SBCメディカルグループホールディングス(以下、SBC社)のNASDAQ上場を記念した特別対談をZUU online主催で実施。SBC社CEOの相川 佳之氏と楽天グループ代表の三木谷 浩史氏が登場し、同社の成長戦略やアメリカ市場への挑戦、さらには医療業界の未来などについて語り合う。
1970年生まれ。神奈川県出身。日本大学医学部卒業。麻酔科研修後、都内大手美容外科に勤務。2000年に神奈川県藤沢市に湘南美容外科クリニックを開院。美容医療に留まらず、多岐にわたる医療機関への経営支援事業へと事業を拡大。現在、クリニックネットワークは全国220院に広がり、大規模な医療グループへと成長している。SBCメディカルグループホールティングスCEOのほか、日本美容外科学会理事、先進医療医師会参与など多数務める。
1965年神戸市生まれ。1988年一橋大学卒業後、日本興業銀行(現 みずほ銀行)に入行。1993年ハーバード大学にてMBA取得。1997年2月株式会社エム・ディー・エム(現 楽天グループ株式会社)を設立。現在、楽天グループとして、Eコマース、フィンテック、モバイル、デジタルコンテンツなど多岐にわたる分野で70以上のサービスを提供。また、東京フィルハーモニー交響楽団理事長、一般社団法人新経済連盟の代表理事、医薬品・医療機器の開発・販売を行う、Rakuten Medical, Inc.の副会長兼CEOを務める。
医師であり経営者、三木谷氏から見た相川氏とは
—— お2人は以前から親しい関係にあると伺っておりますが、どのようにして出会われたのでしょうか?
相川氏:最初の出会いは、株式会社ネクシィーズ(LED照明レンタルサービスやインターネット接続サービスなどを行うライフアメニティ事業を中核とする東証スタンダード上場企業)の近藤太香巳社長からのご紹介がきっかけでした。そこで三木谷さんと初めてお会いし、その後、ビジネスの場でご一緒させていただく機会が増えました。
—— 相川さんは医師でありながら経営にも精通されているという非常にユニークなポジションにいらっしゃいますが、三木谷さんから見て相川さんは経営者としてどのような存在でしょうか?
三木谷氏:非常に積極的に事業を拡大されていて、楽天としてもいくつかのプロジェクトに一緒に取り組んでいます。特にコロナ禍では、楽天が運営・協力したワクチンの職域接種や自治体接種の取り組みに、立ち上げ当初から協力してくださいました。多くの医療スタッフを派遣していただいた他、実施医療機関として接種業務を統括などしていただきました。決断のスピードも速く、素晴らしい経営者だと思っていますし、今後は世界に向けて事業をさらに展開されていく中で、大変心強く感じています。
NASDAQ上場への決断とその背景
—— SBC社は今回、NASDAQ市場に上場されますが、改めてその目的や上場を決断されたきっかけについてお聞かせください。
相川氏:2000年に神奈川県藤沢市で初めてクリニックを開業してから、美容医療市場のトップに立つまでに約17年を要しました。国内市場におけるニーズの高まりを背景に、現在も順調に成長を続けています。しかし、真に世界一を目指すためには、これからの戦略を慎重に見極める必要があると考えています。特に、日本では人口減少が進んでおり、今後の成長を見据えると、選択肢は3つに絞られると見ています。
1つ目は海外市場への進出、2つ目は国内での美容医療の利用者数を増やし、シェアを拡大すること、3つ目は海外からのインバウンド需要を取り込み、特別な医療サービスを提供することです。この3つが今後20年、30年の成長を支える重要な柱となると考えています。東南アジアは、今後も人口増加が見込まれる有望な市場です。例えば、シンガポールでは医療関連企業が上場し、大規模な病院も多数存在していますが、日本では医療機関は上場できません。これまで、私たちはほぼ借入を行わず、自己資金のみでM&Aを推進してきましたが、このやり方では限界もあります。
アジアや世界でナンバーワンを目指すためには、資金調達の幅を広げる必要があります。上場を果たすことで、持続的かつ迅速な成長が実現可能となり、グローバルで活躍できる優秀な人材の確保も一層容易になり、また、企業ガバナンスの強化にも寄与します。上場準備には約2年を要しましたが、その過程で多くの学びを得ることができ、上場企業として相応しい体制を着実に整えることができました。
—— SBC社がNASDAQ上場に挑戦されることについて、三木谷さんはどのように感じていらっしゃいますか?
三木谷氏:事業はこれから積極的に海外に出ていかれるということですし、そのための資金需要があるということですね。海外市場で上場されるということで、法律も違いますし、大変なところもあるかと思いますが、ぜひ頑張っていただきたいです。
相川氏:ありがとうございます。周囲からはリスクが高いという声もありましたが、挑戦し続けることは非常に重要だと思っています。三木谷さんのように応援してくださる方がいるのは本当に心強いです。
NASDAQ上場で世界進出を狙うSBCの次なる一手
—— 上場後にはどのような成長戦略を描いていらっしゃるのでしょうか?
相川氏:日本の美容医療業界は、過去3年間で市場規模が2倍に成長しており、今後もさらに拡大する見込みです。かつて、美容医療は周囲には内緒で受けるものというイメージがありましたが、今や堂々と受けられる時代となりました。この市場は間違いなく、さらに伸長します。
日本の医療市場全体の規模は約44兆円とされています。我々は、この巨大な市場の中で、美容医療をはじめ、不妊治療や近視矯正、再生医療などの自由診療分野において、経営支援を展開しています。今後は、保険診療と自由診療の強みを融合させ、より強固な医療モデルを全国的に展開していくことを目指しています。仮に市場の10%のシェアを獲得できれば、約4兆円規模の市場を手中に収める可能性があることは、まだ広く知られていないかもしれません。
一方で、アメリカの美容医療市場は、日本に比べて少なくとも10年先を行っていると言えるでしょう。アメリカやその他の先進国の先進的な医療技術を日本に導入し、さらにアジア市場にも展開することで、我々は時間差による競争優位性を活かし、持続的な成長戦略を実現していきたいと考えています。
三木谷氏:やはり世界各国で色々な人がさまざまなものを開発していますので、そういう意味ではやはり国際的に進出することで、さらに最先端をいくことにも寄与するのではないかと感じています。
—— 「アメリカ」というキーワードがありましたが、三木谷さんはアメリカ市場やアメリカという国について、どのように捉えていらっしゃいますか?
三木谷氏:やはりアメリカは非常にダイナミックな国だと思います。移民の増加に伴って人口もどんどん増えています。私がアメリカの大学院に留学していた30年ほど前は、総人口は約2億6000万人でしたが、今では4億人に迫ろうとしています。それに加えて、経済の発展やイノベーションのスピードも非常に速いです。こういったダイナミックな環境の中で、相川先生が進出されることは、さらに大きな成長につながると思います。まさに大リーグに飛び込むような挑戦で、SBCさんもさらに大きく成長していけるのではないでしょうか。
M&A成功の鍵は『人』にあり
—— マーケットや証券市場の活用という観点では、M&AもSBC社の成長戦略の一つとして考えられるのではないかと思います。アメリカでのM&Aや、証券市場を活用したファイナンスの手法については、どのようにお考えですか?
相川氏:現在、国内では積極的にM&Aを推進し、経営が厳しいクリニックの再建や、成功している事業をM&Aによって横展開しています。海外でも、同様のアプローチが有効だと感じています。特にアメリカにおいては、成功している美容クリニックチェーンから多くの学びがあります。現在、アメリカには1院のみの展開ですが、これからはグローバルにおいてもブランドを築いていくつもりです。楽天さんのようにアメリカのプロバスケットボールチームを支援するような取り組みができれば理想的ですが、現段階ではそこまでの資金がないため、段階的に進めていきたいと考えています。
—— M&Aを活用していく上で、さまざまな苦労があるかと思いますが、三木谷さんから何かアドバイスやご意見をいただけますでしょうか?
三木谷氏:そうですね、M&Aは事業拡大の大きな手段として非常に有効ですが、アメリカの企業文化は日本と異なる部分も多いです。特に企業カルチャーをどう維持するかがポイントになると思います。新しい環境に適応しながら、うまく統合を進めていく必要がありますね。
相川氏:三木谷さんがM&Aを進める際、特に気をつけている点は何でしょうか?
三木谷氏:やはり「人」が一番大事です。特にアメリカでは、買収後に経営者がすぐに離れてしまうことが多くあります。我々も同じ経験をしてきましたが、買収後にどう持続可能な形で事業を成長させるかが非常に重要です。
相川氏:医療分野も同じです。優秀なドクターが離職すれば、クリニックの価値にも大きな影響を及ぼします。技術の継承に関しては確かに課題がありますが、それを克服することができれば、より強固な事業基盤を構築できると信じています。
—— では最後に、SBC社が新規上場されるということで、三木谷さんから激励の言葉をいただければと思います。
三木谷氏:アメリカでの上場となると、基準が日本とは異なる点が多いですが、積極的に資本市場を活用しながら、さらに成長を目指されるということで、応援したいと思います。今後の相川先生率いるSBCさんのさらなる発展を大いに期待しています。