牛丼チェーン「吉野家」を展開する吉野家ホールディングス<9861>が、ラーメン事業の拡大に向け動き始めた。同社は2024年5月1日に、ラーメン店向けに麺やスープなどを製造する宝産業(京都市)を子会社化した。
2025年2月期を最終年とする3カ年の中期経営計画の中で、ラーメンを次の事業の柱と位置付け、この3年間で成長の基盤づくりを進める方針を掲げており、今回の買収はこの計画の一環。
ラーメン事業でのM&Aは2016年のラーメン店運営のせたが屋(東京都世田谷区)、2019年のラーメン店「ばり嗎(ばりうま)」「とりの助」を展開するウィズリンク(広島市)に次ぐ3社目となる。
同中期経営計画では2025年2月期に売上高1800億円、営業利益70億円を目標としているが、これら数字はすでに2024年2月期に達成しており、2025年2月期には売上高2030億円(前年度比8.3%増)、営業利益70億円(同12.2%減)を見込む。
宝産業の子会社化によって強化されるラーメン事業は、この数字をさらに押し上げることができるだろうか。
20%台の増収増益に
宝産業はラーメン店向けにストレート麺や縮れ麺、細麺など60種以上の麺と、豚骨、鶏ガラ、魚介など20種以上のスープを供給しているほか、ギョーザや焼き豚、メンマなども製造している。
国内には京都工場、関東工場を持ち、海外では米国、フランス、タイ、インドネシア、フィリピンに拠点がある。
こうしたラーメン商材に特化した宝産業を傘下に収めることで、ラーメン事業のバリューチェーン(価値創造のための一連の流れ)の強化につながると判断した。
宝産業の業績は好調に推移しており、帝国データバンクによると2023年6月期の売上高は33億3500万円(前年度比22.1%増)、当期利益は2億6200万円(同26.5%増)と20%台の増収増益だった。
吉野家の傘下に入ることで、販路の拡大や共同購入による調達コストの削減などのシナジーが見込めるため、さらなる成長が見込めそうだ。
ラーメンのほか海外でのM&Aも
吉野家ではラーメン業態は、居酒屋やレストランなどと比べると来店客数が安定しており、海外でも人気が高いため事業拡大の可能性が高いとし、2016年と2019年にラーメン事業会社2社を傘下に収めた。
しかし、その後のコロナ禍で守勢を余儀なくされ、2019年に「ステーキのどん」「フォルクス」などを展開するアークミールを売却し、2021年には持ち帰りずしの京樽を、2022年にはファストフードのグリーンズプラネットオペレーションズを売却した。今回の買収はおよそ5年ぶりで、コロナ禍から抜け出しようやく拡大路線にかじを切ったことになる。
中期経営計画では「日本発の日常食を提供する外食の事業展開とその周辺ビジネスでM&A機会を探求する」とするとともに、「海外事業や外販事業の拡大に向けてM&A機会の探求する」ともしており、今後ラーメン分野はもちろん、海外案件なども含めM&Aの機会が増えていきそうだ。
開示年月 | 吉野家ホールディングスが2016年以降に適時開示したM&A |
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2016年6月 | ラーメン店運営の「せたが屋」を子会社化 |
2019年3月 | ラーメン「ばり嗎(ばりうま)」「とりの助」展開のウィズリンクホールディングスを子会社化 |
2019年12月 | 「ステーキのどん」「フォルクス」を展開のアークミールを売却 |
2021年2月 | 持ち帰りずしの京樽を売却 |
2022年1月 | ファストフードのグリーンズプラネットオペレーションズを売却 |
2024年4月 | ラーメン店向けに麺、スープなどを製造する宝産業を子会社化 |
文:M&A Online