特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

株式会社ヴィッツ
(画像=株式会社様ヴィッツ)
服部 博行(はっとり ひろゆき) ―― 株式会社様ヴィッツ 代表取締役社長
1967年3月、愛知県名古屋市生まれ。大学卒業後、大手派遣会社に勤務し、1997年、29歳の時に現会社を起業。
多数の公的研究の採択により株式会社ヴィッツの基礎事業を育成。
2015年12月より現職、その後、2019年に東証マザーズ、2020年東証一部に市場変更。2021年東証スタンダードに移行。
株式会社ヴィッツ
1997年創業。自動車・産業機械の組込ソフトウェア開発を中心に、シミュレーション・仮想空間技術提供・先進安全コンサルティングサービスなどを実施している。創業初期より研究開発に積極的に取り組み、獲得した技術で受託開発からコンサルティング、ツールまでワンストップで提供することを強みとしている。

目次

  1. 創業時からの事業変遷
  2. 上場を目指された背景や思い
  3. 今後の事業戦略や展望
  4. 今後のファイナンス計画や重要テーマ
  5. ZUU onlineのユーザーに⼀⾔

創業時からの事業変遷

――これまでの事業変遷について教えてください。

株式会社ヴィッツ 代表取締役社長・服部 博行氏(以下、社名・氏名略):最初に、私は創業以前に大手の派遣会社で技術者として働いていました。派遣業は労働時間を対価に変えるため、派遣会社の正義と私の正義が異なっていました。すなわち、私は短い時間で質のいいソフトウェアを提供したいと考えていたのですが、派遣会社は労働時間が長い人のほうが、売上が高く会社にとってはいい社員となります。この考え方に違和感を持ちました。

また、派遣が長い技術者は自分に技術を貯め、組織に技術を貯めることをしない方が多いと感じました。

私は、会社に技術を蓄積し、社員に責任を持てる会社を作りたいと思い、現在の会社を設立しました。

創業当初は人数も少なく、経験もなかったため苦労しましたが、限られた経験から優位性が発揮できるのが組み込み系のソフトウェア事業です。当時はメーカが製品を作る時、そこに組み入れるソフトウェアも内製しているのが一般的であり、独立した組込みソフトウェア企業は稀であり、ここに特化して事業を進めていくことを決めました。

そこで、組み込みを中心としている有名な先生を追いかけ、その先生の周りにいる人たちと繋がることで、組み込み系ソフトウェアを事業として育てていきました。その結果になりますが自動車のOS(RTOS:リアルタイムOS)開発に携わっていました。

現在は、機能安全などソフトウェアの安全開発技術、自動車やロボットのセキュリティ、自律システム(自動運転などですね)で使われるAIを安全に製品に組み入れる技術など、どの分野、業界にも汎用性があり必要とされる横断型のサービスに注力しています

――これまでの事業変遷のなかでブレイクスルーになる点はありましたか?

服部:最初に大きな転換期があったのは、自動車のリアルタイムOSの開発です。組み込み系に強い先生方のチームとやっていくなかで、車のOSを作ることになりました。しかし、欧州企業連合が策定した仕様書であるため英語で読み取らなければならなかったり、納期がかなり短期であるとても厳しいプロジェクト環境でしたが、年末にキックオフをして年明けには実装するぐらいのスピード感で進めることができ、この成功体験は私含め25名ほどであった社員たちの自信になりました。

そのまた数年後ですが、ソフトウェアの安全性を保証しなければ欧州での製品販売ができなくなるような国際規格が制定され、実質的な非関税障壁となる事態がおこります。これには経産省や輸出をしている日本メーカーにも大きな問題と認識し、対応に苦慮しておりました。当社はこの「機能安全規格」への対応は日本の産業にとって必要不可欠だと認識し、経産省の公的予算を取得して技術習得に努めました。その集大成として、日本で初めてドイツのTUV SUDからソフトウェア安全認証を取得し、日本でまだ機能安全という言葉が知られる前にこの分野の先駆者となりました

この公的研究事業はサポートインダストリ、通称サポインと呼ばれる研究事業(現在は「Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)」)で、この後、毎年のように研究申請の提案書を書き続け、年間3件ほどの研究事業を手掛け、今の当社の事業に繋がっています。

このような公的研究を推し進めた効果は現在も感じております。私たちのような小さな会社でも大企業が解決したい課題の解決に注力しているため、多くの情報を得ることができ、自社だけでなく他社の力も借りながら進めることができています。

上場を目指された背景や思い

――どのような思いがあって上場されたのでしょうか?

服部:創業当初から上場したいと思っておりましたが、正直できるとは思っておりませんでした。しかし、私が研究責任者として研究を遂行していた時、担当の税理士の方から、利益がある程度出てくれば上場を目指せるとのご意見をいただきました。私の考えではプロジェクトの管理方法を見直せば十分利益は取れる見込みがあったため、研究活動の終了後すぐに代表に就任し上場の準備を始めました。その後3年で上場しています。

――どのような目的で上場されたのですか?

服部:大きな目的としては、資本力と採用の促進です。研究事業により、種を植え、苗を育てることまではできても、刈り取るまでの資産や人員がいないことが大きな課題でした。

機能安全を例にすれば、間違いなく国内で機能安全の課題をいちはやく解決し、機能安全コンサルという市場を作りました。しかし、数年すると、大手が数百人という規模で、それら企業が有利な契約で受託してしまい、圧倒的な人材と圧倒的な資本力に負けてしまいます。

そのため、IPOで企業に対する信用力と研究開発のための資金はもとより、人材を確保して自分たちで作った市場を自分たちで回収できるような体制を整えることが上場の目的です

――上場後の変化について教えてください。

服部:基盤が整い、会社が強くなったと感じています。情報が開示されるようになったことで、コンプライアンス含め制度や仕組みづくりに注力し、社員の目標管理もより力を入れるようになりました。それによって、会社の雰囲気も変わってきたり、社員に対して超大企業までとは言わなくても上場企業としてのボーナスも出せるようになっています。このように上場を経て、独り立ちした成人として、すべてのステークホルダーに責任を持てる企業になったと感じています。

今後の事業戦略や展望

――今後の事業戦略や展望について教えてください。

服部:今後は、ソフトウェア開発成果物の提供型事業からからサービスやソフトウェア製品販売への転換をおこなっていきたいと考えています。

すなわち、出生率が低迷する現代社会において、将来的にソフトウェア人材は枯渇すると予想しております。そのため労働力提供型の事業には限界を認めざるを得ません。当社は労働力提供型から知財提供・活用型にシフトするよう事業ポートフォリオの見直しを進めております。

この変革により、たとえ社員数が増加しなくても、売上や利益が増加するサービス提供を実現したいと考え、ここ変革に注力しております。

――ここを実現するための課題は何がありますか?

服部:自社技術を正確に理解したマーケターの存在です。自社は技術者が多く、技術者はマーケティングに対する専門知識がありません。しかし、マーケターも技術のことを理解していないことが多く、技術を理解しているマーケターの存在がサービス販売に移行するなかでは特に不可欠だと感じています。私たちとしては、技術者のなかでマーケティングの知識を兼ね備えた人材を育成、または採用する方向で進めたいと考えています。

また、人材の確保も将来的に課題になってくると思います。先ほどお伝えした通り、日本の人口が少なくなっていくなかでも、今のうちから社員を確保し、会社規模を拡大するとともに、社員が働き続けたいと思う、かつ、20年後に求職者が減少するときでも入社したいと思える会社のブランドづくりを行っていきたいです。

今後のファイナンス計画や重要テーマ

――今後のファイナンス計画はどのようにお考えですか?

服部:現在資金不足で困っていることはないのですが、まずは中期経営計画を作ることから始めていきたいと考えています。 中期経営計画を作った上で、今後の事業における資金需要と必要な資金量を計画し、資金が不足すると見込まれる場合は、 エクイティファイナンスよりも資本コストが低いデットファイナンスを上手く活用して資金調達する予定です。 また、必要な水準よりも資金が過剰となっている場合は、株主還元を適宜実施しながら資本コスト抑え、 資金運用と調達のバランスがとれた資本構成を実現していきたいと考えています。

ZUU onlineのユーザーに⼀⾔

――ZUU onlineユーザーに向けて一言お願いいたします。

服部 :私たちの事業は、将来的に皆さんが便利な生活を送るために必要なものを安全に届けることが使命だと思っています。それは食べ物が人に必要だと同じで、不変の価値だと思っています。今後も、機能安全やAIの安全活用技術を中心に事業も着実に伸ばしていきますので、安全性を含めた分野に興味があれば投資していただきたいと思います。

氏名
服部 博行(はっとり ひろゆき)
社名
株式会社ヴィッツ
役職
代表取締役社長

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