特集『令和IPO企業トップに聞く〜経済激変時代における「上場ストーリーと事業戦略」』では、令和以降に新規上場された経営者にインタビューを実施。 上場までの思いや今後の事業戦略、思い描いている未来構想について各社の取り組みを紹介する。
創業時からの事業変遷
ーーこれまでの事業変遷について教えてください。
ウイングアーク1st株式会社 代表取締役 社長執行役員CEO・田中 潤氏(以下、社名・氏名略):
当社は、翼システムの一事業部として1993年より事業を開始、その後事業部門がファンドに売却され、2004年に創業した会社です。現在では、企業の基幹業務を支える帳票・文書管理ソリューションと、データにより新たな価値をもたらすデータエンパワーメントソリューションの2つの事業領域を展開しています。国内トップシェア(※1)を誇り約35,000社以上の導入実績(※2)を持つ帳票基盤ソリューション「SVF」とデータ分析基盤「Dr.Sum」は、創業前の事業部門だった時代に開発された製品です。しかし、当社が担っていたのはこれら製品の開発ではなく販売です。当社は当時の関連会社が開発した、この2つのプロダクトを販売する部門としてビジネスをスタートしました。
創業当初はSVFの売上がほとんどを占めており、Dr.Sumはほとんど売れておりませんでした。私は特にDr.Sumの立ち上げを担当し、10億の売上を達成することを目指しておりました。その目標を2007年に達成したため、私は一度会社を出て別の会社を立ち上げました。結果的に、その会社はウイングアーク1stの全面出資を受ける形で子会社化となり、ウイングアークに戻ることになるのですが、その時に開発していたのがBIダッシュボード「MotionBoard」です。これは今の主力製品の一つでもあります。
その後海外に進出するなど事業を拡大させながら、2010年のタイミングで一度JASDAQに上場し、立て続けに東証2部にも上場しています。しかし、その後一度上場を廃止しました。その理由は、事業をプロダクトからクラウドに移行するためです。それまでは、プロダクトを中心に販売していたのですが、クラウドのサービスができないと時代に乗り遅れてしまうと考えました。クラウドへの投資をスムーズにするために選んだのが上場を廃止するという選択でした。
しかし、クラウド事業を軌道にのせ2019年から再度東証1部上場へのチャレンジを開始することとなり、3年連続チャレンジをし続けた末に再度上場を果たしました。この時には、かつてのプロダクトを販売するビジネスから、プロダクトだけでなくクラウドとしてサービスを提供するような形でビジネスを行っておりました。 2度目の上場後は自治体との連携を強化し、また物流業界向けの会社「株式会社traevo」を創業しています。幅広く様々な産業におけるDXを実現する変革のリーダーになるような事業モデルを創出し、現在もビジネスを継続しております。
上場を目指された背景や思い
ーー 一度上場を廃止された後、再度上場するのは計画通りだったのですか?
田中:実は非上場化したタイミングでは、再上場することを考えておりませんでした。上場しなきゃいけない理由はないと考えていたからです。しかし、上場廃止後のクラウド開発費用を賄うために事業投資を受けており、再度自分たちだけで今後事業を続けるためには、上場が必要となったのです。上場前に投資ファンドを変えて、出資を受ける形になりましたが、上場までをサポートするという形で出資を受けていたため、力をお借りする形で上場を果たしました。
ーークラウド事業に転換される際はどのような点に苦労しましたか?
田中:最も苦労した点は、プロダクトの開発とクラウドの開発の違いです。ソフトウエアの開発はリリース目標に応じて順を追って開発を進めて行くものなのですが、クラウドの開発は一度開発をしても、何度もアップデートが必要なのです。クラウドはプロダクトと違い、ユーザーの使用履歴が全て見えており、その動きに常に対応する必要があるのです。
また、クラウドの開発にはソフトウエアの開発とは別のスキルを持ったエンジニアが必要です。一部クラウドの開発も可能なエンジニアにはクラウドの開発も委任しましたが、ほとんどは新規でエンジニアを雇っており、この採用がクラウドの開発で一番苦労した点でした。
今後の事業戦略や展望
ーー今後の事業戦略や展望について教えてください。
田中:今後の戦略は、これまで大企業のみだったクライアントからどの事業体にもサービスを提供できるようにシフトしていきたいと考えております。そこで取り組んでいるのが企業間の帳票に関するやり取りをDXする電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent」です。まずは「SVF」の主要顧客である大企業に向けて提供し、その取引先である中小企業へと波及させ、シェアを拡大させていく狙いです。
元々は個別企業に直接販売をするような形ではなく、パートナービジネスを展開して販売を行っていました。しかし、今後拡大していく中でパートナーがいないような特定の業界には自分たちで販売を務めなければいけません。そのために、セールスとマーケティングの必要性も感じています。
今後のファイナンス計画や重要テーマ
ーーファイナンス計画に関してはどのようにお考えですか?
田中:一番に考えているのは、資本効率の向上です。ビジネスモデルの関係上、利益率の高い会社となっており、ネットキャッシュが多い状態にあります。もちろん、配当で株主への還元も考えておりますが、今は株主への還元を将来的に最大化させるためにもより事業を大きくしていく方に投資をしていく方針です。
そこで考えているのは、M&Aと人材への投資です。自社の足らないケイパビリティを時間軸を通り越して獲得できるのがM&Aだと思っています。これまで小規模のM&Aの実績はありますが、特に公共領域を考えていきたいと軸に定めています。当社は、公共領域のお客様は多いのですが、基本的にお客様との窓口は、私たちのパートナーの方々でした。そこで自社のみで公共領域を進められる状態を作るには、その領域の力を持った方々が必要になります。そこをM&Aで獲得できると理想だと考えています。
また人材への投資に関しても大きく力を入れていきます。基本的に自社で開発は行っているため、商品で差別化できるような優れたエンジニアが必要です。人的資本は一番価値が高いため、投資を惜しむことはありませんが、採用に加えて教育にも力を入れています。最近では秋葉原にエンジニアのためのイノベーションラボ「D.E.BASE」を開設し、トップエンジニアの集積地を作りました。これからも特に教育には投資をし続けるつもりです。
ZUU onlineのユーザーに⼀⾔
ーーZUU onlineユーザーに向けて一言お願いします。
田中:当社は安定性と成長性に優れている企業だと思っています。その背景には、顧客の継続率が高いことが挙げられます。このリカーリングが支えになって、新しいことにも挑戦でき、その循環が株主還元も安定的に行えている理由になります。このような観点で我々に興味を持っていただけるようでしたら、ぜひ応援していただけますと幸いです。
(※1)出典:デロイトトーマツ ミック経済研究所株式会社発刊 ミックITリポート2023年11月号「帳票設計・運用製品の市場動向 2023年度版」図表2-3-1 【運用】製品/サービスのベンダー別売上・シェア推移 2022年度実績
(※2)クラウド版とパッケージ版の累積社数(2024年2月末)
- 氏名
- 田中 潤(たなか じゅん)
- 社名
- ウイングアーク1st株式会社
- 役職
- 代表取締役 社長執行役員CEO