1. 売上高・営業利益がともに右肩上がりで伸びているか
企業が事業を行い、商品やサービスを売ることで得られた金額の合計を売上高といいます。
企業は、決算書のひとつ、損益計算書という書類の中で、一定期間(多くは1年間)の売上高からさまざまな費用を差し引いて、企業がどのくらいの利益をあげたのかを記しています。
<売上高と5つの利益>
このなかでまずチェックしたいのが、売上高と営業利益です。売上高は、上の図からもわかるように、その後の各種利益を生み出す源泉ですから、多いに越したことはありません。また、右肩上がりで増えていれば、企業が成長し、稼ぐ力が年々高くなっていることがわかります。
営業利益は、売上高から商品やサービスを作るためにかかった「売上原価」と、商品を売るためにかかった人件費・広告費・管理費などの「販売費及び一般管理費」(販管費)を引いた利益のこと。企業の本業から得られた利益です。営業利益が多いこと、増えていることは、本業で利益を出す力が高まっていることを表します。
ポイントは、売上高と営業利益が「ともに」右肩上がりになっていることです。売上高が大きく伸びているにもかかわらず営業利益が悪化している場合は、損益面から見てあまり魅力的ではないビジネスを始めてしまっている可能性があります。また、営業利益だけが伸びているときは、単に人件費を削減しているだけです。人件費を削減すれば、効率化するかもしれません。しかし、企業が成長するには「人財」の獲得が必須です。ですから、両方とも伸びているのかを確認しましょう。
売上高と営業利益がともに、過去3〜5期分と今後の1〜2期分の予想が伸び続けている好業績銘柄であれば有望です。本業でしっかり稼ぎ、事業を拡大できていることを表します。また、市場が一時的に暴落したときにも、好業績銘柄は立ち直りが早く、その後の成長も見込めます。
売上高や営業利益は、証券会社のウェブサイトの「業績」の欄や東洋経済新報社が3か月に1度発行している「会社四季報」などを見ると簡単に確認できます。
2. 営業利益率・経常利益率が高いか
営業利益率は売上高に占める営業利益の割合です。また、経常利益率は営業利益から営業外損益(本業以外の活動で継続的に発生する収益や費用)を差し引くことで求められる「経常利益」が売上に占める割合です。
営業利益率=営業利益÷売上高×100(%)
経常利益率=経常利益÷売上高×100(%)
どちらも、企業の収益力を測る指標で、この数値が高いほど稼ぐ力が高いことを表します。
たとえば、売上高が300億円で営業利益が12億円の企業Aと、売上高が50億円で営業利益が5億円の企業Bがあったとします。事業の規模は企業Aのほうが大きいですが、営業利益率で見ると、
企業A…12億円÷300億円×100=4%
企業B…5億円÷50億円×100=10%
となり、企業Bのほうが稼ぐ事業を行っていると読み取れます。「率」で見ることで、事業の規模の違いを気にせず、稼ぐ力を比べることができます。
営業利益率・経常利益率の平均値は約4%。10%以上あると優良企業とされます。ただ、業界によって平均値に差がありますので、違う業種で比較してもあまり意味がありません。同業種で複数の投資候補が出てきたときに、どちらの営業利益率・経常利益率が高いかを比較するのがよいでしょう。
営業利益率や経常利益率は、各証券サイトの銘柄検索の際に、スクリーニング機能を用いて絞り込み・確認ができます。
3. 1株あたり利益(EPS)が年々増加しているか
1株あたり利益とは、企業が発行した株で集めた資金を元手に、どれほどの儲けが得られたかということを1株あたりで算出したもので、「EPS」と呼ばれています。
EPS=当期純利益÷発行済み株式数
当期純利益は、経常利益から一時的に生じた利益や損失(特別損益)、税金などをすべて差し引いた、企業の最終的な儲けを表す利益です。
EPSは「1株あたりいくら儲けたのか」ですので、多いほど稼ぐ力が高いことを表します。株主にとっては投資した分で利益が出せる企業かどうかを見るのに重要な指標です。このEPSが年々増加していれば、以前よりも効率的で収益性の高いビジネスを展開していると考えられます。
せっかく投資したのに、企業が十分にその資金を生かせず利益を出せないようなら、投資する意味は薄れてしまいます。EPSは、自分の大切なお金を託すに値する企業か判断するための重要な指標といえるでしょう。
ただし、EPSの計算式には「当期純利益」「発行済み株式数」が使われていることには注意しましょう。当期純利益は特別損益などを差し引いて求めることをお話ししました。保有している有価証券を売って利益が出た、あるいは災害が発生して損失が生まれたというときには、EPSが大きく変化する場合があります。また、発行済み株式数も、自社株買いなどを行って発行済み株式数が減った、株式分割などを行って発行済み株式数が増えたというときには、EPSが大きく変化する場合があります。
したがって、過去から今までのEPSの増減をみて大きな変動があった場合は、それがどのような要因で起こったものなのか、本業が好調で当期純利益が増加したことによってEPSが増加しているのかを確認するとよいでしょう。
EPSも証券会社のウェブサイトの「業績」欄などで確認可能。企業が3か月に1度発行している「決算短信」にも「1株当たり当期利益」「1株当たり四半期利益」などの名称で掲載されています。
4. 連続で増配しているか
株を保有していることでもらえる配当金。1株あたりの配当金が前年より増えた状態を「増配」、減った状態を「減配」といいます。
配当金は、当期純利益から分配されます。業績が良ければ増額され、悪化すれば減額される傾向にあります。したがって、毎年出される配当金の推移は、その企業が毎年しっかりと利益を出し続けられているかどうかを示しているともいえます。
配当金が毎年連続で増配している株を「連続増配株」と呼びます。日本で知られている連続増配株の代表は花王(4452)で、34期連続で増配を達成しています。米国株には、60期以上連続増配している銘柄もたくさんあります。長い期間にわたって連続増配ができるのは、企業の業績が右肩上がりで成長しているからに他なりません。
連続増配を行っている企業は、株主に積極的に利益を還元している企業だということもできます。もちろん、そうした企業であっても、業績が悪化するなどの要因で減配したり配当金をなくしたりする(無配)ことも、ないとはいえません。しかし、これまで数十年と連続増配を続けてきた、株主還元に対する意識の高い企業は、これからも増配を続けていく可能性が高いといえるでしょう。連続増配株は個人投資家からの人気が高く、それが株価上昇にも繋がっています。
「稼ぐ力のある企業」に投資できているかが鍵
値下がりリスクを抑えながら、堅実に増やしていきたいならば、「稼ぐ力のある企業」に投資できているかどうかが重要です。皆様の投資行動の参考になれば幸いです。
この記事を書いた人
(株)Money&You代表取締役。中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintechなどに関する執筆・監修、書籍、講演などマネーリテラシー向上に努めている。著書は「はじめてのNISA&iDeCo」(成美堂)など多数。日本証券アナリスト協会検定会員。ファイナンシャルプランナー(AFP)。