SAP NOW Japan

ERPを中心とした企業の基幹システムを提供する、欧州最大のソフトウェア会社SAPの日本法人、SAPジャパン株式会社。去る2024年7月31日、東京都港区高輪のグランドプリンスホテル新高輪において、「SAP NOW Japan Bring out the best in your business」と題したイベントが開催されました。

今回はイベントの概要とキーノートセッション、注目されたセッションの一部を紹介します。

目次

  1. 業務効率化、経営意思決定の迅速化を実現するSAPのERP
  2. 「Fit to Standard」を合言葉に、短期間ハイコストパフォーマンスで導入に成功 ~コアコンセプト・テクノロジー社の導入事例〜
  3. グランドキーノート SAP Business AIが実現する新たなビジネス変革
  4. まとめ

業務効率化、経営意思決定の迅速化を実現するSAPのERP

SAPジャパンは、1972年、ドイツで誕生したソフトウェアメーカーの日本法人です。SAPは、エンタープライズアプリケーションとビジネスAIのグローバルリーダーとして、ビジネスとテクノロジーの融合を推進しています。50年以上にわたり企業と共に歩み、進化を続け、財務、調達、人事、サプライチェーン、カスタマーエクスペリエンスなどのビジネスクリティカルな業務を統合し、お客様のビジネスを成功へと導く支援をしています。

現在では、企業の運営において、さまざまなSaaSを活用することは当たり前になっています。そのジャンルはさまざまで、経理や人事などの経営関連業務から、営業や開発、マーケティングなどの事業部門まで、多種多様なソリューションが、多くの企業で導入されています。ここで問題となるのが、その連携です。

営業支援システムでの情報が経理システムに連携していれば、受注発生時点で経理部門に情報が受け渡され、完了時に自動で請求書の発行が行われることになります。しかし、現実には、なかなか、そうはいきません。そもそも連携していないのです。データ形式が異なるなどの理由で、一度紙にプリントアウトして共有する、経理部門はその資料を見てデータを手で打ち込む。そんなアナログな作業が残っているケースもあるのです。

SAPの特徴は、そのアナログ業務の解消、多種のSaaSを連携させること、それらを一元化することにあります。

SAP NOW Japan

今回の「SAP NOW Japan Bring out the best in your business」ではその導入した企業によるレポートや最新テクノロジーなどが紹介されました。会場では数多くのセッションが実施され、来場者はそれぞれの興味があるセッションに積極的に参加、人気があるセッションは予約で席が埋まっているほどでした。ただ、見て回るのではなく、積極的に情報収集にあたる参加者が多いように感じられ、SAPジャパンのソリューションへの興味の高さが感じられました。

以下では、その一部を紹介していきます。

「Fit to Standard」を合言葉に、短期間ハイコストパフォーマンスで導入に成功 ~コアコンセプト・テクノロジー社の導入事例〜

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まず紹介するのは、株式会社コアコンセプト・テクノロジー(CCT)の導入事例。セッションで登壇されたのは、同社社長室のマネージャー 井草 岳仁氏です。

CCTは、製造業のDX支援とIT人材調達支援を事業の軸とし、2009年の創業以来、順調に成長を続けています。15期連続の増収増益を実現し、創業期、発展期を終えて、現在は拡大期にあたると考え、さらなる成長を目指しています。2024年12月期の予想では、売上高208億円を見込み、従業員数も500名になろうとしています。

同社では、社内全体のSaaS導入にあたって、まず「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」を中心に構成していくことを決めました。SaaSで基幹システムまで構成することに関して、井草氏は4つのメリットがあったと紹介しました。

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「運用面では、サーバ管理のコスト、人的リソースの削減が見込めること、機能面では市場で高く評価されている、継続的に改善され続けている優れた機能を自社開発せずに導入できる点が、SaaSの大きなメリットだと考えました。また、自社開発するよりも相当低コストで導入できる点や、導入スケジュールも短期間になることを期待できるなど、SaaSのメリットは大きいと感じました」(CCT 井草氏)

次に、数あるSaaSから何を導入するかを選択する観点ですが、まず「市場シェアが高いこと」が大きく影響したそうです。市場シェアが高いということは、すでに導入している企業の評価が高いこと、「業界のデファクトスタンダード」たり得る、優れた機能を有することを示していると考えたのです。

次に、業務ごとのSaaS選択のポイントとしては、社内の業務を大きく2つに分類したといいます。

「DX支援、IT人材調達支援といった事業は、当社の強みそのものです。この業務があってこそ、企業の競争力を生み出しています。一方の管理業務、いわゆる経理や会計、人事といった業務については極めて重要である一方、他社と大きな差異はありません。この2つを分けて考えることにしました」(CCT 井草氏)

そこで、事業に関わる分野では、「自社の業務の強みを最大化するために、カスタマイズできることが前提」でSaaSを選択、管理業務領域では「業界のスタンダードに合わせる」=「Fit to Standard」を基本の考え方として、導入を進めました。

多くのSaaSを導入する中で、「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」が中心に置かれた背景は次のとおりです。

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まず、求められる機能に対して「充足度が高い」こと。次に、成長戦略の観点から「今後の事業展開において、求められるであろう機能を備えていること」が大きかったそうです。そして、ガバナンスの面では、すでに多くの上場企業で導入されている「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」は、最も多くの監査を受けているシステムであり、信頼が置けることが大きかったと指摘しました。最後の4つ目の要素として「標準機能の範囲でさえ、設定の柔軟性や制度変更への対応、法的要件への対応が可能であることなど、内部要因、外部要因の変化への対応力が高いこと」を挙げました。

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最後に井草氏は、2023年1月に始まった「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」の導入プロジェクトが、2024年1月に導入完了と一年余りで完了できたスピードも期待通りだったと語りました。そして、スケジュールの中では、最初の半年、特に「社内業務の再設計」の期間が極めて重要だったと指摘しました。

グランドキーノート SAP Business AIが実現する新たなビジネス変革

次に、グランドキーノートセッションから、セッション内容を紹介します。グランドキーノートでは、最初にSAPジャパン代表取締役社長の鈴木洋史氏とSAP Asia Pacific Japan プレジデントのポール・マリオット氏が登壇、「最高なビジネスの実現~ Bring out the best in your business ~」と題して、SAPの事業戦略を紹介しました。

続いて登壇したのが、SAP SEのChief AI Officer フィリップ・ハーツィク博士です。本稿では氏の講演内容を少し詳しく紹介します。

フィリップ・ハーツィク博士は「SAP Business AIが実現する新たなビジネス変革」と題して、Business AIの可能性と現状について語りました。

まず、eスポーツチームである「Team Liquid」がSAP Business AIを活用していること、チームの意思決定において、欠かせないソリューションとなっていると紹介しました。これは何も特別なことではなく、多くの顧客の中の一例に過ぎないとして、「いまやAIはBusinessで不可欠になっている」と強調しました。

いま、SAPが注力しているのが「Joule」。「Joule」は、アプリケーション組み込み型の生成AIアシスタント/コパイロットです。自然言語によるユーザーの問い合わせに応じて、SAPやサードパーティのデータソースに基づく分析やレポーティング、レコメンデーションを行うことが可能になります。

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「すでに70を超える生成AIのユースケースが用意されている。例えば、お客様からの問い合わせに対してリクエストや発言の背景にある感情を分析し、メールなどで適切な回答を返す。この生成AIの活用によって、サービス担当者の生産性が14%向上したという報告があります」(SAP フィリップ・ハーツィク博士)

また企業のESGレポート作成において、数秒でドラフトを作成してくれるため、ESGレポートの作成における手作業が80%も削減されたというケースも報告されているそうです。

さらにフィリップ・ハーツィク博士は、「Joule」はERPのユーザーエクスペリエンスを一新させると語りました。そして、本年度の下半期だけでも多くの機能が追加されると報告しています。

特徴的なポイントとして「文書グラウンディング」を挙げました。これは、構造化データだけではなく非構造化データまで含めて、すべての文書を取り込んで、生産性を上げることを実現します。これを世界中のデータセンターで展開していくことで、さらなる生産性の向上を見込めるとしています。

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今後、注目するべきポイントとして、2つの生成AIの連携についても解説しました。それは「Joule」とMicrosoftの「Copilot」です。市場をリードするこの2つの生成AIが連携することで、ビジネス環境は大きく変革します。

Microsoft365上のデータ、ワークフローにJouleがアクセスすることが可能になり、またその逆も実現します。これによって、例えばTeamsでプロジェクトの予算について質問すると、Jouleを通じてSAPのERPすべてを参照した回答が返ってくることになります。従来であれば、ERP上の経営データとMicrosoft365は分離されていたため、Teamsではプロジェクト予算のデータが入力されていない限り、確認は困難でした。それが、一瞬で確認することが可能になるのです。

フィリップ・ハーツィク博士は、AIの可能性について、「AIはデータ次第」と語りました。そのうえで「SAP Business Technology Platform (SAP BTP)」の重要性を強調しました。

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生成AIのAIファウンデーションにおいて、SAP BTPの優れたポイントは、「最初からビルの20階くらいまでできているようなもの」と博士は語ります。通常の生成AIは3階建ての建物から始まって、AIファウンデーションを構築していきますが、SAP BTPなら、すでに多くのAIファウンデーションが蓄積されており、それを活かすことが可能のだというのです。

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最後に博士は、SAP BTPならば生成AIハブとして「22のオープンAIが活用できること」など、SAP Business AIの可能性について、強調して、セッションを終えました。

まとめ

キーノートセッションではその後、日本電気株式会社 取締役 代表執行役社長 兼 CEO 森田隆之氏が登壇、同社のコーポレート、トランスフォーメーションについて解説しました。

本イベントでは多種多様な事例セッション、ソリューション紹介セッションの他にも、EXPO AREAとしてスポンサー展示ブースが用意され、30社以上の展示が行われ、こちらも盛況でした。

SAPのソリューション紹介だけではなく、その導入事例、新規ソリューションの報告など、多彩な内容のセッション、展示が特徴的で、来場者も情報収集に熱が入った様子が印象的なイベントでした。

【関連リンク】
SAPジャパン https://www.sap.com/japan/index.html
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/

(提供:Koto Online