用が高くなるというデメリットがあります。
そのため、「手元資金が限られている」や「初期費用を抑えたい」という人にはオフィスビルによる不動産投資は向いていません。
たとえば、首都圏の一般的な物件価格を見てみると、投資用マンションの平均価格(新築)は3千数百万円程度ですが、 オフィスビル(新築・中規模)の場合は一棟で数十億円〜が目安になります。
・2. 融資審査のハードルが上がる
オフィスビル投資には、前述のように「物件価格が高くなる傾向がある」というデメリットがあります。そのため、金融機関の融資審査のハードルが上がります。
融資を受けられる条件の例としては、個人投資家の場合には「安定的な高収入があること」や「手元資金が潤沢にあること」などが挙げられます。
一方、法人の場合には「財務内容が健全であること」や「一定期間の社歴があること」などが条件になると考えられます。
・3. 景気の影響を受けやすい
オフィスビルによる不動産投資には、不景気の際に空室率が上昇したり、賃料が下落したりする傾向があります。
これ対して、マンション投資は住居が目的であるため、不景気の影響を比較的受けにくいという特徴があります。
ただし、需要の高いエリアのオフィスビルであれば、一般的な景気の波の影響は限定的であると考えられます。
限られた予算でオフィスビル投資を始める方法3つ
前述のように、オフィスビルによる不動産投資には「物件価格が高くなる傾向がある」というデメリットがあります。
オフィスビル投資といえば、ビルを丸ごと経営するイメージがありますが、最近では以下のような手段により、限られた予算でも投資がしやすい環境が整ってきています。
1. 区分オフィス|ビルの1室を購入・所有
区分オフィスとは、ビルの1室(または1フロア)を購入・所有し、賃料収入や売却益を得る仕組みです。
たとえば、一棟で購入した場合には数十億円かかるようなビルでも、1室であれば1億円程度、1フロアであれば数億円程度で購入できるケースもあります。
【区分オフィスの特徴】
・一棟ビルの数十分の一程度の費用でオフィスビル投資ができる(例:中小ビルの場合)
・相続税対策になる
・区分マンションと比べると高い賃料収入が期待できる
区分オフィスを始める方法は、新築物件を希望する場合、区分で販売している不動産会社を探しましょう。
一方、中古物件を希望する場合、不動産投資サイトなどで区分で販売されているビルの情報を収集しましょう。
2. REIT(リート)|不動産投資信託
REITとは、不動産投資信託のことであり、Real Estate Investment Trustの略称です。
その仕組みは、不特定多数の投資家から資金を集めて、不動産を購入・運用・売却し、それによって得た利益の一部を投資家に分配する流れです。
国内のREITはJーREITと呼ばれますが、銘柄によって投資対象が異なります(例:物流施設、商業施設、事業所、ホテルなど)。
このうち事業所型のJ-REITを選ぶと、少額でオフィスビルへの不動産投資がおこなえます。
【J-REITの特徴】
・1口あたり数万円〜数十万円でオフィスビル投資ができる
・証券口座を介して手軽に売買できる
・相続税対策の効果が期待できない
J-REITの始め方は、国内株式の購入とほぼ同じです。
ネット証券経由の場合、証券口座を開設し、国内株式のページ上で検索・購入をおこないます。J-REITは売買できる時間帯も国内株式と同様です。
3. 不動産小口化商品|額な不動産を小口化(分割)して販売する投資商品
不動産小口化商品とは、高額な不動産を小口化(分割)して販売する投資商品です。
その仕組みは、事業者が複数の投資家から資金を募り、不動産を購入・運用・売却して得た利益の一部を投資家に分配します。
不動産小口化商品には、オフィスビルを運用対象にするものが数多く見られます。
そのため、個人だと購入するのが難しい高額なオフィスビルでも、1口当たり100〜500万円程度で運用することが可能です(任意組合型の場合)。
不動産小口化商品の主な種類には「任意組合型」と「匿名組合型」があり、以下のように特徴が異なります。
種類 | 特徴 |
---|---|
任意組合型 | ・不動産特定事業者と複数の投資家が共同で任意組合を設立する ・相続税対策の効果が期待できる(例:贈与税の基礎控除と組み合わせるなど) ・出資金の目安は1口あたり100〜500万円程度など |
匿名組合型 | ・不特定多数の投資家からネット経由で資金を募る ・任意組合型よりも少額でオフィスビル投資を始められる ・相続税対策の効果が期待できない ・不動産クラウドファンディングも匿名組合型の一形態 |
不動産小口化商品を始める方法は、以下のとおりです。
・任意組合型
この分野を得意にする事業者に問い合わせ、申し込む
・匿名組合型(不動産クラウドファンディング)
インターネットで検索し、比較した上で契約する
自分の条件に合ったオフィスビル投資を選ぶことが重要
冒頭でお話したように、個人投資家や中小企業が不動産投資をする際、オフィスビルが選ばれやすくなっています。その理由として、以下の3つが挙げられます。
1. 適正な価格帯や利回りの物件を探しやすい
2. オフィスビルの空室率が低下傾向にある
3. 限られた資金でもオフィスビル投資がしやすい環境になった
上記のうち、項目3では具体的に以下の選択肢があります。
・区分オフィス
・REIT(リート)
・不動産小口化商品
これらのうちからどれを選ぶかについては、投資金額と相続税対策が選択基準になります。
十分な投資金額があり、相続税対策をしたい場合は「区分オフィス」や「不動産小口化商品(任意組合型)」が合っています。
投資金額が少なく相続税対策が不要な場合は「REIT」や「不動産小口化商品(匿名組合型)」が合っています。
自分の資産状況や投資スタイルに合った不動産投資の方法を選択するようにしましょう。
(提供:ACNコラム)