この記事は2024年4月2日に「第一生命経済研究所」で公開された「3月短観から見た24年度業績見通し」を一部編集し、転載したものです。


堅調な企業業績を材料に、年末は日経平均4万5,000円も視野
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目次

  1. 24年度は増収減益計画に
  2. 大幅増収計画の「不動産」「金属製品」「その他輸送用機械」
  3. 増益計画は「木材・木製品」「対事業所サービス」「その他情報通信」
  4. 為替レートの変動で業績が修正される可能性も

24年度は増収減益計画に

4月1~2日に公表された3月短観の大企業調査は、2月25日~3月31日にかけて資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

そこで本稿では、同調査を用いて、4月下旬から本格化する年度決算発表で今年度計画の回復が見込まれる業種を予想してみたい。

資料1は、3月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、24年度はプラス幅が縮小するものの、上期・下期とも増収計画となっている。

一方、経常利益を見ると23年度は前回調査から上方修正となったものの、24年度は減益計画になっている。このことから、企業は決算発表で24年度の企業業績見通しを慎重に出してくることが予想される。つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で縮小させながら増収を維持する一方、経常利益については今年度減益計画に転じる姿となっているということである。

ただ、24年度下期の経常利益計画は、製造業の加工業種に限っては増益に転じる計画となっている。22年度下期以降は鉱工業指数の出荷在庫バランスのマイナス局面が続いていることからすれば、24年度下期には景気循環的に上向く見方が製造業の増益計画の後ろ盾になっている可能性がある(資料2)。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
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大幅増収計画の「不動産」「金属製品」「その他輸送用機械」

続いて、3月短観の売上高計画を基に、大幅増収が見込まれる業種を選定してみたい。資料3は23・24年度の業種別売上高計画の前年比をまとめたものである。

結果を見ると、24年度も多くの業種で増収計画となる中で、最大の増収率となっているのが「不動産」で前年比+6.1%である。それに続くのが「金属製品」の同+3.3%、「その他輸送用機械」で同+3.0%、「生産用機械」で同+2.8%、「その他情報通信」で同+2.3%である。

まず「不動産」を詳細に見ると、経常利益が減益計画になっていること等からすれば、都市部を中心に賃料や不動産価格上昇が増収計画に寄与していることが推察される。

また「金属製品」「その他輸送用機械」「生産用機械」についても、経常利益が減益計画になっていること等からすれば、投入コスト増に伴う価格転嫁が寄与している可能性が高い。なお、「生産用機械」については、世界的に生成AI向けの半導体需要が増加していること等を受けて、半導体製造装置や電子部品に関連する分野の需要拡大が見込まれていること等も推察される。

一方、先ほど指摘した5業種で唯一増収増益計画となった「その他情報通信」を詳細に見ると、放送業、インターネット附随サービス業、映像・音声・文字情報制作業、等が含まれる。中でも、近年インターネット附随サービス業が好調に推移しており、特にショッピングサイト運営業及びオークションサイト運営業やウェブコンテンツ配信業がけん引役となっていることが、これまでの売上高推移から推察される。

従って、24年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業について売上高計画が注目されよう。

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増益計画は「木材・木製品」「対事業所サービス」「その他情報通信」

続いて、3月短観の経常利益計画から大幅増益が期待される業種を見通してみよう(資料4)。結果を見ると、増益率が最も大きいのは、増収計画に加えて国際的な木材の価格が落ち着いていることで投入コスト低下が期待される「木材・木製品」の前年比+3.6%となる。

それに続くのが、人材派遣業を含む「対事業所サービス」の同+2.5%となっている。こちらは、労働市場の流動性の高まりに加え、今年からさらに労働時間規制が強化されていること等から、人手不足対応に伴う労働需要の増加が期待されていることが推察される。

それに続くのが、好調な売上高計画の「その他情報通信」の同+1.6%となる。なお、それに続く「物品賃貸」については、直近の特定サービス産業動態統計調査でも昨年のリース契約高が大幅に伸びていることから、堅調な需要を受けて強気な収益計画になった可能性がある。また、同+0.1%の増益計画となっている「石油・石炭」については、化石燃料等の原材料コストが昨年度に比べて落ち着いていることに伴うコスト減を見越している可能性があろう。

このように、今期の経常利益見通しで増益が期待される業種としては、増収に加えてコスト減が期待される一部の素材産業に加えて、人手不足や設備投資需要の恩恵を受ける人材派遣やリース業、デジタル化の恩恵を受ける一部情報通信業種、等が指摘できる。

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為替レートの変動で業績が修正される可能性も

なお、3月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

資料5にて大企業における事業計画の前提となる今年度の想定為替レートを確認すると、ドル円で140.5円/㌦、ユーロ円で151.0円/€となっている。

中でも、足元のドル円レートよりも特に円高で今年度の為替レートを想定しているのが「物品賃貸」や「対個人サービス」「対事業所サービス」といった為替の影響がそこまで大きくない非製造業となっている。

ただ、特に円安の恩恵を最も受けやすい輸送用機械関連産業が、いずれも137円/㌦台と円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。というのも、今後はインフレ率の減速や各国の政治動向等に伴うリスクオフを通じて、欧米中銀が利下げに転じる等して為替レートの水準が円高方向に進むことを想定していることが推察される。しかし、そこまで大きく円高に振れなければ、こうした今年度の為替レートを円高気味に想定している業種に属する企業を中心に、今期業績が上方修正される可能性があることには注目すべきだろう。

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第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣